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翌日、私たちはエーテルの材料となる希少な植物を探すため、王都から少し離れた森に向かうことにした。


「ここが入り口みたいだな」


「はい! 早速行きましょう!」


私たちは森の中へ足を踏み入れた。木々の間から差し込む光が幻想的な雰囲気を醸し出している。鳥のさえずりや川のせせらぎなど自然の音が心地よく響いていた。しばらく歩いていくと、少し開けた場所に出る。そこには小さな泉があり、太陽の光が水面に反射してキラキラと輝いていた。


「わぁ……綺麗……」


私は感嘆の声を上げながらその光景を眺めていた。


(こんな素敵な場所でエーテルを作れたら嬉しいなあ)


そう思いながら材料となる植物を探すことにした。しばらく探していると、カイトが何かを見つけたようだ。


「あれじゃないか?」


彼が指さした先にあったのは、銀色に光る小さな花だった。私たちはその花の近くまで行くとしゃがみ込むとじっくりと観察する。


「間違いないですね! これだと思います!」


私が笑顔で答えると、カイトも嬉しそうな表情を浮かべた。私たちは必要な量のエーテルを採取すると、来た道を戻り始めるのであった。


「きゃあああああああああああああああっ!!!!」


私は達成感を胸に抱きながら歩いていくと、突然誰かの悲鳴が聞こえた。私は慌てて振り返ると、そこには魔物に襲われている女の子の姿があった。


「グルルルルルルルルルルルルルルルルッ!!!!」


魔物は涎を垂らしながら少女に襲いかかろうとしている。


「あの子を助けて!」


私は必死に叫んだ。するとカイトが走り出す。彼は一瞬で距離を詰めると、目にも留まらぬ速さで剣を振った。次の瞬間、魔物の首と胴体が切断され、地面に崩れ落ちた。


「大丈夫ですか?」


私は女の子に駆け寄ると、手を差し伸べた。彼女は私の手を掴むと立ち上がる。怪我はないようだ。


(良かった……)


私がほっとしていると、カイトが近づいてきて言った。


「素材は回収しておこう」


そう言うと彼は魔物の死体に向かって歩き始めてしまったので、私も慌ててその後を追った。そして解体作業を終えると、私たちは王都に戻ることにした。


帰り道を歩いている途中、女の子が私に話しかけてきた。


「あの! 助けてくれてありがとうございました!」


彼女は丁寧にお辞儀をした。ふわふわの金髪でよく見ると耳が少し尖っているからハーフエルフのようだ。


「無事で良かったです!」


私は笑顔で答えた。彼女は微笑みながら私を見つめている。その笑顔がとても可愛らしくて見惚れてしまうほどだ。


(可愛い子だなぁ……)


私がそう思っていると、隣から視線を感じた。見るとカイトがこちらをじっと見ている。どうかしたのだろうかと思っていると、彼は口を開いた。


「お前……奴隷だな?」


カイトは鋭い眼差しで少女を見た。彼女はビクッと身体を震わせると怯えた表情を浮かべる。


「ち、違います! 私は奴隷なんかじゃ……」


少女は必死になって否定したが、その言葉は尻すぼみになっていった。彼女が着ている服はかなり汚れており、所々破れている箇所もある。その様子からカイトの言葉が的を得ているのだと察することができた。


(でもどうして分かったんだろう……?)


私が疑問に思っていると、カイトが言葉を続ける。


「その首輪だ」


彼が指さした先を見ると、確かに少女の首には首輪が巻かれていた。金属製で鍵穴が付いており、簡単には外せそうにない。


「それは奴隷の証だ」


カイトが冷たい声で言うと、女の子は俯いて黙り込んでしまった。その表情には悲しみの色が見える。


「私はノエル。あなたは?」


私が優しく話しかけると、彼女はゆっくりと顔を上げた。


「私は……エレナ」


エレナは消え入りそうな声で答えた。年齢は私と同じくらいに見えるけれど、どこか大人っぽい印象を受けるのは彼女の境遇のせいだろうか。


(なんとかしてあげたいな……)


そんなことを考えていると、カイトが口を開いた。


「それで? お前を買った主人はどこにいる?」


彼の言葉を聞いた瞬間、エレナの表情が一気に暗くなった。言いたくないことがあるのだろうと思い黙っていると、彼女は絞り出すように話し始めた。


「……逃げてきたんです」


エレナは小さな声でそう答えた。彼女の話は衝撃的だったが、私は黙って聞いていた。


「私の家はエルフの集落です。でも人間と共存していて……ある日、人間が襲ってきたんです」


エレナは震えながら話を続ける。その時の恐怖を思い出してしまったのだろう。彼女の目には涙が浮かんでいた。私は彼女の手を握ると優しく微笑みかけた。少しでも安心してもらえるようにと願って……。


「それで捕まって奴隷にされたってわけか……」


カイトが呟くように言った。その言葉に込められた感情を感じ取ったのか、エレナの目には更に涙が溜まる。


「私……どうしたら良いんでしょうか……?」


彼女は縋るような目をしながら私たちを見つめた。その瞳からは今にも雫が零れ落ちそうだ。私は彼女の肩に手を置くと笑顔で言った。


「良ければ私のお店で働きませんか?」


私がそう言うと、エレナちゃんは驚いたように目を見開いた。しかしすぐに表情を曇らせると俯いてしまう。


「で、でも……私なんかが働いたら迷惑に……」


「大丈夫です! うちのお店は人手不足ですし!」


私は力強く言ったが、エレナちゃんはまだ不安そうだ。そこでカイトが口を開く。


「エレナと言ったな? お前は何ができる?」


「え……? えっと……家事とかは一通りできます……」


困惑しながらも答えるエレナちゃんに向かって、カイトはさらに言葉を続ける。


「じゃあ決まりだな」


彼の言葉を聞いたエレナちゃんはハッとした様子で顔を上げた。その表情には驚きと喜びの色が見える。


「わ、私なんかで良いんですか……?」


不安そうな表情を浮かべるエレナちゃんに向かって、カイトは優しく微笑む。彼は頷くと彼女の頭を優しく撫でるのであった。


(良かった……!)


二人の仲睦まじい姿を見て、私はホッと胸を撫で下ろした。エレナちゃんの過去を考えれば、彼女に居場所を与えてあげることは大切なことだと思う。もちろん本人が望めばの話ではあるが……。


「じゃあ行きましょう!」


私が手を差し出すと、エレナちゃんはおずおずと手を取ったのだった。
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