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再会②
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無事に婚姻届けも受理されて、正式に夫婦となった幸せを噛み締めながら、二人でまったりとお茶を飲んでいると、立ち入り禁止の森に何者かが侵入したとケビンは言った。
様子を見て来るからここにいるように言われたけれど、何だか胸騒ぎのする私は付いて行きたいとケビンにお願いした。「こういう時の私の勘は当たるの」そう言うと、しっかり結界を張ってケビンから離れないということを条件に付いて行くことを許可してもらった。
ケビンに連れられて向かった先は私がこの世界に転移したときに居た場所だった。
到着してもそこには誰も居らず、侵入者が移動したことが分かる。小さな声で呪文を唱えたケビンは、魔力の残滓を辿って侵入者の行き先を探っているようだった。
――私の時もこうやって湖まで辿って来たのかと感心する。残滓を辿って進んだ先はあの湖で、その畔には見覚えのある私がこの世で一番会いたくなかった人物がいた。
「ピエール殿下――」
思わず声を出してしまい直ぐに後悔する。慌てて口を塞いだけれど、静かな森の中でその声は思ったよりも大きく反響してしまっていた。
案の定私の声に気付いた人物は、こちらを振り返ると満面の笑みで私の名前を呼んだ。
私の元婚約者であるピエール第二王子殿下その人であった。
「アンジェリカ! 会いたかった。君を迎えに来たよ。さあ、一緒に帰ろう」
そう言って私の方へ歩いてくる殿下が、得体の知れないもののように恐ろしく感じて、思わずケビンの後ろに隠れる。それを私を見た殿下は、顔を真っ赤にして怒り「こっちに来い」と怒鳴り声をあげた。男性に大声で怒りをぶつけられることなど、婚約破棄されたあの場面でしか経験したことがない。怖くてケビンの服の裾を握る手に力が入ると、それに気付いた彼は安心させるように後ろ手に回した腕でポンポンと背中を叩いてくれた。その優しさで少しだけ平常心を取り戻すことが出来た。
「貴殿がアンジェリカをこの世界に異世界追放したという王子か?」
私を背に庇うようにしてケビンが訊ねると、殿下は再び胡散臭い笑顔を浮かべて叫んだ。
「貴様は誰だ? まあ良い。アンジェリカ、よく聞け。やはり私の妻に相応しいのは、身持ちの固いアンジェリカしかいない。さあ私と一緒に国に戻ろうではないか。そして戻ったらすぐに婚姻をするのだ!!」
一方的に婚約破棄を宣言した挙句、身一つで異世界に追放した癖に、今更何を言っているのだろうか? 怒りが沸々と沸き起こるのを感じる。
「殿下、貴方にはネトリ男爵令嬢がいらっしゃるではありませんか」
何とか怒りを堪えて、努めて冷静な声を意識して私がそう言うと、醜く表情を歪めた殿下は語りだした。私を異世界に追放してからのことを――。
殿下の話は聞いていて胸糞の悪くなる内容だった。
私を異世界に追放した後、第二王子であるピエール殿下は、新しい婚約者にネトリ男爵令嬢を据えようとしたのだそう。しかし、当然ながら私の実家であるウォールナッツ侯爵家を筆頭にした高位貴族たちからは抗議の声が上がった。
さらには国王陛下と侯爵家で決めた縁談を独断で破棄した上に、私を異世界に追放したことで責任を問われ王族から除名されたらしい。
身分を失った殿下は、ネトリ男爵家に婿に入るならば貴族のままでいられると、愛するビビアン嬢の元へ向かい結婚しようとプロポーズをした。しかしビビアン嬢は、王子ではなくなった殿下は要らないと言ったのだ。
「王子でなくなったあなたに私が靡くとでも? 地位だけが唯一の取柄の男が、その身分を失っても以前と同じように愛されると本気で思っているわけ?」
「なっ何を言うっ!?」
「私は私を幸せにしてくれる男を選ぶだけよ。何にもなくなったあなたはもう要らないの。早く私の目の前から消えてちょうだい」
そしてその場で、かつてはピエール殿下の側近であった伯爵家の子息を伴って屋敷の中に消えて行った。愕然とする殿下は男爵家からも追い出されてしまった。
そこで自分がビビアンに騙されていたということに気付いた。
絶望に打ちひしがれた殿下は酒場でやけ酒を呷っていた。そんな中、居場所を失いこれからの自分の行く末を案じて憂いていた殿下に手を差し伸べたのは教会だった。
教会に身を寄せ聞かされた事実は、殿下の想像を遥かに超えたビビアンの奔放さだった。
王子であるピエール殿下との仲が進展するまでに、同じ学校の高位貴族の子息たちを次々と虜にして、側近たちもすっかり彼女の言いなりになっていたのだ。
婚約者との仲は良好だったけれど、殿下が距離を縮めようとすれば口付けを拒まれ、婚姻するまでは清いままでいたいと言う私の気持ちを尊重しつつも寂しく感じていた。そんな殿下に近付いた彼女は、「好きな人に触れたいと思うことの何がおかしいの? 好きなら拒んだりしないはず」と言ったそう。私が殿下の口付けを拒んだのは、「きっとピエール様に気持ちがないからに違いないわ」と断言して、「自分ならピエール様にそんな寂しい思いをさせることはないし、愛してあげられるのに」と自分から殿下の唇に口付けたらしい。
そこから殿下が彼女に依存して夢中になるまではあっという間だった。彼女は求めに応じて触れ合いを許してくれる。それこそが愛なのだと彼女から囁かれて、いつからか閨事を共にすることも増えた。身体を重ねれば重ねるほど、私との間に気持ちはないのだという想いが強くなった。
