172 / 365
第二篇 ~乙女には成れない野の花~
100連
しおりを挟む「…お前は…どうしてこんな酷いことを吐き捨てている奴にそんなことが言える…?」
顔を顰めたまま、フェイケスはエミレスを見つ返す。
「傷ついたんだろう、憎んだろう、恨んだろう……なのに、何故そんな奴に…感謝が言える?」
フェイケスにとって、それは純粋な疑問だった。
彼はエミレスに恨まれて当然だと思っていた。
いっそのこと、憎悪の限り罵詈雑言を浴びせてくれた方が、気が楽だった。
「苦しい想いは確かに沢山あるわ。けれど、貴方に出会えたから…こんな失恋を知れたから……私はようやく、変われそう……だから、その感謝…」
エミレスが無理やり微笑むほどに、フェイケスの顔は顰められていく。
と、彼はエミレスの肩に触れた。
その意外な行動に、エミレスは驚く。
「―――俺はお前を絶対に認めない」
次の瞬間。フェイケスは力任せにエミレスを押し飛ばした。
バランスを崩しエミレスはその場に倒れ込む。
一連の動作を見ていた兵士たちは透かさずフェイケスに駆け寄り取り押さえた。
抵抗することなく、彼は後ろ手に拘束される。
「無様で愚かな女だ、囚われ呪われた感情と力を抱き続け生き続けることに『ありがとう』と許すとは……もっと素直に俺を、全てを憎み呪えば良いだろうに…!」
その口には猿ぐつわとして布が宛がわれた。
それ以降のフェイケスの言葉は、何を叫んでもエミレスに届くことはなくなった。
駆け寄って来たラライの手により起き上がったエミレスは、それでも笑顔を作り言った。
「さようなら…私の愛しい人」
兵士たちにより連行されていくフェイケス。
その何とも惨めで哀し気な背中を見送るエミレスに、ラライは寄り添う。
「―――エミレス…」
無言でいる彼女へ、ラライはなんと言えば良いのかわからなかった。
だが、兎に角何か言葉を出そうとした。
「あー、その…何だ…多分、アイツは…色んなしがらみがあるからこそ、お前の気持ちには答えられなかったんだろう」
それはあくまでもラライの憶測だった。
フェイケスはとても不器用な男だったのだろう。
燻っていた己の感情について、とっくに彼は気付いていたのだろう。
だが、彼はその感情を『妬み』へとすり替えてみせた。
罵声を浴びせ、エミレスに憎まれることで自分と決別させたかったのだろう。
いつまでもエミレスが自分に囚われ続けないようにと、思ったのだろう。
しかし、結局はそんな不器用な想いも彼女には通用しなかった。
何せ、後ろ手に拘束されているフェイケスのその手には、未だエミレスが手当したハンカチが巻かれたままであるのだから。
「…だがな、きっとエミレスの想いは届いている。それだけは間違いないさ」
それはあくまでもラライの勝手な考えだ。
その真相については、本人のみしか知らない。
と、おもむろにエミレスがラライへと振り向いた。
自分の中でやっとけじめがついたのだろう。
その瞳からは涙が零れていた。
そして、その顔を隠すようにラライに抱きついた。
驚くラライを他所に、彼女はか細い声で言った。
「ごめんなさい…絶対、泣かないって決めてたのに…」
ラライは何も応えなかった。
その代わり、優しく彼女を抱きしめた。
両手をそっと包むように、エミレスの背中を抱きしめた。
こうして、後に『白装束の卒爾』と呼ばれることになる王城襲撃事件は幕を閉じた。
首謀者リョウ=ノウは自決し、フェイケスとベイルは取り押さえられた後、国王が直に裁いた。
難攻不落と謳われていた王城や人々には大きな傷跡と衝撃を残した大事件ではあった。
が、時が経つと共にそれは、次第に人々の記憶から薄れていく。
―――時は、かの事件から1年が経った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
繰り返しのその先は
みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、
私は悪女と呼ばれるようになった。
私が声を上げると、彼女は涙を流す。
そのたびに私の居場所はなくなっていく。
そして、とうとう命を落とした。
そう、死んでしまったはずだった。
なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。
婚約が決まったあの日の朝に。
ひめさまはおうちにかえりたい
あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)
王冠を手に入れたあとは、魔王退治!? 因縁の女神を殴るための策とは。(聖女と魔王と魔女編)
平和な女王様生活にやってきた手紙。いまさら、迎えに来たといわれても……。お帰りはあちらです、では済まないので撃退します(幼馴染襲来編)
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる