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翌日、いつものように書類を片付けていると、一人の女性が訪ねてきた。


「ようやく見つけたぞ」


腰まで伸びる青い髪と瞳を持つ美女は、俺を睨みつけながらそう言った。その美しさとは裏腹にどこか禍々しいオーラを放っているように見える。


「セレナ……?」


彼女はグラントニア王国の騎士団長で幼馴染でもあるセレナ・ハーネットだ。だが、なぜ彼女がここにいるんだろうか?


「どうしてここに?」


俺が訪ねると、セレナは怒りの表情を浮かべながら口を開いた。


「決まっている! 貴様を連れ戻しに来た!」


「どういうことだ?」


俺が聞き返すと、彼女はさらに怒りを露にした。そして俺の胸倉を掴むと壁に押し付ける。


「貴様は悔しくないのか!? 貴様の実力が分からないあの貴族共を、見返してやりたいとは思わないのか!?」


「それは……」


確かに彼女の言う通りかもしれない。だが、今は領主として働いている以上、ここを離れるわけにはいかないのだ。それに俺はこの街を気に入っているしな……


「悪いが俺は今の生活が気に入ってるんだ」


「貴様はそうやって逃げるのか? 情けない奴だな!」


(いや、逃げているわけじゃなくだな……)


俺が心の中でツッコんでいると、セレナが俺の胸倉から手を離した。


「貴様に決闘を申し込む。私が勝ったら私の言う事を何でも聞くんだ。いいな?」


「待て、俺が勝ったらどうするんだ?」


俺が聞き返すと、彼女は不敵な笑みを浮かべた。


「その時は貴様の好きにすればいい」


(無茶苦茶だな……)


正直言って面倒くさいので断りたいところなのだが、断ったところで引き下がるようなタイプではないだろう。仕方ないから受けるしかないな……


(まあ勝てる勝負だしな)


「分かったよ。その決闘受けて立つ」


こうして俺はセレナと決闘することになった。


「それではこれより、セレナ・ハーネット対アベル・フォン・コーネリアの決闘を始めます!」


審判役の女性がそう言うと、俺とセレナはお互いに剣を構えた。そして試合が始まると同時にセレナは斬りかかってくる。


「うぉらぁ!!」


常人なら避けられないスピードだが、俺から見れば蠅が止まるほどの動きだ。


「遅い」


俺は最小限の動きで彼女の攻撃を回避すると、カウンターを仕掛ける。


「くっ!」


俺の攻撃をギリギリで躱すと、セレナは大きく後ろに下がった。


「貴様……私を舐めているのか?」


「いや、そんなことはないぞ」


(まあ強いかと聞かれれば微妙だがな)


俺が本気で殴ったら死ぬだろうしなぁ……さて、どうすっかなぁ……と考えていると彼女は再び俺に攻撃を仕掛けた。今度は先程よりも速いしフェイントも織り交ぜている。


(意外とやるじゃないか)


俺は感心しながら彼女の攻撃を全て躱し続けた。


(そろそろ反撃するか)


俺は彼女の剣を弾き飛ばすと、鳩尾を殴った。すると彼女はその場に崩れ落ちる。


「そこまで! 勝者はアベル・フォン・コーネリア!」


審判役の女性がそう言うと、観客たちは歓声を上げるのであった。


「私の負けだ」


セレナは悔しそうに呟くと、俺に向かって頭を下げた。


「すまなかったな……私はただお前に認めてもらいたかっただけなんだ……」


彼女は目に涙を浮かべていた。よほど悔しかったのだろう。まあ自分の実力が俺に劣っていると思ったのかも知れないな……


「じゃあ約束通り好きにさせてもらうぞ?」


「ああ、煮るなり焼くなり好きにしてくれ」


彼女は覚悟を決めたようだった。そんな彼女を見て俺は思わず笑ってしまう。


「な、何を笑っているんだ!?」


「いや、すまん……やっぱりお前は昔から変わってないなって思ってさ……」


俺がそう言うと、彼女は不思議そうに首を傾げた。どうやら自覚は無いみたいだな……まあ昔から頑固な性格してたしな仕方ないか……


「まあ、そういうところも含めて好きだけどな」


「なっ!? いきなり何を言うんだ!?」


セレナの顔は真っ赤に染まっていた。こういうところが可愛いんだよな……


「それで、私にどうしてほしいんだ?」


「このアーガスを守る騎士団長になってくれ」


俺がそう言うと、彼女は驚いた表情を浮かべた。だがすぐに笑みを浮かべると力強く頷く。


「分かった……引き受けよう」


こうして俺はセレナをアーガスの騎士団長に任命したのであった。
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