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第四篇 ~蘇芳に染まらない情熱の空~
77項
しおりを挟む「カムフ! おお…その軍人さんは…?」
カムフとジャスティンが村の中心部に行くと、そこには村の男たちに紛れてノニ爺の姿もあった。
どうやら村の者たちが避難していたその間も一人先達て消火活動をしていたらしく。その姿は全身煤塗れであったが怪我をしているようではなかった。
「私はアマゾナイト南方支部総隊長補佐官ジャスティン・ブルックマンだ。緊急通信を受け馳せ参じた。して状況は…?」
「見ての通り思ったより村の被害は少ないようじゃ。怪我人も大したほどではない…雨も降ったことで奇跡も奇跡じゃな」
そう言ってノニ爺は視線を村の光景へと向ける。
確かに村の中は奇跡的にも被害は少なく。民家に移る一歩手前―――近くの木々や柵を燃やした辺りで鎮火されていた。
「しかし…これが灰燼の怪物のやり口だ。標的ではなくその周囲から…逃げ道を削ぐかのように焼き尽くしていく」
ジャスティンはそう呟くと周囲を見渡す。村人たちには気付かれないよう、その携えた剣を握り締めたままに尋ねた。
「ちなみに…無事だった者はこれで全てか? 少女……逃げ遅れている者などはいないか?」
「そういや…ダスクさんとソラちゃんを見かけてないな」
「誰かが避難誘導しに行ったと聞いたが…」
男たちがそう答える。
嫌な予感にカムフの鼓動は激しくなり、不意に胸を押さえた。
「カムフ! 思った以上に戻ってくるの早いじゃない!」
と、そんなところへ聞こえてきたのはレイラの声だった。
彼女は空のバケツを手にしたままキースと共に駆け寄って来た。
「雨が降ったから戻って来たの? って……アマゾナイトの人?」
「私はアマゾナイト南方支部総隊長補佐官ジャスティン・ブルックマンだ」
此処に来て既に何度目かのやり取りをするジャスティンを横目にカムフはレイラを見つめる。正しくは、二人と一緒に彼女も居ないかと確認するためだ。
が、しかし。そこに彼女の姿はなかった。
「レイラ…ソラは…?」
「まだ戻ってないのよ。それにロゼも…ねえ、もしかして二人共―――」
「おれが見に行って来る!」
レイラにその先の言葉を言わせないよう遮ると、カムフは踵を返し走り出した。
「ちょ、ちょっと!」
「大丈夫! ソラとロゼさんを連れて必ず帰って来るから!」
それはレイラに、というよりもカムフ自身に言い聞かせるための言葉のようだった。
カムフは拭い切れない胸騒ぎを振り払うかの如く、どしゃ降りの泥道を走っていく。
「待ちたまえ! 何があるか解らないというのに私より先陣を切るな!」
走り出して行ってしまったカムフを追うべく、ジャスティンもまた駆け出して行く。
「え…ま、待ってよ! アマゾナイトってアンタしか来てないの!?」
しかし、そんなレイラの声はジャスティンには届かず。彼女の叫びは虚しく木霊するだけで終わった。
村の外れ。ソラの自宅へと続く路をひたすらに走るカムフ。
いつもならば10分と掛からない距離なのだが、もう何十分も走っているかのような気分になる。
その鼓動の激しさも、走り続けているせいなのか胸騒ぎのせいなのかもカムフは解らなくなる。
と、そんなことを考えていたカムフの前方に、人影が近付いてきた。
「おじさん! 大丈夫でしたか!?」
「あ、ああ…俺は無事だ…だが……」
ダスクはそう言うと林道の更に奥を見つめる。その方角にはソラの自宅が―――その屋根が、炭と化した木々の隙間から窺えた。
「ソラたちはあっちなんですね! 解りました! 行ってみます!」
カムフはすぐさま彼女たちがいるだろう方へと駆けようとする。
だが、突如ダスクがカムフの腕を掴み、引き留めた。
驚いたカムフは思わず目を丸くしながらダスクへ振り返る。
「ソラを…頼む…!」
いつになく力強い言葉だった。
かつては英雄と呼ばれた男の迫力のせいか、カムフは無意識に息を吞み込み静かに頷いた。
そこでようやく腕は解放され、カムフは改めてソラたちを見つけるべく走り出した。
「ダスク・ルーノ殿! ご無事でしたか!」
カムフが飛び出していって間もなく、入れ替わるようにジャスティンがダスクのもとへと駆けつける。
急いでやって来たのだろう、息も切れ切れのジャスティンは大急ぎで呼吸を整える。
「ああ、君は確か…」
「はい―――アマゾナイト南方支部総隊長補佐官ジャスティン・ブルックマンです」
「そうだったな」
「現状について…粗方予想はついていると思いますが…」
「灰燼の怪物がやって来た」
その言葉にジャスティンは目を見開きながら眼鏡のブリッジを押し上げる。
「やはり…!」
「退けることは出来たが…捕えられんかった」
「では奴はまだそこらに…!」
静かに頷くダスク。
ジャスティンは迷うことなく剣の鞘を抜きその刃をギラリと輝かせる。
「ダスク・ルーノ殿は此処でお待ちを! 灰燼の怪物はこのジャスティン・ブルックマンが必ずや仕留めて参ります!」
「あ、おい…!」
ダスクが制止する声も聞かず、雄叫びを上げながらジャスティンは焼け焦げた森の中へと消えていってしまった。
また一人取り残されたダスクはその歯がゆさに、自身の太ももを叩いた。
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