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妖精猫は老女とお別れした
その1
しおりを挟むこうして妖精猫とマリンの二人は、アサガオが今住んでいるという遠くの町まで旅立った。
てくてく、てくてくと、その子供のような小さな足で。
1つ目の馬車に乗っては休んで、歩いて。休んで、歩いて。
2つ目の馬車に乗っては歩いて、休んで。歩いて、休んで。
3つ目の馬車に乗っては歩いて、マリンにおぶってもらって。
4つ目の馬車に乗っては歩いて、歩いて。マリンにおぶってもらって、歩いて……。
そうしてようやくとたどり着いたのは美しい湖畔を臨む、小さな小さな町だった。
町というよりは、村と呼んだ方が良いかもしれないくらい、人の数も少なく見えた。
「にゃあにゃあ、小さくって可愛い町だね。ここにアサガオちゃんが住んでいるのかー!」
嬉しさと楽しみな気持ちと、少しだけの緊張と不安で妖精猫の尻尾がゆれ動く。
そんな妖精猫の隣に駆け寄ってきたマリンは、手紙をもう一度確認しながら言った。
「町の人から聞いた話だと、町の外れにある湖の近くの、その屋敷に住んでいるみたいよ」
「そこにアサガオちゃんが?」
うん。と頷くマリンを見て、妖精猫は更に緊張してしまい、耳も尻尾もピンと立ってしまう。
「会いたくないって言われたらどうしよう?」
「そのときは会うって言ってくれるまで待ちましょう? けれどきっとアサガオも会いたがってると思うから…心配しなくても大丈夫よ」
そう言ってマリンは震えている妖精猫の手を優しく握ってあげる。
不安な気持ち、緊張する気持ちがそれで良くなるわけではないものの。それでも妖精猫は背中を押してくれているような温かい気持ちになって、嬉しくなる。
それから一歩、また一歩と歩き出す。
二人はアサガオが住んでいるという、屋敷へと向かっていく。
湖畔の傍にあるその屋敷は、とてもとても大きいものだった。あの酒場なんてまるまる飲み込まれてしまうような大きさだった。
クリーム色の美しい建物を見上げて、妖精猫は息をごくりと飲み込む。
「にゃにゃ……これはすごい大きさだよ。こんな大きさがあればいっぱいいっぱい踊っても誰の邪魔にはならなそうだね」
「私もちょっと驚いたわ。でもすごいのはそれだけじゃないみたい。アサガオからのお手紙によるとこの屋敷にアサガオはほとんど一人っきりで住んでいるみたいよ」
「にゃにゃ! それはすごいよ! うわー、ぼくもこんな大きな家に住んでみたいなー!」
尻尾をふりふり振って嬉しそうに、屋敷の隅から隅までを眺めていく妖精猫。
そんな彼を見て、少しだけ寂しそうな顔をしてマリンは屋敷のチャイムを鳴らそうとした。
が、しかし。突然妖精猫は慌てた様子でマリンの手を止めさせた。
「ちょ、ちょっと待って!」
「…どうしたの? もしかしておトイレ?」
「そうじゃないよ! ちょっとだけ…待ってて…!」
そう言うと妖精猫はマリンをその場に残して、急いでどこかへと駆け出していった。
一体どうしたのかと首を傾げながらも、マリンは妖精猫の言う通りその場で待つことにする。
そうしてしばらくと経った後、「ごめんごめん」と急ぎ戻ってきた妖精猫。
その両手には道ばたで摘んできたと思われる沢山の、色とりどりの野の花が束になって抱かれていた。
「あのときの誕生日プレゼント…ちゃんと用意したくって」
急いで慌てて摘んできたためか妖精猫の茶トラの毛並みには土やら葉っぱやらまでもがくっついていた。
そんな彼を見て笑みをこぼすマリンは、ハンカチを取り出してその汚れた顔を拭いてあげた。
「誕生日プレゼントって…アサガオの誕生日は二か月も前に過ぎちゃってるのに?」
「にゃあにゃあ、じゃあ普通のプレゼントってことで! 良いよね?」
純粋ににんまりと笑う妖精猫にマリンは「そうね」と返して、それから二人は改めて玄関扉のチャイムを鳴らした。
この先にアサガオがいる。それだけで妖精猫の心はドキドキしたりギュッとなったり、しかし嬉しくってドンドンと躍っているようだった。
が、しかし。待てど暮らせど扉が開く様子はなく。
不安になった二人は静かに扉を押してみた。すると扉には鍵がかかっておらず、すんなりと中へ入れるようだった。
「不用心ね…」
「もしかしてドロボウが入っちゃったとか?」
そう思った途端、どんどん不安が募っていく妖精猫。
彼は居ても立っても居られなくなり、花束を持ったまま屋敷の中へと入っていってしまった。
「あ、待って…!」
マリンの呼び止めも聞かず、妖精猫は屋敷の広間へ、長い廊下へと、奥へ奥へ駆けていく。
どこがアサガオの部屋なのか、どこにいるのかも彼はわかってはいない。
それでも、走らずにはいられなかったのだ。探さずにはいられなかったのだ。
「アサガオちゃーん! アサガオちゃーん!」
そうしてあちらこちら、屋敷中を駆けていた妖精猫は廊下の一番奥、突き当りにある扉の前へとたどり着いた。扉は少しだけ開いていた。
「アサガオちゃん―――」
おそるおそる、けれどひょっこりと部屋の中を覗き込んでみた妖精猫。
するとその部屋にはベッド以外は何もなく。その上には一人の女性が座っていた。
アサガオと同じ銀のような白い髪を結い上げている紺色の服を着た女性ー――しかし、その顔はアサガオよりも年老いており、どこからどう見ても『おばあちゃん』と呼んでしまいそうな女性だった。
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