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消えた琥珀色
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その日も、私はいつもの時間に広場へ向かった。
噴水の音。
石のベンチ。
変わらない風景。
――でも。
ルカの姿がなかった。
(……何かあったのかな)
そう思って、しばらく待つ。
通りを行き交う人たちの中に、無意識に彼を探してしまう。
(…川の方も見に行ってみよう)
日時や場所を約束していた訳じゃない。
それでも、いつも自然と会えていたのは、彼が私に会いに来てくれていたのだと、今更ながらに気づいてしまう。
それから、思い当たる場所を巡ってみたものの、ルカを見つける事は出来なかった。
最後にルカと会ったのは1週間ほど前。
その日のルカはいつもと違う空気を纏っていた事に、違和感を感じた事は覚えている。
「……アイリス」
振り向くと、ルカが立っていた。
いつもは私から声をかけるのに…ルカから声をかけてもらえた事に心が跳ねて、私はルカの瞳に影があった事に気付く事が出来なかった。
「ルカから声をかけてくれるなんて珍しいね」
そう言うと、
彼は、小さく頷いた。
「……うん」
それだけ。
川を眺めながら、隣に座る。
距離は、いつもと同じ。
でも。
(……なんだろう)
胸の奥が、ざわつく。
夕方になると、川面が夕焼けを映して町全体が金色に染まる。
パン屋の煙突から最後の白い煙が立ち上り、花屋のシャッターを下ろす音が、少し遅れて響く。その二つの音が重なると、この町の一日の終わりの合図だった。
隣に座っているルカは、もう何時間も川を見つめたままだ。
「どこか、具合悪い?」
「違う」
即答。
でも、目が合わない。
川の水音が、いつもより大きく聞こえる。
また二人の間に沈黙が流れた。
「……アイリス」
ルカが、ぽつりと名前を呼んだ。
「僕は…」
言いかけて、止まる。
「……いや」
小さく、首を振る。
「なんでもない」
(なんでもない訳ないじゃない…)
初めて見る、泣きそうなルカの横顔に
私は勇気がなくて、踏み込めなかった。
ふと視線を振れば、少し離れたところでアルベルト家の息子たちが、こちらを見ているのに気づく。
今日は、からかってこない。
ただ、黙って見ている。
それが逆に、不気味だった。
「……ねえ」
私が言う。
「また、会える?」
ルカは答えるまでに、少し時間がかかった。
「……たぶん」
「たぶん?」
聞き返すと、ルカは困ったように笑った。
「約束は、できない」
胸が、ちくりと痛む。
理由は分からない。
「俺…」
ルカは続けた。
「アイリスと、出会えてよかった」
それはまるで、別れの挨拶みたいで
「ルカ?」
呼び止める前に、彼は立ち上がっていた。
「……またね、アイリス」
そう言って、背を向ける。
その背中は、いつもより少しだけ遠く見えた。
琥珀の瞳は振り向いてはくれなかった。
(……大丈夫。またね、って言ってくれたから)
そう思いながらも、私はルカが見えなくなるまで手を振った。
次の日、広場にルカは来なかった。
その次の日も。
町の誰に聞いても、
「あの子?知らないなぁ」と首を傾げるだけ。
広場で会って、パンを食べて、話をして。
短くはない日々を一緒に過ごしていくうちに、ルカとはこの先もずっと会えるんだと思い込んでしまっていた。
実際の私は、ルカの家も、家族も、何一つ知らなかったのに。
ルカを町で探す日々をこの町で過ごし、もう会えないという現実にやっと目を向けたのは、会えなくなってから半年ほど経ってからだった。
噴水の音。
石のベンチ。
変わらない風景。
――でも。
ルカの姿がなかった。
(……何かあったのかな)
そう思って、しばらく待つ。
通りを行き交う人たちの中に、無意識に彼を探してしまう。
(…川の方も見に行ってみよう)
日時や場所を約束していた訳じゃない。
それでも、いつも自然と会えていたのは、彼が私に会いに来てくれていたのだと、今更ながらに気づいてしまう。
それから、思い当たる場所を巡ってみたものの、ルカを見つける事は出来なかった。
最後にルカと会ったのは1週間ほど前。
その日のルカはいつもと違う空気を纏っていた事に、違和感を感じた事は覚えている。
「……アイリス」
振り向くと、ルカが立っていた。
いつもは私から声をかけるのに…ルカから声をかけてもらえた事に心が跳ねて、私はルカの瞳に影があった事に気付く事が出来なかった。
「ルカから声をかけてくれるなんて珍しいね」
そう言うと、
彼は、小さく頷いた。
「……うん」
それだけ。
川を眺めながら、隣に座る。
距離は、いつもと同じ。
でも。
(……なんだろう)
胸の奥が、ざわつく。
夕方になると、川面が夕焼けを映して町全体が金色に染まる。
パン屋の煙突から最後の白い煙が立ち上り、花屋のシャッターを下ろす音が、少し遅れて響く。その二つの音が重なると、この町の一日の終わりの合図だった。
隣に座っているルカは、もう何時間も川を見つめたままだ。
「どこか、具合悪い?」
「違う」
即答。
でも、目が合わない。
川の水音が、いつもより大きく聞こえる。
また二人の間に沈黙が流れた。
「……アイリス」
ルカが、ぽつりと名前を呼んだ。
「僕は…」
言いかけて、止まる。
「……いや」
小さく、首を振る。
「なんでもない」
(なんでもない訳ないじゃない…)
初めて見る、泣きそうなルカの横顔に
私は勇気がなくて、踏み込めなかった。
ふと視線を振れば、少し離れたところでアルベルト家の息子たちが、こちらを見ているのに気づく。
今日は、からかってこない。
ただ、黙って見ている。
それが逆に、不気味だった。
「……ねえ」
私が言う。
「また、会える?」
ルカは答えるまでに、少し時間がかかった。
「……たぶん」
「たぶん?」
聞き返すと、ルカは困ったように笑った。
「約束は、できない」
胸が、ちくりと痛む。
理由は分からない。
「俺…」
ルカは続けた。
「アイリスと、出会えてよかった」
それはまるで、別れの挨拶みたいで
「ルカ?」
呼び止める前に、彼は立ち上がっていた。
「……またね、アイリス」
そう言って、背を向ける。
その背中は、いつもより少しだけ遠く見えた。
琥珀の瞳は振り向いてはくれなかった。
(……大丈夫。またね、って言ってくれたから)
そう思いながらも、私はルカが見えなくなるまで手を振った。
次の日、広場にルカは来なかった。
その次の日も。
町の誰に聞いても、
「あの子?知らないなぁ」と首を傾げるだけ。
広場で会って、パンを食べて、話をして。
短くはない日々を一緒に過ごしていくうちに、ルカとはこの先もずっと会えるんだと思い込んでしまっていた。
実際の私は、ルカの家も、家族も、何一つ知らなかったのに。
ルカを町で探す日々をこの町で過ごし、もう会えないという現実にやっと目を向けたのは、会えなくなってから半年ほど経ってからだった。
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