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弟の話。
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オレは各務祐介。
会社員の25歳。
オレには兄が1人いる。
各務響也という。
友人から紹介したい人がいると言われて、とある土曜日の夜に居酒屋で落ち合った。
友人は女性2人を連れていた。
片方がヤツの恋人で、もう1人がその友人なのだろう。
前に付き合ってた子と別れてそろそろ1年。オレに紹介したいのだろうか。
とりあえず飲むものとつまみを頼む。
「こっちが磐井詩央里さんでオレの恋人。」
と紹介されたのはヤツとそんなに背丈の変わらないショートカットの女性。
「で詩央里さんのお友達の三浦遥香さん。」
ストレートの黒髪の女性。
「各務祐介といいます。」
オレの隣にヤツ、ヤツの向かいが詩央里さんで、オレの向かいが遥香さんというふうに座る。
「お前が紹介したかったのは彼女さん?」
一応乾杯をしてから尋ねる。
「んーどっちも。」
「そう。
遥香さんはそんなにオレの顔見てニコニコしてるけど、何か?」
とても幸せそうな笑みを浮かべているがオレの記憶が間違いなければ初対面だ。
くすくすと詩央里さんが笑う。
ヤツも何か事情を知っていそうだ。
「各務くんて、兄弟いる?」
詩央里さんが口を開く。
「2つ上の兄がいますが。」
詩央里さんは満足げにうなずく。
「遥香は、そのお兄さんの彼女なの。」
遥香さんは兄によく似たオレを鑑賞していたらしい。
確かに似ていなくはないがオレは髪を栗色にそめ、少し軽いというかチャラい印象を持たれるような雰囲気を作っている。
対して兄はお堅い印象。未だ銀縁眼鏡だから余計にだ。
遥香さん自身は兄との付き合いに満足しているのだが、周りはそうは思っていないらしくヤツと友人でさらに弟でもあるオレに話を聞きたかったらしい。
「酷いんだよ、あんたんとこのバカ兄貴っ!」
少し酔いの回った詩央里さんは声を荒げる。
オレは聞いて苦笑いしておけばいいけど遥香さんは何をバラされるかわからないからひやひやものだろう。
「今日だって遥香の誕生日だってのにデートの1つもできねーのかっ。」
ここ、全席半個室でよかった。
詩央里さんは絡み酒だ。
「ちょっと、詩央里…。」
「だってさー、付き合って半年以上たってんのに誕生日祝ってもらえないってありえないしい。」
「いや、だから、響也さんはあたしの誕生日知らないしっ。」
「知らないのがおかしいって言ってるの!」
「そんなの知らなくても困んないから。」
ため息がでる。
「普通女の子って誕生日とか、クリスマスとか、大事にするものだとばかり思ってたんだけど…。」
遥香さんは幸せそうな笑みを浮かべて首を振る。
「響也さんと会える日そのものが記念日みたいなものだから、そういう誕生日とか関係ないの。」
「それって今だけじゃないの?
1年後にそう思える保証なんて、ないよ?」
オレは無性に腹が立った。
こんなふうにしか付き合えない兄貴にも。
そんな兄貴に満足している彼女にも。
「じゃあさ、」
ヤツが話に割り込んできた。
「お前の兄が三浦さんのことをどう思っているのか聞けばいいんじゃないの?」
翌日の午後に兄に遥香さんから電話をして呼び出してもらうよう計画を立てた。
しかしその計画に反してか、前日泊めてもらったオレの言動が気になったのか朝のうちに兄は彼女に電話していた。
オレたちは計画通りに午後に来てもらうようにした。
「詩央里さん…知ってたの?」
嵐を巻き起こした2人が去った後のカフェ。
どれだけお互いが信頼しあっているかを見せつけられた。
ただしそれはどう見ても恋人ではなく。
主従関係。
「うん。
嫉妬深い御主人様だよねえ。」
「あいつが変態だって知らなかった。」
「そこについていっている遥香も、だけどね。
まあ、おかげで少しはあの2人も先に進むんじゃないかな。」
少し、ではなかった。
2人が去って、詩央里さんがケーキを2つ食べて、紅茶を二杯のんで一息ついたころ、詩央里さんに遥香さんから写真が送られてきた。
オレにも兄からメール。
詩央里さんには遥香さんの左の薬指に輝くダイヤモンドの散りばめられた指輪の写真。
オレには来週末に実家に結婚の挨拶に行くので在宅しておくように、との厳命のメール。
