28 / 365
第一篇 ~銀弾でも貫かれない父娘の狼~
26話
しおりを挟むすると、それらの店名全てが闇言順という暗号で構成されている事が分かり、更にその暗号の意味からどんな闇商売を営んでいたかを示唆していた。という事実も発見された。
「ど、どうして今まで気がつかなかったんですか!?」
「しょーがないだろ? 売人同士の商談でしか使われてないと思われていたし、闇言順自体、たった数年と経たない内に使われなくなったって話だし…」
ハイリに責められ、彼女を宥めながらそんな言い訳を洩らすブムカイ。
と、揉め合う二人を「それより今は解読が先っす」とリュ=ジェンが制止する。
意外な人物に正論を言われ、冷静さを取り戻したハイリは僅かに顔を下げながら「すみません」と謝罪する。
「それで闇言順で解読するとなんという文字が並ぶんですか?」
「はい! アーサガさんの言い残したという『奈落を交わす場所』をこの闇言順で訳すると……『奈落』は『シ』、『交わす』が『ェ』、そして場所が『ラ』になるっす」
シ・ェ・ラ。
その名の付いた店へ、アーサガは向かったとされる。
すぐさま手持ちの地図を広げ、ハイリはその一点を指した。
「ありました、シェラと名のつく店が! カラメル街道の西側にあります」
ブムカイとハイリはほぼ同時に立ち上がり、彼を追うべく動き出す。
彼の向かった先に、間違いなく襲撃事件の犯人がいると推測されるからだ。
「ハイリ君! 君は今直ぐ現場へ向かってくれ! 俺も後から行く」
「はい!」
「あの、自分は…?」
「君は引き続きナスカちゃんのお守りよろしく!」
がっくりと肩を落すリュ=ジェンを横切り、二人は部屋を飛び出ようとした。
が、数秒間停止した後、急ぎ元の位置へと戻る。
そして、二人同時にリュ=ジェンの肩をきつく握った。
「一つ聞きますけど、どうして闇言順に気付いたんですか?」
「あ、いや…実は……ナスカちゃんが『奈落を交わす場所』って『しぇら』って意味なの? って聞かれて…そんな意味なわけないって考えてたらこの暗号のことを思い出したんす」
そう言って苦笑いを浮かべるリュ=ジェンに対し、ブムカイとハイリはほぼ同時に頭を抱えた。
「それってつまり、ナスカちゃんは『シェラ』って単語も耳にしてたってことじゃんか…何でそこに気付かん?」
「ああ!」
両手をぽんと叩いて目を見開くリュ=ジェン。
そんな彼へため息をつきつつ、ハイリはもう一つ気になっていたことを彼に尋ねる。
「それでナスカちゃんはどうしたんですか。お守り役なのにこんな場所にいて…」
「え…解読に気付いて、解読表を探しに行こうとしたときにはいなくなってて…でもついさっきのことなんで。多分トイレかと…」
ブムカイが握った拳よりも早く、ハイリの平手がリュ=ジェンの頬へとぶち当たった。
すぐさま頬は紅く腫れていき、驚きに呆然とする彼らをしり目に、彼女は部屋を飛び出していった。
階段を一階分降りた先、その一室にナスカは居るはずであった。
しかし、開きっぱなしの扉の向こうに、彼女の姿はなく。
勿論トイレや周辺にもナスカの姿はなかった。
「ハイリ副隊長!」
と、基地の入口から駆けてくる部下に気付き、ハイリは足を止める。
「門番兵が先ほど、ナスカ嬢らしき少女に道を尋ねられたと言っていまして…」
「道を…?」
「はい。シェラという場所への道です。教えた後で門番兵がナスカ嬢だったのではと思い報告をしてきたようで―――」
ぐらりと、倒れてしまいそうな程の眩暈に襲われるハイリ。
何とか気を保ちつつ、彼女は深呼吸を繰り返す。
任務の失態。
責任重大な失敗。
しかし今の彼女にとってそれは些細な問題でしかなかった。
それ以上にハイリは、たった一人飛び出してしまった父親の傍を離れられない少女の身を案じ、その不安で押しつぶされそうでいた。
(父親を探しに行ったに違いない……ナスカちゃん…!)
0
あなたにおすすめの小説
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ひめさまはおうちにかえりたい
あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)
王冠を手に入れたあとは、魔王退治!? 因縁の女神を殴るための策とは。(聖女と魔王と魔女編)
平和な女王様生活にやってきた手紙。いまさら、迎えに来たといわれても……。お帰りはあちらです、では済まないので撃退します(幼馴染襲来編)
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる