上 下
22 / 30

22

しおりを挟む
翌日、俺はアーガス領内にある湖で、釣りをしていた。


「平和だな……」


のんびりとした時間を過ごしていると、アリサが現れた。彼女は俺を見つけると笑顔で話しかけてくる。


「アベルさん、ここにいたんですね!」


「ああ、釣りをしてるよ」


俺はそう言うと竿を上げた……すると巨大な魚が釣れた。


「何だこりゃ……」


よく見ると上半身が人間の女、下半身が魚の人魚だった。


「アベルさん、これは人魚ですよ!」


アリサが目を輝かせながら言った。


「人魚がなぜ湖に?」


俺は驚きながらも釣り上げた人魚を見た。すると突然、目が開きこちらを見つめてくる。そして口を開いた。


「あなた、私の王子様ね!!」


「……は?」


俺は呆然とした表情を浮かべながら彼女を見る。アリサも困惑していた。


(どういうことだ?)


俺が考えていると彼女は俺の手を摑んできた。そして俺の手に頬擦りをする。


「ああ、やっぱり間違いないわ!」


「君は一体……」


俺が問いかけようとすると彼女は言った。


「私は人魚族の姫、マリーナよ!」


(人魚族だと……)


俺は驚愕しながら彼女を見つめた。アリサも驚いているようだ。そんな俺たちを無視して、マリーナと名乗る人魚は言った。


「さぁ、結婚しましょう!」


マリーナは俺の手を握り締めて顔を近づけてくる。俺は困惑しながらも距離を取ろうとするが離れない……そして彼女は俺を押し倒した。


「ちょ、ちょっと待て!」


「嫌よ、待たないわ」


マリーナは俺の上に覆い被さると唇を重ねてきた。彼女の柔らかい感触が伝わってくる……アリサは困惑している様子だ。しばらく口付けが続いた後、ようやく解放された俺は咳き込んだ。


「ゴホッ……いきなり何をするんだ」


俺が睨むと彼女は妖艶な笑みを浮かべて言った。


「だって一目惚れしたんだもの♡」


「だからといっていきなりキスをするのはおかしいだろう」


俺が呆れながら言うと、彼女は悪びれる様子もなく言った。


「私はキスしないと死んでしまう呪いにかかっているのよ」


(そんな馬鹿な……)


俺は心の中でツッコミを入れる。だが、彼女の目は本気だった。どうやら本気で言っているようだ……それを見たアリサが口を開く。


「あの……アベルさんから離れてください!」


アリサは俺とマリーナの間に割って入ってきた。そして両手を広げて壁になるような体勢をとる。するとマリーナはアリサを睨みつけた。


「何よ、小娘!」


「私はアベルさんの彼女です!」


アリサは堂々と宣言するとマリーナに向かって叫んだ。


「私だって将来は彼のお嫁さんになるんだから!」


(おいおい、勝手に決めるなよ……)


そんな俺の思いとは裏腹に2人は睨み合っている。しばらく沈黙が続いた後、マリーナが口を開いた。


「いいわ! じゃあ勝負しましょう」


「望むところです!」


2人は火花を散らしながら睨み合いを始めた。俺はその光景を見てため息をつく……


(どうしてこうなったんだ……)


それからしばらくの間、2人の口論は続いた。


「アベルさんは私のものよ!」


「いいえ! 私の王子様なんだから!」


2人の戦いはヒートアップしていく。このままでは収拾がつかなくなると思った俺は仲裁に入った。


「2人とも落ち着け……」


しかし、その言葉を聞いた瞬間、2人は同時に俺の方へ振り向いた。そして同時に言った。


「アベルさんは黙ってて!!」


「あなたは黙ってて!!」


2人に怒られてしまい、俺はショックを受ける……それを見たアリサが言った。


「とにかく勝負です! 私が勝ったらアベルさんを諦めてもらいます!」


「いいわよ。でも、私が勝ったらアベルさんは私のものよ」


マリーナは不敵な笑みを浮かべるとアリサを見つめた。アリサは真剣な表情でマリーナを見ている。


(なんか大変なことになってきたな……)


