336 / 365
第四篇 ~蘇芳に染まらない情熱の空~
86項
しおりを挟むロゼを追うため、セイランと会うため。エクソルティスへと向かったソラたち。
―――だが、しかし。
何とか南方都市にはたどり着けたソラたちは。早速思わぬ足止めを食らっていた。
「エ、エナバがなぁいッ!!?」
周囲に響き渡るような大声を張り上げたのはレイラだった。
彼女の金切り声に耳を塞ぐソラとカムフ、キース。
そんな三人の反応を後目に、レイラは集団移動用車乗り場の受付をしている男に掴みかかった。
「何でエナバがもう出発しちゃってんのよ? 発車時刻まで後5分もあるじゃない!?」
少女に胸ぐらを掴まれた受付の男は精一杯の苦笑を浮かべ、苦しそうな声を出しながら答えた。
「ま、まあ乗客がいないと判断した場合には…よくある、ことなので……」
「はあ? 5分くらい待っときなさいよ! それが仕事じゃないのよ!」
「も、申し訳、ございません!」
レイラに身体を揺さぶられ、ずれ落ちそうな眼鏡を守るべく必死に押さえている受付の男。
と、そんな彼に助け舟を出すように、カムフが制止に入った。
「まあまあ、落ち着けってレイラ。今の時間も時間なんだし…もう乗客は来ないだろうって判断しても無理はないって」
そう言うとカムフはおもむろに空を見上げた。
現在は夕方も過ぎ、夜へと変わる時刻だ。
この時間帯になると、集団移動エナ車でも半日近くも掛かってしまうエクソルティスを目指す者は早々おらず。
集団移動用車の運転手が早めに切り上げて発車してしまうのも仕方のない状況であった。
「けどさっきの最終便を乗り過ごしちゃった以上、今日はもうエナバ出ないってことなのよ? そうなると後はこのユキノメで宿を取るか、歩いて王都まで向かうしかないじゃないのよ!」
ここで足止めを食らっている間にも、ロゼはもう既にエクソルティスに辿り着いているかもしれない。そんな焦りがレイラを苛立たせているようで。
彼女はしきりに「どうすんのよ」とぼやきながら舌打ちを洩らしていた。
と、そんなレイラの両肩を、ソラは突然がっしりと力強く掴んだ。
「もう止め止め! ここで苛立ってるだけで時間潰す方がもったいないよ。とりあえず、出来る限りは徒歩で進んでさ、もう限界! ってなったら近くの町とかの宿で泊まればいいじゃん!」
意外にも落ち着いた様子で語るソラ。
実際のところ、彼女にも焦燥感も苛立ちもある。だが、そんなことよりも一刻も早く目的地へ向かいたいため、なるべく冷静に努めていたのだ。
が、しかし。そんな大人しい態度のソラに反して、レイラはご機嫌ななめのままだった。
「体力バカのアンタはそれでいいでしょうけどね、こっちはもうずっと歩き詰めで足はパンパンだしすっごく疲れきってんのよ? キースだって見なさいよ! くったくたな顔してすっごく疲れてるじゃない!」
レイラのケンカ腰な口振りに、それまで大人しくしていたソラもあっという間に耐え切れなくなってしまい。
即座に大声を張り上げて反論した。
「それはキースがレイラの荷物を代わりに運んでたからでしょーが! しかも邪魔な荷物をやっと家に置いてきたかと思えば…また新しい荷物増やして、結局プラマイゼロにしてんだもん! キースが可哀想じゃん!」
そう言い合いながら二人は後方のキースを同時に指差した。
南方都市で暮らすレイラとキースは一旦、荷物を置きに自宅へと戻った。
そして新たにエクソルティスへ遊びに行くのだいう適当な理由をつけて、両親たちから外出の承諾を得て来ていたのだ。
だが、その際に置いてきた荷物に代わって、レイラは新たにケース3つ分の荷物を持ってきたというわけだ。
「キースが紳士だから持ってくれてるの! それに知らないの!? レディの荷物は多いって決まってんのよ! アンタの片手荷物程度と一緒にしないでよね!」
「あ、あたしだってそれなりの荷物あるし! そもそも、荷物取り替えてた時間のせいでエナバに乗り遅れたと言ってもいいんだけどね!?」
「わたしのせいだっていうの!? どうみても時刻を守らずさっさと発車したエナバの方が悪いじゃない!」
気付けばいつも通りのいがみ合いが始まる始末。
カムフは頭を抱えながら深いため息を吐くと、これまたいつものように二人の仲裁に割って入っていった。
「まあまあ二人とも落ち着けって! ここで言い争っててもしょうがないのは確かだし……とりあえず、一旦腹ごなしに何処かの店にでも入ろうぜ? で、これからどうするかちゃんと方針を決めた方がいいって。な?」
カムフの提案にソラとレイラは口をへの字に曲げながらも渋々了承する。
そうして、ソラたちは騒がしいままに集団移動用車乗り場を後にしていった。
0
あなたにおすすめの小説
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる