妖精猫は千年経った今でも歌姫を想う

緋島礼桜

文字の大きさ
12 / 24
妖精猫は女性を怒らせた

その5

しおりを挟む
   






 妖精猫ケットシーと酒場のスタッフみんなが一丸となって『アサガオの誕生日を祝おう』という作戦を立てた日から―――半月後。
 とうとうその日がやって来ようとしていた。

「みんな…準備は良いわね?」

 マリンの合図に、妖精猫ケットシーとスタッフたちは大きく頷く。
 この日のために、みんなはアサガオには内緒で、コツコツと色んな準備をしていた。
 妖精猫ケットシーもその準備に参加したかったところではあったが。彼が関わると返って内緒ごとがアサガオにばれてしまいそうなので参加させてはもらえず。
 代わりにみんながちゃんと準備出来るように、妖精猫ケットシーはこれまで以上に酒場の仕事を進んでやっていた。
 苦手だった料理運びも、皿洗いもなんのその。まるで得意になったかのように、いつも以上にすいすい楽々と妖精猫ケットシーは仕事をこなしていた。
 それもこれも。全てはアサガオの笑顔のため、今日この日のためにだった。
 



「―――さあさあ、酒場へお越しくださったみな様方! 今夜もステキな歌と演奏のステージが始まるよ!」

 ステージに上がったマスターの言葉で始まるいつものショー。
 今夜もステキな歌や美しい演奏、楽しい一芸などが披露ひろうされていく。
 そうしてショーの最後になって登場するのが、この酒場の看板歌姫———アサガオだった。
 アサガオは今夜も、いつものようにステージの真ん前の席に座る妖精猫ケットシーへ、微笑みかけてくれることはない。
 他のお客に向けて、キレイな声で歌を歌っていた。



 彼女が歌い終わると、これまたいつものように拍手がわき起こり、そのステージへおひねりが投げ込まれる。
 そうしてアサガオは一礼こそすれど笑顔は見せず、ステージを去って行く。はずだった。

「アサガオちゃん待って!!」

 いつも以上に、大きな拍手よりも大きな声でアサガオを呼び止める妖精猫ケットシー
 いつも以上に真剣みを帯びたその声に驚いたアサガオは、思わず足を止めて妖精猫ケットシーの方へと振り返った。 

「アサガオちゃん―――お誕生日おめでとう!」

 振り返るアサガオへ妖精猫ケットシーがそう叫ぶと共に、もう一度拍手喝采が巻き起こる。
 それから、調理場の奥からは丸くて大きな、クリームがたっぷりと乗ったケーキが運ばれてきた。

「うそ…こんなお菓子生まれて初めて見た…!」
「そりゃあそうだ。こんな贅沢な菓子は王様か貴族様くらいしか食べられないんだからな!」

 そう言って得意げに笑ってみせるマスター。このケーキはマスターの力添えがあったからこそ、作ることの出来たプレゼントだった。
 初めて見た『ケーキ』に感動しているアサガオへ、今度はスタッフの代表としてマリンが花束を持ってステージに上がる。
 その花束はアサガオが大好きだという、色とりどりのバラで包まれており、これまたアサガオは大感激する。

「こんなにステキなプレゼント…ホント…夢みたい。ありがとう、みんな」
「フフフ…プレゼントはまだこれだけじゃないのよ…?」

 顔を真っ赤にさせて喜ぶアサガオ。そんな彼女を見て微笑むマリンはその手のひらを、真ん前の席で待っていた妖精猫ケットシーへと向けた。
 そこではプレゼントを持って妖精猫ケットシーが待っているはず。なのだが。

「にゃあにゃあ! とっても甘くて美味しそうな匂いがするよ! こんなお菓子はぼくも初めて見たよ!」

 と、生まれて始めてみるケーキに覗き込むように近寄ってみては、よだれをじゅるりと出しているところだった。
 
「まったくもう…貴方が行くのはこっちでしょ?」

 呆れた顔でそう言うとマリンは、急いで妖精猫ケットシーのもとへ近づき、その両脇を掴み上げてステージへと彼を乗せてあげた。
 ちょこんとステージに上がった妖精猫ケットシーは、我に返ると慌ててアサガオに向かってその両手を差し出した。

「にゃあにゃあ! お誕生日おめでとう、アサガオちゃん! 今頃になっちゃってごめんなさい。ぼくはアサガオちゃんもアサガオちゃんの歌もアサガオちゃんの笑顔もずっとずっと大好きです! だから…もう許して欲しいな…」

 頭を下げて差し出している彼の小さな両手には、いつの日かプレゼントしようとしてくれていた、とても美しく輝く真珠の付いたペンダントが置かれていた。

「まだ…持ってたの、これ…いらないって言ったのに…」
「にゃにゃ…ぼくにとってこれはアサガオちゃんに似合う一番のプレゼントだから…どうしても付けてもらいたいんだ」

 懸命にペンダントを差し出したまま、動かないでいる妖精猫ケットシー
 少しばかり迷っていた様子のアサガオは、しばらくだまっていたが。それから、静かにそのペンダントを受け取ってくれた。

「やったあ! 許してくれるんだね! アサガオちゃん!」
「…勘違いしないで…やっぱり、まだ許したくない。けど、可哀想だから一応もらってあげるだけなんだから」

 と、予想もしていなかったアサガオの言葉に妖精猫ケットシーは驚き、尻尾はぴんと硬直してしまう。

「ええっ!? まだダメなの…?」
「そうだね……これから毎年、毎回、誕生日にプレゼントをくれたら…あと十年くらいしたら許してあげるかな。アンタの十年なんて、あっという間なんでしょ…?」

