【R18】ショートケーキHoney～異常な程溺愛してくる彼氏に私の心臓が持ちません～

本編

歪み

しまった
そう気付いたのは蓮の泣きそうな顔を見てしまったから。

大ちゃんの名前を読んだのは、特に意味はない。強いて言えば、お兄ちゃんが来てくれてホッとして、つい呼んでしまっただけ。

だけど、状況的に助けを求めるような声色に蓮は感じたかもしれない。

「美優！大丈夫？立てる？」

大ちゃんが慌てて駆け寄ってきて、手を差し出してくれる。

「うん、大丈夫。私が勝手に転んじゃっただけ」

あはは、と笑ってみせたけど、その場の雰囲気が和むはずもなく…。
私は大ちゃんに手を引かれ立ち上がり「ほら、怪我もしてないし。」とアピールしてみるも、静まり返ったままだった。

どうしよう…誰か喋って欲しい。
蓮はうつ向いてしまうし、大ちゃんは蓮を睨み付けてるし、佐藤君は…オロオロと困った顔をしてる。


「クシュン！！」
そんな静かな教室に響き渡る私のくしゃみ。

「美優、ブレザーは？」

「え？えっと…」

教室の後方を見れば、床にブレザーが投げ出されていた。
私の視線の先を追って、大ちゃんは怪訝な表情を向ける。

大ちゃんからみたら、かなり謎な状況だろうな。

「佐藤、何があったの？」

「俺にもよく解らなくて…。教室に戻る途中、甘音さんが寒そうにしてたからカーディガンを貸したんだけど…相澤君にはそれが気に入らなかったみたい。それでちょっとモメてる所に甘音さんが止めに入ってくれたんだけど…相澤君にぶつかってしまって…」

「はぁ…それで寒い中美優をワイシャツ1枚にして、佐藤に掴みかかったのか？喧嘩に美優まで巻き込んで転ばせて…」

「………」

大ちゃんの問いかけに、蓮はうつ向いたまま無言だった。


「あ、あのね、大ちゃん！蓮とはちょっと誤解があって…。私もいけなかったの。だから蓮だけが悪い訳じゃないよ。…佐藤君には、嫌な思いさせちゃってごめんなさい」

「甘音さんが謝る必要ないよ。気にしないで」

にっこりと笑ってくれる佐藤君、なんて優しいんだろう。別に私の事なんて好きじゃないのに、親切にしたら蓮に誤解されていい迷惑だろうに…。

私が転んでしまったばかりに、事が大きくなってしまって…蓮もびっくりしているだろうな。
未だにうつ向いて固まったままの蓮に、私はゆっくり近付いてそっと手をとる。

「蓮…ごめんね」

「…美優………俺……」

蓮がやっとこちらを向いてくれてホッとしたのもつかの間、後ろから大ちゃんにグイッと腕を引かれる。

「相澤、女の子に怪我をさせるような奴に美優は渡せない。お前、いつも美優を困らせてばかりじゃないか」

「……」

「大ちゃん！私怪我なんてしてないよ」

「美優、涙が頬についてる。風邪もひきそうだし、今日はもう帰るよ」

大ちゃんは有無を言わさない物言いで、私の腕を引っ張って行く。

「ちょっと…大ちゃん、私まだ蓮と話が…」

教室を出る直前、振り返って見た蓮は泣きそうな顔をしていた。

あぁ…なんでこうなっちゃったんだろう…。

私はなす術無く、ズルズルと引きずられるように学校を後にした。