そして、アドレーヌは眠る。

緋島礼桜

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第一篇 ~銀弾でも貫かれない父娘の狼~

1話

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 草木の一本さえ生えていない寂びた荒野。
 そこを走り続ける一台のバイク。
 乾燥しきった冷たい風が露出している皮膚へと突き刺さっていく中、バイクを運転する男は時折後ろに気遣いながらハンドルを握っていた。
 男の後ろには小さな子供の姿があった。
 幼気なその子供は、懸命に健気に、男の腹をしっかりと抱きしめている。
 と、突如。
 何処からともなく爆発と思える大きな音が轟いた。
 音を聞いた男は慌てる様子もなくブレーキを掛け、片足を地面に付ける。

「仕事だな」

 そう呟き、彼はバイクを今来た道へと転換させる。
 漆黒のヘルメットから覗くその双眸は、標的を睨むかのようにギラリと輝いている。
 彼の後部に座る子供もまた白色のヘルメットを被り、無言のまま男の背へと顔を埋めていた。






「まあこれで良いだろ」
「お、おい…今の爆音やばくねぇか?」
「大丈夫だって、アマゾナイトがこんな辺境まで遠路遥々やって来るってか? ありえないね」

 荒野のど真ん中でそう話し合うのは2、3人の男達だった。
 屈強な体の彼らは、自分たちとそう変わらない大きさの鉄片を、軽々と持ち上げ荷台へ運んでいた。
 その鉄片は所々錆びており、どうやら戦争時代に使われ捨てられた兵器の成れの果てのようだった。
 また、別の個所には今出来たばかりの焼け焦げた跡もある。
 先ほどの爆発音は“これ”を運びやすくするため破壊した音、というわけであった。

「そそ、それより早く運んじまおう。リンダが脅えちまってる」

 そう言いながら御者台から降りる男は、四頭いる馬の一頭の首を優しく何度も撫でる。
 すると別の男が「なんで馬のために急がにゃならん」と、御者の男は理不尽な拳骨を喰らった。
 激痛に頭を押さえつつも「こいつはデリケートなんだよ!」と、引き続き叫び訴える。
 そんな男を他所に、他の男達はさっさと元兵器を荷台に乗せ終えると自分たちも慌ただしく乗り込んだ。

「よし、急げよ!」

 リーダー格の男がそう叫ぶも、何故か馬車は走り出さない。
 男は御者台に戻った男へ怒号を上げた。

「おい、どうした!?」

 御者の男は馬へ手綱を叩くことも忘れ、眼前へと迫りくる一台のバイクを見つめていた。
 それは“例のエネルギー”が使用されていると思われる、最新技術の乗り物だった。

「やべぇ―――」

 黒く彩られたバイクは止まる気配を見せず、馬車目掛け一直線に走ってくる。
 御者の男が吃驚して叫ぶよりも早く―――男達がナイフや斧を構えた頃には、バイクは彼らの頭上を飛び越えていた。

「アマゾナイトのか!?」
「いや、軍のものじゃねえだ!」
「ってことは…狩人ハンターか!」

 男達は動揺しながらも後方で着地をするバイクを睨みつつ、手にしていた武器を急ぎ身構える。
 その場でバイクを止めた男性はそれに跨ったまま、何をするわけでもなく静観している。
 一方でバイクの後部席にいる子供は、小さい身体を更に小さくさせて震えているようだった。
 そんな子供を見つけた男の一人が直後、口角をつり上げさせ叫んだ。

「はっ……お、おい見ろよ! こいつ子連れだぜ!」
「へっ…へへへっ。子連れの狩人ハンターってよ…観光か何かと勘違いしてんじゃねえの、笑えるぜ」

 口々に笑い飛ばし、バイクに跨る男性を貶す。
 が、その嘲笑―――正しくは子連れを罵ったことが、彼の癇に障ったらしく。
 次の瞬間、バイクに乗っていた男性は懐から“それ”素早く取り出し男達に向けて構えた。

狩人ハンターならコイツが許可されてるってのも解ってんだろうな、てめえら」
「じゅ、じゅじゅじゅ銃だぁッ!?」

 御者の男は恐怖から上ずった声で叫ぶと頭を押さえ、その場で蹲ってしまう。
 そんな男を後目に、狩人ハンターはバイクから降り、その銃口を別の男たちに突き付けた。

「てめぇらのしたことは、兵器所持法・回収法違反だ。それも解ってんだろう?」

 胸元にそれを押し当てられた男は静かに両手を上げ、小さく頷く。
 が、怯えていたはずの顔は次の瞬間。
 歪な笑みと変わる。

「へへへっ―――全部解ってるに決まってんだろうが」

 カチャリという冷たい銃器の音が傍らから聞こえた。
 音のした方へ狩人ハンターの男性が顔を向けると、そこにはバイクに乗ったままであった少女へ銃を突きつける男の姿があった。







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