「今11月だから、早くて6月、かなあ。」
詩央里さんはため息をついた。
会社員の25歳。
オレには兄が1人いる。
各務響也という。
友人から紹介したい人がいると言われて、とある土曜日の夜に居酒屋で落ち合った。
友人は女性2人を連れていた。
片方がヤツの恋人で、もう1人がその友人なのだろう。
前に付き合ってた子と別れてそろそろ1年。オレに紹介したいのだろうか。
とりあえず飲むものとつまみを頼む。
「こっちが磐井詩央里さんでオレの恋人。」
と紹介されたのはヤツとそんなに背丈の変わらないショートカットの女性。
「で詩央里さんのお友達の三浦遥香さん。」
ストレートの黒髪の女性。
「各務祐介といいます。」
オレの隣にヤツ、ヤツの向かいが詩央里さんで、オレの向かいが遥香さんというふうに座る。
「お前が紹介したかったのは彼女さん?」
一応乾杯をしてから尋ねる。
「んーどっちも。」
「そう。
遥香さんはそんなにオレの顔見てニコニコしてるけど、何か?」
とても幸せそうな笑みを浮かべているがオレの記憶が間違いなければ初対面だ。
くすくすと詩央里さんが笑う。
ヤツも何か事情を知っていそうだ。
「各務くんて、兄弟いる?」
詩央里さんが口を開く。
「2つ上の兄がいますが。」
詩央里さんは満足げにうなずく。
「遥香は、そのお兄さんの彼女なの。」
遥香さんは兄によく似たオレを鑑賞していたらしい。
確かに似ていなくはないがオレは髪を栗色にそめ、少し軽いというかチャラい印象を持たれるような雰囲気を作っている。
対して兄はお堅い印象。未だ銀縁眼鏡だから余計にだ。
遥香さん自身は兄との付き合いに満足しているのだが、周りはそうは思っていないらしくヤツと友人でさらに弟でもあるオレに話を聞きたかったらしい。
「酷いんだよ、あんたんとこのバカ兄貴っ!」
少し酔いの回った詩央里さんは声を荒げる。
オレは聞いて苦笑いしておけばいいけど遥香さんは何をバラされるかわからないからひやひやものだろう。
「今日だって遥香の誕生日だってのにデートの1つもできねーのかっ。」
ここ、全席半個室でよかった。
詩央里さんは絡み酒だ。
「ちょっと、詩央里…。」
「だってさー、付き合って半年以上たってんのに誕生日祝ってもらえないってありえないしい。」
「いや、だから、響也さんはあたしの誕生日知らないしっ。」
「知らないのがおかしいって言ってるの!」
「そんなの知らなくても困んないから。」
ため息がでる。
「普通女の子って誕生日とか、クリスマスとか、大事にするものだとばかり思ってたんだけど…。」
遥香さんは幸せそうな笑みを浮かべて首を振る。
「響也さんと会える日そのものが記念日みたいなものだから、そういう誕生日とか関係ないの。」
「それって今だけじゃないの?
1年後にそう思える保証なんて、ないよ?」
オレは無性に腹が立った。
こんなふうにしか付き合えない兄貴にも。
そんな兄貴に満足している彼女にも。
「じゃあさ、」
ヤツが話に割り込んできた。
「お前の兄が三浦さんのことをどう思っているのか聞けばいいんじゃないの?」
翌日の午後に兄に遥香さんから電話をして呼び出してもらうよう計画を立てた。
しかしその計画に反してか、前日泊めてもらったオレの言動が気になったのか朝のうちに兄は彼女に電話していた。
オレたちは計画通りに午後に来てもらうようにした。
「詩央里さん…知ってたの?」
嵐を巻き起こした2人が去った後のカフェ。
どれだけお互いが信頼しあっているかを見せつけられた。
ただしそれはどう見ても恋人ではなく。
主従関係。
「うん。
嫉妬深い御主人様だよねえ。」
「あいつが変態だって知らなかった。」
「そこについていっている遥香も、だけどね。
まあ、おかげで少しはあの2人も先に進むんじゃないかな。」
少し、ではなかった。
2人が去って、詩央里さんがケーキを2つ食べて、紅茶を二杯のんで一息ついたころ、詩央里さんに遥香さんから写真が送られてきた。
オレにも兄からメール。
詩央里さんには遥香さんの左の薬指に輝くダイヤモンドの散りばめられた指輪の写真。
オレには来週末に実家に結婚の挨拶に行くので在宅しておくように、との厳命のメール。
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