そして彼女の言う、私が彼女に嫌がらせをしているという言葉を鵜呑みにして、確認もせずに私を断罪してしまったと――。
様子を見て来るからここにいるように言われたけれど、何だか胸騒ぎのする私は付いて行きたいとケビンにお願いした。「こういう時の私の勘は当たるの」そう言うと、しっかり結界を張ってケビンから離れないということを条件に付いて行くことを許可してもらった。
ケビンに連れられて向かった先は私がこの世界に転移したときに居た場所だった。
到着してもそこには誰も居らず、侵入者が移動したことが分かる。小さな声で呪文を唱えたケビンは、魔力の残滓を辿って侵入者の行き先を探っているようだった。
――私の時もこうやって湖まで辿って来たのかと感心する。残滓を辿って進んだ先はあの湖で、その畔には見覚えのある私がこの世で一番会いたくなかった人物がいた。
「ピエール殿下――」
思わず声を出してしまい直ぐに後悔する。慌てて口を塞いだけれど、静かな森の中でその声は思ったよりも大きく反響してしまっていた。
案の定私の声に気付いた人物は、こちらを振り返ると満面の笑みで私の名前を呼んだ。
私の元婚約者であるピエール第二王子殿下その人であった。
「アンジェリカ! 会いたかった。君を迎えに来たよ。さあ、一緒に帰ろう」
そう言って私の方へ歩いてくる殿下が、得体の知れないもののように恐ろしく感じて、思わずケビンの後ろに隠れる。それを私を見た殿下は、顔を真っ赤にして怒り「こっちに来い」と怒鳴り声をあげた。男性に大声で怒りをぶつけられることなど、婚約破棄されたあの場面でしか経験したことがない。怖くてケビンの服の裾を握る手に力が入ると、それに気付いた彼は安心させるように後ろ手に回した腕でポンポンと背中を叩いてくれた。その優しさで少しだけ平常心を取り戻すことが出来た。
「貴殿がアンジェリカをこの世界に異世界追放したという王子か?」
私を背に庇うようにしてケビンが訊ねると、殿下は再び胡散臭い笑顔を浮かべて叫んだ。
「貴様は誰だ? まあ良い。アンジェリカ、よく聞け。やはり私の妻に相応しいのは、身持ちの固いアンジェリカしかいない。さあ私と一緒に国に戻ろうではないか。そして戻ったらすぐに婚姻をするのだ!!」
一方的に婚約破棄を宣言した挙句、身一つで異世界に追放した癖に、今更何を言っているのだろうか? 怒りが沸々と沸き起こるのを感じる。
「殿下、貴方にはネトリ男爵令嬢がいらっしゃるではありませんか」
何とか怒りを堪えて、努めて冷静な声を意識して私がそう言うと、醜く表情を歪めた殿下は語りだした。私を異世界に追放してからのことを――。
殿下の話は聞いていて胸糞の悪くなる内容だった。
私を異世界に追放した後、第二王子であるピエール殿下は、新しい婚約者にネトリ男爵令嬢を据えようとしたのだそう。しかし、当然ながら私の実家であるウォールナッツ侯爵家を筆頭にした高位貴族たちからは抗議の声が上がった。
さらには国王陛下と侯爵家で決めた縁談を独断で破棄した上に、私を異世界に追放したことで責任を問われ王族から除名されたらしい。
身分を失った殿下は、ネトリ男爵家に婿に入るならば貴族のままでいられると、愛するビビアン嬢の元へ向かい結婚しようとプロポーズをした。しかしビビアン嬢は、王子ではなくなった殿下は要らないと言ったのだ。
「王子でなくなったあなたに私が靡くとでも? 地位だけが唯一の取柄の男が、その身分を失っても以前と同じように愛されると本気で思っているわけ?」
「なっ何を言うっ!?」
「私は私を幸せにしてくれる男を選ぶだけよ。何にもなくなったあなたはもう要らないの。早く私の目の前から消えてちょうだい」
そしてその場で、かつてはピエール殿下の側近であった伯爵家の子息を伴って屋敷の中に消えて行った。愕然とする殿下は男爵家からも追い出されてしまった。
そこで自分がビビアンに騙されていたということに気付いた。
絶望に打ちひしがれた殿下は酒場でやけ酒を呷っていた。そんな中、居場所を失いこれからの自分の行く末を案じて憂いていた殿下に手を差し伸べたのは教会だった。
教会に身を寄せ聞かされた事実は、殿下の想像を遥かに超えたビビアンの奔放さだった。
王子であるピエール殿下との仲が進展するまでに、同じ学校の高位貴族の子息たちを次々と虜にして、側近たちもすっかり彼女の言いなりになっていたのだ。
婚約者との仲は良好だったけれど、殿下が距離を縮めようとすれば口付けを拒まれ、婚姻するまでは清いままでいたいと言う私の気持ちを尊重しつつも寂しく感じていた。そんな殿下に近付いた彼女は、「好きな人に触れたいと思うことの何がおかしいの? 好きなら拒んだりしないはず」と言ったそう。私が殿下の口付けを拒んだのは、「きっとピエール様に気持ちがないからに違いないわ」と断言して、「自分ならピエール様にそんな寂しい思いをさせることはないし、愛してあげられるのに」と自分から殿下の唇に口付けたらしい。
そこから殿下が彼女に依存して夢中になるまではあっという間だった。彼女は求めに応じて触れ合いを許してくれる。それこそが愛なのだと彼女から囁かれて、いつからか閨事を共にすることも増えた。身体を重ねれば重ねるほど、私との間に気持ちはないのだという想いが強くなった。
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