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第十三幕 転生歌姫と生命神の祈り
第十三幕 8 『魔王』
しおりを挟むこれは私の夢の中。
だけど、今見ているのはかつて確かにあった出来事。
世界中を恐怖に陥れた魔王と、勇者たちの最終決戦。
『……よくぞ、ここまで辿り着いたものだ。お前たちこそ正に勇者と呼ぶに相応しかろう』
『……リシィに何をした!!』
『目を覚まして、リシィ!!』
『リシィ!!そんなとこで寝てないで早く起きろ!!』
ここまで攻め込まれても余裕の態度を崩さない魔王は、威厳あふれる低い声で寧ろテオフィール達のこれまでの健闘を称える。
そして、対する三人は祭壇に横たわってるリシィに声をかけるが、彼女はピクリともしない。
『控えなさい、下郎ども。この方をどなたと心得るか。全人類を高みへと導く至高のお方なるぞ。それに、神聖なる儀式を邪魔立てするとは、無粋の極み』
魔王の傍らに控え、豪然と言い放つのは調律師だ。
今の時代の彼女よりも、更に冷徹な雰囲気を感じる。
そして、横たわるリシィに向き直ってから、尚も言葉を続ける。
『我が姉ながら『黒き神』に反旗を翻すなど……愚かな選択をしたものです。ですが……此度はその魂を捧げ、人類の進化の先にまで至る事が出来れば……それが過ちであった事を理解してくれるはず。そして……あぁ、姉さん……かつての約束通り、私達は共に歩んでいきましょう……』
恍惚の表情すら浮かべて、彼女はそう言った。
そして、調律師は意識を集中して祈りの言葉を紡ぎ始める。
『黒き神』を崇め奉り、リシィの魂を捧げ、果てにその身を人類を超越したものにすることを希う。
『やめなさい!!テオ、お願い!!』
『ああ!!』
リディアの言葉に応じて、テオフィールが印を発動させる。
『ロラン!行くわよ!!』
『応よ!!』
そして、リディアとロランが飛び出して、魔王と調律師に最後の戦いを挑んだ!!
二人とも先ずはリシィを救出するべく調律師に襲いかかるが、その前に魔王が立ちふさがる!
『儀式の邪魔はさせぬ』
そう言いながら、魔王はどこからともなく現れた巨大な剣を手にして二人を迎え撃つ!
リディアも印を発動させ、手にした剣から鮮烈な青い輝きが放たれる。
あの剣は……聖剣グラルヴァルだ!
ロランが手にした長柄斧も眩い白銀の輝きを纏っているところを見ると、名のある神聖武器に違いない。
立ちはだかる魔王に、二人は飛び出した勢いそのままに突っ込んで雷の如き神速で武器を振るう!!
ガィンッッ!!!
ギィンッッ!!!
しかし、魔王はおよそ片手で扱えるようなものには見えない巨剣を目にも留まらぬ速さで振るって、二人の初撃を叩き落とした!
『くっ……!速いっ!?』
『そんなバカでかい剣で……!!』
『ふ……ぬるいな。そんなものか?お前たちの力は?』
その場から微動だにせず二人の攻撃を防いだ魔王は、嘲笑とともに挑発の言葉を浴びせる。
『まだまだぁっ!!!』
『うおーーーっっ!!!』
魔王を倒さなければリシィの元には辿り着けないと判断した二人は、全力を以て戦いを継続する。
その間、テオフィールの印によって彼の身体から滅魔の光が放たれ……調律師に向かって収束した光の奔流が襲いかかる!!
『無駄ですっ!!』
光が彼女を飲み込もうとした瞬間……!
ブワッ!と調律師が纏った闇の衣が大きく広がり、リシィもろとも闇の結界が覆う!
滅魔の光と闇の結界は互いに対消滅を繰り返して拮抗する。
『くっ……闇が……祓えない!!』
魔王との戦いでリディアとロランは手一杯。
助力を願うのは難しい状況だ。
やがて……リシィが横たわる祭壇の上空に黒い靄のようなものが現れた。
それは瞬く間に濃さを増して、光を飲み込む漆黒の闇となった。
『さあ、『黒き神』よ!!ここに贄を捧げます!!』
すると、『闇』から何本もの黒い触手がリシィの身体を絡め取る!
『……あっ!?くぅっ!!……あぁーーーーーっっ!!!』
それまでただ眠っていたように目を閉じていたリシィは、身体中を這い回る触手が侵食し始めると、目を見開いて身体を震わせて苦痛の叫び声を上げる!
『『リシィーーーッッ!!!』』
テオフィールとリディアの悲痛な叫び声が響き渡るが……闇の触手はリシィの身体を持ち上げていき……遂には闇の本体の中に彼女を取り込んでしまった!!
もはやリシィを救い出すことは叶わないのか……そう思ったその時!
『させるかよっ!!!でりゃあーーーっっっ!!』
魔王と切り結んでいたロランが一瞬の隙を突いて、渾身の気合でもって長柄斧を投擲した!!
それは、唸りを上げて回転しながら調律師に向かって猛然と襲いかかり……闇の結界を切り裂く!!
『!!しまっ……!?』
『テオフィール様!!今です!!!』
『うぉーーーーっっ!!!』
これまで滅魔の光を阻んでいた闇の結界が一気に霧散し、光は調律師もろともリシィを捕えた『闇』を飲み込んでいく!!
それはあっという間に『闇』を祓い……そしてリシィは祭壇の上に転げ落ち、再び眠りにつく。
その髪は……艷やかな黒から白銀に染まっていた。
『リシィ!!そんな……間に合わなかったの?』
髪色の変化を見たリディアが絶望の呟きを漏らした。
その瞬間!
『ぐぁーーっっ!!?』
武器を失ったロランが魔王の巨剣をまともに受けて大きく吹き飛んだ!!
『ロラン!!?』
『ぐ……はぁっ!!』
どうやら即死は免れたようだけど、苦しそうな呻き声を上げて血反吐を吐いたところをみると、内臓に大きなダメージを負った様子。
あれでは、もはや戦闘続行は無理だろう……
『……ヴィーはやられたか。消滅は免れたようだが、暫く活動することは出来まい。……まこと、やりよるわ』
ロランは戦闘不能。
そして、テオフィールも先の滅魔の光による攻撃で、肩で息をしているような状態だ。
おそらくは印の発動も長くは維持出来ないだろう。
一方で調律師も……倒し切ることは出来ていないが、戦闘不能に追い込んでいる。
そして、魔王はまだまだ余力を残している。
まだ本気も出していないだろう。
果たして……ここから魔王を打倒することが出来るのか……?
結末を知ってはいても、私はそう思わずにはいられなかった。
10
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