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序章

発光

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……なんだこれは。
体が光っているのか? 
いや、それより重要なのはこの状況で光り出したと言うことは何か意味があるはずだ。
しかし光ったからと言って一体何ができるんだ? 俺は一般人なんだぞ。訳のわからない超感覚も、原因不明の発光現象も、使い方がまるでわからない。
俺がそんなことを思っていると事態は更にまずい状態になった。
その光が超感覚などではなく、普通に見えるところまできていたのだ。
家の屋根を突き破り、上にあった俺の部屋を破壊して。
もう細かいことは気にしていられない。
逃げなきゃ、逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ。
「うわあああぁぁぁぁ!」
俺は一心不乱に、無我夢中にソファーから思い切り飛び出した。
すると、俺の体は『バチバチィ!』という雷のような激しい音を立てて、とんでもないスピードで家の壁を突き破り外に飛び出した。雷と同じぐらいの速さは出ているんじゃないかと思ったほど速いスピードだ。
壁を突き破ったときは反射的に「痛っ」と言ってしまったがまったくもって痛みは感じなかった。
さらに、目が開けられている。いや、普通だろと言うかもしれないが今俺はとんでもないスピードで飛んでいるのだ。普通は目なんて開けられない。
飛んでいるのが高度かなり低空なので田舎でビルとか無くて本当に良かったなぁと思ったりできるほど周りがよく見える。動体視力も跳ね上がっているのだろうか。そして夜中で真っ暗なのにはっきり見えることにも気付く。超感覚といい発光現象といいいったい何なんだよ、くそ!
飛びながら後ろを振り向くとかなり遠くの方で白い線が天と地をつなげている。
おそらくだが俺の家はもう跡形もないだろう。母さんと父さんになんて言えばいいんだ。長年集めてきた俺のグッズコレクションも、もう無いだろうなぁ。ちっくしょぉぉぉ!
ていうかさっきから俺飛んでる飛んでる言ってるけどなんだこれ。
パニック状態が止まらねぇよ。さっきまで死にかけた上に自分の体が意味不明な状態になっている。
心臓はまだ大太鼓のようにうるさい音を出している。
少し落ち着かなければと思っていると、俺の家を消し飛ばした光の発生源と思われる場所が、何回かピカッとひかった。
すると、その瞬間、そこから無数の赤い光の矢のような物が飛んでくるのがわかった。
またさっきと同じ超感覚だろうけれど、今はそんなこと気にしていられない。この矢のような物もまた、とんでもないスピードだ。
まだ動揺と驚きで息が荒いが、すぐに対応しないと。
今はとにかく、この超感覚と光の力を信じてあれをどうにかしなければ。
俺は覚悟を決め、体を後ろに向け、全身の神経を研ぎ澄ます。
まず俺の体に当たりそうな物を全力で対処する。と言っても避けることしかできないが。
そして、俺は顔面に飛んできた矢をすれすれで避けて足、手、胴体などに飛んでくるのを全てギリギリで避ける。良い言い方をすれば最小限の動きで、だな。超感覚のおかげでどれがどこに飛んでくるかがわかる。
いったい俺は今、どのくらいの速さで避けているのだろうか。
外から見たら残像でも残っているかもしれない。
しかし、少し調子に乗ってしまった俺は集中を解いてしまった。
顔に飛んできた矢を避けた先に、また矢があったのだ。
(しまった!)
反射的に手でその矢をなぎ払う。すると、見事にその矢はたたき落とすことができた。だが、はたきおとした矢の後ろには絶望があった。
そのはたきおとした矢の後ろにまったく同じ軌道で、ぴったりと後ろにくっつけて、撃ってきていたのだ。
(あ、死んだ)
そうして、今にも眼球に届きそうな矢を見つめながら絶望した。
親より先に死ぬなんて親不孝ものだな俺は。
そう思い俺が生を諦めようとしていると、その矢が、俺を殺そうとしていたその矢が、真っ白な手に掴まれた。
きれいな手だなぁと思っているのもつかの間、その矢が掴まれた瞬間、その手を中心に激しい爆風が巻き起こった。
その爆風で俺は吹き飛ばされ山にたたきつけられる。が、飛んできていた全ての矢も吹き飛ばされていた。
そして、先ほどの手の人物がこちらを向き、安心したような顔をして言った。
「……良かった。まだ死んでいないな」
そこには上はスーツで下は黒いミニスカートという不思議な格好をしたショートカットの美少女が空中に立っていた
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