 それはちょっと意地悪な、しかしようやく素直になったアサガオの妥協だった。
 だがアサガオの言葉の意図がわからず、妖精猫ケットシーは難しい顔をして腕を組む。

「まだ許してくれないの? けど、あと十年間、毎回誕生日プレゼントを忘れずに渡せば…許してくれるのかい?」

 困惑した様子の妖精猫ケットシーを見て、スタッフのみんなやお客たちはそれぞれ微笑んでいたり、苦笑していたりして二人を見守っている。

「十年間待ってやる、なんて…もう許してるのと同じだと思うけどね」
「本当にアサガオは素直じゃないんだから」
妖精猫ケットシーも、良かったな!」

 終始、彼女の言葉の意味がわからないと言った顔をしていた妖精猫ケットシーであったが、それでも今はアサガオがペンダントを受け取ってくれただけで大満足だった。

「とにかく! 次の年もその次の年も、そのまた次の年も…ずっとずっとアサガオちゃんの誕生日をお祝いすれば良いんだよね! そうしたら許してくれるんだよね、ぼくに笑ってくれるんだよね!」

 頷いて答えるアサガオに、妖精猫ケットシーは大喜びでその場を飛び跳ねたり頭の上で両手を叩いたりした。

「良かった、良かったよ!」
「あのね…まだ許してないって言ってるのに…」

 大はしゃぎでいる妖精猫ケットシーを見て、アサガオは思わず苦笑してしまう。
 ようやく見せてくれたアサガオの笑顔。
 しかし妖精猫ケットシーは残念ながら、彼女のその表情に気づくことはなく。

「にゃあにゃあ、それじゃあせっかくだし、みんなでケーキを食べようよ!」
「って、お前が仕切るんじゃねえよ」

 そう言って妖精猫ケットシーは酒場にいたみんなを和ませ、みんなを笑顔にしていた。






   
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さな歌姫と大きな騎士さまのねがいごと

石河 翠
児童書・童話
むかしむかしとある国で、戦いに疲れた騎士がいました。政争に敗れた彼は王都を離れ、辺境のとりでを守っています。そこで彼は、心優しい小さな歌姫に出会いました。 歌姫は彼の心を癒し、生きる意味を教えてくれました。彼らはお互いをかけがえのないものとしてみなすようになります。ところがある日、隣の国が攻めこんできたという知らせが届くのです。 大切な歌姫が傷つくことを恐れ、歌姫に急ぎ逃げるように告げる騎士。実は高貴な身分である彼は、ともに逃げることも叶わず、そのまま戦場へ向かいます。一方で、彼のことを諦められない歌姫は騎士の後を追いかけます。しかし、すでに騎士は敵に囲まれ、絶対絶命の危機に陥っていました。 愛するひとを傷つけさせたりはしない。騎士を救うべく、歌姫は命を賭けてある決断を下すのです。戦場に美しい花があふれたそのとき、騎士が目にしたものとは……。 恋した騎士にすべてを捧げた小さな歌姫と、彼女のことを最後まで待ちつづけた不器用な騎士の物語。 扉絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。

生まれることも飛ぶこともできない殻の中の僕たち

はるかず
児童書・童話
生まれることもできない卵の雛たち。 5匹の殻にこもる雛は、卵の中でそれぞれ悩みを抱えていた。 一歩生まれる勇気さえもてない悩み、美しくないかもしれない不安、現実の残酷さに打ちのめされた辛さ、頑張れば頑張るほど生まれることができない空回り、醜いことで傷つけ傷つけられる恐怖。 それぞれがそれぞれの悩みを卵の中で抱えながら、出会っていく。 彼らは世界の美しさを知ることができるのだろうか。

アリアさんの幽閉教室

柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。 「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」 招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。 招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。 『恋の以心伝心ゲーム』 私たちならこんなの楽勝! 夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。 アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。 心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……?? 『呪いの人形』 この人形、何度捨てても戻ってくる 体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。 人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。 陽菜にずっと付き纏う理由とは――。 『恐怖の鬼ごっこ』 アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。 突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。 仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――? 『招かれざる人』 新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。 アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。 強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。 しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。 ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。 最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

かつて聖女は悪女と呼ばれていた

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」 この聖女、悪女よりもタチが悪い!? 悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!! 聖女が華麗にざまぁします♪ ※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨ ※ 悪女視点と聖女視点があります。 ※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

【完結】キスの練習相手は幼馴染で好きな人【連載版】

猫都299
児童書・童話
沼田海里(17)は幼馴染でクラスメイトの一井柚佳に恋心を抱いていた。しかしある時、彼女は同じクラスの桜場篤の事が好きなのだと知る。桜場篤は学年一モテる文武両道で性格もいいイケメンだ。告白する予定だと言う柚佳に焦り、失言を重ねる海里。納得できないながらも彼女を応援しようと決めた。しかし自信のなさそうな柚佳に色々と間違ったアドバイスをしてしまう。己の経験のなさも棚に上げて。 「キス、練習すりゃいいだろ? 篤をイチコロにするやつ」 秘密や嘘で隠されたそれぞれの思惑。ずっと好きだった幼馴染に翻弄されながらも、その本心に近付いていく。 ※現在完結しています。ほかの小説が落ち着いた時等に何か書き足す事もあるかもしれません。(2024.12.2追記) ※「キスの練習相手は〜」「幼馴染に裏切られたので〜」「ダブルラヴァーズ〜」「やり直しの人生では〜」等は同じ地方都市が舞台です。(2024.12.2追記) ※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ノベルアップ+、Nolaノベル、ツギクルに投稿しています。 ※【応募版】を2025年11月4日からNolaノベルに投稿しています。現在修正中です。元の小説は各話の文字数がバラバラだったので、【応募版】は各話3500~4500文字程になるよう調節しました。67話(番外編を含む)→23話(番外編を含まない)になりました。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

処理中です...