四季神と亜麻色の髪の姫

神代 生悠

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彼女の名はマラ・アスラン

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今日も街は色鮮やかだ。人混みをかき分け向かう先はいつも決まっている。
『喫茶baron』と書いている蒼い看板をめがけ足取りを早める。

「!?」危険を察知した。

「アソン、あっちにはいない。」

「まずいぞ、今日はイアル王子が帰ってくる日であるのに!姫様は何をしてらっしゃるのだ!」

そんな会話が聞こえてくる。
私を探している男2人アソンとムガルは私の二つ年上の兄ハルトの側近。おそらくハルト兄の命で私を探しにきたのだろう。
兄様が帰ってくるのが嫌だから抜け出したのに。
それに兄様が帰ってくるだけではない。今日は隣の国のヘレン王国から第一王子であるテト・グレイスという男がやってくる日なのだ。つまり…

「お見合いなんか絶対嫌なんだからっ」
相手はテト・グレイス。美形で優秀で評判もいい。金色のブロンドの髪に切れ長の瞳。誰もが彼の容姿に見とれてしまう。彼とは今日が初対面なのだ。いわゆる完璧王子な訳だが私は全く興味がなかった。ましてやそんな人と結婚するなんて少しも考えてなどいない。きっと街中の娘達は私を羨ましがるだろう。
いや、そんなことは関係ない。とりあえず逃げなければならない。見つかれば強制的に城に連れ戻され退屈なお見合いなのだ。

『喫茶baron』というくすんだ蒼色の看板が見え私は素早く店の中に入る。まだ早朝ということもあり店の中に客の姿はなかった。
幼い頃亡き母ミラノと通った店。母が流行り病で亡くなってからもここに通い続けている。それにこの店には私の幼なじみがいるから…。

「あれ?マラ?今日は早いね。」

店の奥から長身の青年が顔を出している。ふんわりとした紺色の髪に優しい瞳…。

「おはよう、ジェシ。」

私は外套を脱ぎそばの椅子にかけた。
ジェシは私より一つ年上でこの喫茶店の主人の息子である。

「あ、さてはまた城から逃げてきたな?」

呆れたように微笑むジェシの瞳はいつも優しくて暖かかった。
彼は幼い頃からずっと一緒だった兄のような人。執務漬けだったイアル、ハルトよりも過ごしてきた時間はジェシが一番長い。
私は椅子に腰掛け汗ばんだ額を拭った。

「まぁ行き詰まったらここに来ればいいよ。あ、何か飲む?今新しいメニュー作ってて味見してほしいんだけど…。」

「飲みたい!朝起きてすぐ出てきたから何も食べてなかったんだぁ~!」

「あらあら。じゃあ、パンとスープも用意するから待ってて。」

「いいの!?嬉しいですっっ泣」

ジェシはいつも何も聞かずに私をこの店においてくれる。そして泣いてる時はそっと頭を撫でてくれる。そう。ジェシは私の好きな人なんだ…。

「なるほど…そういうわけか…。マラは結婚したくないんでしょう?」

私は今日イアルが隣国のヘレン王国の出張から帰ってくること、ヘレン王国の王子テト・グレイスとお見合いしなければならないことなど全てを話した。

「まぁマラももう17歳だからお嫁に行ってもいい歳だよね。俺も1度だけテト王子に会ったことがあるよ。」

「そうなのっ!?ごほっっ。」

ジェシが出してくれた牛乳パンを口に含めながら私は身を乗り出した。

「こらこらお行儀悪いぞぉ~。1度だけね。優しそうでお転婆なマラにはいい相手かもしれないぞ?1度だけ会ってみればいいと思うけど…。」

だめだよ。そんな事言わないで?だって私が好きなのは…。胸がチクチク痛むのはなんでだろう?

「うーん…。」

その瞬間入口のドアが勢いよく開け放たれた。
あ、まずい。

「ジェシ、またこいつが迷惑かけたな。」

「いやいや。空腹だったそうなので朝食を出してあげただけですよ。」

「ハ、ハルト兄様…。」

そこには白いマントを羽織りすらっとした長身の男が立っていた。そう。私の兄ハルト・アスラン…。

「全く。今日は兄上が帰ってくるのにお前は!早く城に戻る…。」

ハルトが話し終わる前に私はその場から姿を消した。もちろん大好きなジェシが作ってくれた牛乳パンをしっかりと持って。

「かくれんぼはマラの得意技ですから笑」

ジェシは呆れたように笑いながら私の食べ終えた皿を片ずける。ハルトはため息をついた。

「マラの能力は俺もかなわない。兄様には俺から報告しておく。いつもすまないな、ジェシ。あいつが頼れるのはお前くらいなんだ。俺はあいつに何もしてやることが出来ないから…。」

「いえいえ、いいんですよ。ハルトさんは優しいお兄ちゃんです。これからもマラのこと可愛がってあげてください。」

私は人間には使えない、有り得ない能力を持っていた。

~身を隠す技~
つまり周りの人間から自分の姿を見えなくすることが出来る技。簡単に言えば透明人間になれるのだ。私からは普通に世界が見えるが他人からは何も見えない。いざというときはこれわ使って隠れていれば誰からも見つからないのだ。

でも私はまだ知らない。いや、誰も予測などしていなかった。少しずつ、でも確実に復活しつつあるあちら側の世界が刃をむき出しこちらに向かっていることを…。
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