そして、アドレーヌは眠る。

緋島礼桜

文字の大きさ
302 / 365
第四篇 ~蘇芳に染まらない情熱の空~

52項

しおりを挟む
    







っていうのは今から十年前のことで…その頃はレイラとキースもこのシマの村で暮らしていて…皆兄妹みたいにずっと毎日一緒だった」 

 異様に静かだと感じる食堂内。その窓からは僅かに月明かりが零れる。
 ソラは椅子に座り、じっとテーブルを見つめながら、を思い出しながら語り始める。
 そんな彼女の様子をロゼは静かに見つめ、話しを聞いていた。







 ―――十年前。
 六歳だったソラはその当時、波乱万丈の人生を送っていた。
 彼女が五歳だった頃、王都で仕えていた父と母がようやくとそのお役目を終え、祖父母に託していたソラたちのもとへ―――シマの村へと帰ってきた。
 だが、間もなくして入れ替わるように兄が王都へ行ってしまい、祖父母も思い残すことはないとばかりに相次いで病死してしまった。
 両親と暮らせるようになったものの、祖父母との死別、最愛の兄との別れ。
 それらによって激しい孤独感に襲われたソラ。
 その辛さから酷く落ち込んでいた時期もあったが、そんな彼女の心の支えになったのがカムフたちだった。
 もう一人の兄とも呼べた面倒見の良いカムフに、何かと突っかかってくるが決して嫌いにもなれない似た者同士のレイラ。そして末っ子のようでいて誰よりもしっかり者のキース。
 三人がいつも一緒にいてくれたからこそ、ソラは元通りの明るさを取り戻せたのかもしれない。三人には感謝してもしきれない恩も感じていた。
 だがその恩返しは今でなくとも良いんだと、ソラは思っていた。いつの日かゆっくりと恩を返せばいい。なにせカムフ、レイラ、キースとはこれからもずっとずっと一緒なのだから。
 ソラはそう信じていた。





 そんなある日のことだった。
 夏が始まろうとしていた時期。突然レイラとキースがソラの家へやって来た。
 彼女は満面の笑みを見せつけると意気揚々とこう言った。

「明日からおじいちゃんとおばあちゃんと一緒にお父さんとお母さんに会いに行ってくるわ!」

 良いでしょと、自慢げに語るレイラ。
 当然、レイラの自慢話を聞かされてソラの顔色は曇っていく。
 ソラはこれまではこの時期になると兄やカムフと共に南都市ユキノメや王都へ遊びに行っていた。
 だが、兄が王都へ働きに出ていってしまったため、昨年からそれも出来なくなっていた。
 そういった事情もあってか、ソラはレイラの自慢がより一層と気にくわなかった。

「ユキノメに行ってから今年は王都にも遊びに行くのよ?」

 レイラとキースの両親は商人であり、王国の各地を巡っている。そのため祖父母に預けられている身だった。境遇はソラとほとんど変わらない。
 だが、それでもソラから見れば彼女たちが羨ましくて悔しく見えていた。
 祖父母も元気で、両親と、家族皆と旅行に行くというレイラたち。
 片や自分ソラは両親とは暮らせるようになったものの、祖父母とはもう二度と会えない。何よりも大好きだった兄とも早々会えない。一緒に旅行へ行くことも遊ぶことも出来ない。
 そんな鬱屈した稚拙な思いが、ソラにつまらない意地をはらせた。妬ませてしまっていた。

「だからさ…よかったらアンタも一緒にさ―――」
「いい! そんなの一緒に行ってもつまんないもん!」

 ムキになって怒声を上げるソラ。
 その態度に気分を悪くするレイラ。
 それはいつもの、ケンカへと続く流れでもあった。

「何でつまんないってことないじゃない!」
「つまんないもんはつまんない!」

 二人は互いに睨み合い、牙を剥く。
 いつもならば仲裁役としてカムフが割り込んで犠牲となるわけだが。あいにく此処に彼はいない。
 予定外の展開にキースはオドオドと戸惑うことしか出来ない。

「お、お姉ちゃん…もう止めなよ…」
「なにさ! せっかく旅行に行けないだろうから誘ってあげようと思ったのに…!」
「うるさいうるさいっ! さっさと行ってくればいいじゃん! おみやげもいらないからっ!」

 ソラは顔を真っ赤にさせてレイラを突き飛ばすと、思いっきり扉を閉めた。
 扉を閉められたレイラとキースはその後も暫くは叫んだり怒鳴ったり、時折ぼそぼそと何か言っていたりしていたが。
 やがて空が曇り始めたせいか静かに帰っていった。






     
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

処理中です...