俺は心の中で呟きながらため息をついた……こうして2人の勝負が始まることになったのだ。

アリサとマリーナによる戦いが幕を開けた。2人は睨み合いながら距離を取ると構えを取る。最初に動いたのはアリサだった。彼女は風の魔法を使うと、マリーナに向けて放つ。


「ウィンドカッター!」


無数の風の刃がマリーナを襲う……しかし、彼女は余裕の表情でそれを躱す。


「まだまだね」


マリーナはニヤリと笑みを浮かべると、地面を蹴ってアリサに迫った。そして拳を突き出すが、アリサはそれを受け流すと距離を取った。


「今度はこっちの番よ!」


マリーナは腕を組むと、呪文を唱えた。


「フレアバースト!!」


アリサは咄嗟に防御魔法を唱えた。彼女の前に炎の渦が巻き起こり、マリーナの攻撃を防ぐ……だが、炎が消えた瞬間、マリーナが目の前に迫っていた。彼女は蹴りを繰り出すがアリサはなんとかガードする。そして反撃とばかりに掌底を放った。


「はあッ!!」


しかし、マリーナは受け流すと腕を摑んで投げ飛ばした。アリサの身体は宙を舞い地面に叩きつけられる。


「きゃあッ!!」


アリサは悲鳴を上げた。だが、すぐに立ち上がると再び構えを取る。それを見たマリーナは笑みを浮かべた。


「なかなかやるじゃない」


「あなたこそ!」


2人は同時に動いた……アリサは風の刃を放つとマリーナは拳でそれを破壊する。そしてそのまま接近すると回し蹴りを放った。だが、アリサはそれを紙一重で回避し、彼女の腹部に掌底を放つ。


「ぐふっ……」


マリーナは苦痛の表情を浮かべながら後退りした。アリサは追撃しようとするが、マリーナも負けじとカウンターを繰り出す。両者の攻防はしばらく続いたが、ついに決着がついた……アリサが放った風の刃がマリーナの頬を掠めたのだ。


「くっ……」


マリーナは頬に手を当てて出血していることを確認した後、ニヤリと笑みを浮かべて言った。


「ふふっ……やるわね」


「そっちこそ!」


2人は睨み合うと再び構えを取った。激しい攻防が続き、2人とも傷だらけになっていく。だが、彼女たちは決して引かずに戦い続けた……そしてついに決着がつく時が来た。


「これで最後よ!!」


アリサはそう叫ぶと渾身の一撃を放つ。


「クロスインパクト!!」


その瞬間、マリーナの拳とアリサの拳がぶつかった……衝撃波が周囲に広がり、砂埃が起こる。しばらくすると視界が開けてきた……そこには地面に倒れたアリサとマリーナの姿があった。どうやら二人とも意識を失っているようだ。2人の決着を見て俺はため息をついた。


「引き分け……か」


俺が呟くとアリサとマリーナは同時に起き上がる……そして顔を見合わせると笑い合った。


「引き分けのようね」


「そうですね……」


2人は手を取り合って和解したようだ。その様子を見て俺は安心していた。


(一時はどうなるかと思ったが、なんとかなったな……)


俺は心の中で呟くと2人に話しかけた。


「とりあえず帰ろうか」


「はい!」


アリサは元気よく返事をすると、俺の腕に抱きついてきた。それを見たマリーナは不機嫌そうな表情を浮かべるが、ため息をついて言った。


「仕方ないわね……」


こうして俺たちは家路につくことにした……ちなみに帰り道でアリサとマリーナが口論することはなかったが、常に睨み合っていたのは言うまでもないだろう……
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

恋心を利用されている夫をそろそろ返してもらいます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:8,143pt お気に入り:1,258

ちびっ子には見せられないよ!魔法少女と、その使い魔。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:11

ダイニングキッチン『最後に晩餐』

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:1

野良烏〜書捨て4コマ的SS集

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:1

アラフォー料理人が始める異世界スローライフ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:6,107pt お気に入り:3,092

書捨て4コマ的SS集〜思いつきで書く話

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:2

処理中です...