うたかたのシーラ〜虐げられてきた少女は異世界で愛される〜

樹慧一

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異世界でも苦しい思いをするの?

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「ふん、聖女でもないみすぼらしい女など要るものか!呪われた地で命尽きるがいい! 」

 ああ、ここでもなのね。告げられた言葉に悲しみと諦めを感じながら、詩萊は顔を伏せた。






 この物語の主人公、星沢詩萊ほしざわしいらは、父親が詩萊がお腹の中に居るときに浮気をして以来母親と二人きりで暮らしてきた。

 お金もなくて苦しいけれど、お母さんの愛情をたくさんもらった日々。それが今では懐かしい。

 詩萊のために沢山働いた母親は体を悪くして、詩萊が小学生に上がる前に亡くなった。

 その後世間の目を気にした父親に詩萊は引き取られることになるのだが、そこからが地獄の始まりだった。



 詩萊が新しく暮らすことになった家には、新しい母親と、父親が詩萊と同時期に身ごもらせた母親違いの妹の聖萊せいらが居た。

 仲良くしようと努力する詩萊とは違い詩萊を見下し邪魔者扱いする母子二人と詩萊だけに冷たい父親のもとで、詩萊の心が傷だらけになるのにそう時間はかからなかった。
 





「やめて、やめて聖萊ちゃん! 」
  学校の裏庭で、詩萊の声が響く。
「なあに?詩萊お姉ちゃん。せっかく聖萊がお詫びにきれいにしてあげるって言うのにさあ」

 聖萊とクラスメイトに教室でチョークの粉をかけられた詩萊の頭に、雨上がりの水たまりからすくった泥水がだらだらとかかる。

 くすくすと聞こえる周りの女子の笑い声に、詩萊の顔がかあっと熱くなった。



 小学校からずっと詩萊をいじめて来た同級生はそのまま全員同じ中学に上がり、二年生になった今でも変わらず詩萊をいじめ続けている。

 そのリーダーこそが、聖萊だった。
 赤みがかったさらさらの髪に、珍しい紫の目の愛らしい見た目。そしてなんでもできる聖萊は、すぐに先生にもクラスメイトにも気に入られ、詩萊をいじめるリーダーになった。

 勉強は頑張っても中の上、不器用で地味な詩萊に勝ち目などなかった。

 

 お母さん譲りの黒い髪と青い目を、それぞれ目も当てられない状態にされた詩萊は、ただ泣くことしか出来ない。

「詩萊お姉ちゃんってば、すぐ泣いて聖萊を悪者にしようとするんだから」
「聖萊ちゃんがかわいそうでしょ!謝りなさいよ! 」
「そうよ、捨てられっ子のくせに、拾ってくれた聖萊の家族に悪いと思わないの? 」

 容赦ない言葉が、詩萊の心をぐさりぐさりと刺していく。






 しばらくして、ようやくいじめから開放された詩萊はそっと裏庭の木の陰へと忍び込んだ。

「ぴいちゃん、ぴいちゃん」

 詩萊は、そっと自分の唯一のよりどころになっている小鳥の名前を呼ぶ。すると、一羽の青い鳥がぴょこりと顔を出した。

「ぴいちゃん! 」

 羽を怪我して裏庭に落ちていたのを助けて以来、詩萊になついてくれた真っ青な珍しい小鳥。ぴいちゃんは、すりすりと詩萊のほっぺに顔を寄せる。



「うふふ、くすぐったい。ぴいちゃん、あのね。今日も私、頑張ったんだよ」

 詩萊は、今日あった出来事をぴいちゃんにゆっくりと話し始めた。ぴいちゃんは、時に首を傾げ、時にあいづちを打つように頷いてずっと詩萊の話を聞いてくれた。

「ぴいちゃん、私の味方はあなただけよ。今日もありがとう」

 詩萊は少ないおこづかいでやっと買った小鳥用のクッキーを、ぴいちゃんにひとつお礼にあげる。それをおいしそうに食べたぴいちゃんは、空へと元気いっぱいに飛んでいった。






「……ただいま」

 学校が終わって、夕方。泥だらけの制服で先生とクラスメイトから汚い、臭い、菌が移るとひどい言葉を浴びせられてしゅんとした詩萊が家に帰ると、詩萊を見るなり聖萊の母親が顔をしかめた。

「まあ、なんて汚い。洗濯機やお湯を使うなんて許さないわよ。手で洗いなさい」
「……はい。ごめんなさい、おかあさん」

 冬の厳しい寒さの中、詩萊は一生懸命制服を洗う。

「あしたまでに、乾くかな」

 詩萊の制服は、古いおさがり一着しかない。明日の制服の心配をしつつ洗っていると、先に帰っていた聖萊が顔を出した。

「ねえ、詩萊お姉ちゃん。今日の夜、一緒に遊びましょう」



「一緒に、遊ぶ? 」
 悪い予感がしながらも、詩萊は何とか言葉を返す。
「そう、今日のお詫びに!姉妹で仲良くしましょうよ」

 お詫び、と聖萊が言っていいことがあったことなど一度もなかった。怪しみながら詩萊が言葉を返せずにいると、そっと聖萊が詩萊に耳打ちした。

「夜にこっそりお外に出るの。万引きするのと聖萊とお出かけ、どっちか選んでよね。ね、ね、お姉ちゃん。どっちがいい? 」






(どうしよう、夜に聖萊ちゃんを連れ出したって、お父さんとおかあさんにきっと凄く怒られるわ。でも……)

 万引きは、したくない。そう思ってしぶしぶ聖萊と抜け出して詩萊が連れて来られたのは、大人たちが口を揃えて「入ってはいけない」と言う場所だった。

 古いお墓らしいのだが、昼でも真っ暗に見えるほどの木に覆われた恐ろしい雰囲気の所で、いじめっ子たちですら近づかない曰く付きの場所だ。



「さあ、入るわよ」
「聖萊ちゃん、駄目だよ! 」

 入ろうとする聖萊を、詩萊が必死で引き止める。だが詩萊の呼びかけを無視した聖萊は、詩萊を無理矢理お墓の敷地へ引きずり込んだ。

「ここのお墓に置いたモノをとってきてくれたら、今日は許してあげる」



 じゃないとお母さんのペンダント、とっちゃうよ?言われた言葉に、詩萊は震え上がる。
 お母さんの遺品は、今までことごとく聖萊に取られて壊されてきた。唯一残っているのが、今詩萊が首に下げているペンダントなのだ。

 お母さんの、ペンダント。うわ言のように呟いた詩萊は、おそるおそるお墓へと足を踏み出した。






 草木が生い茂り、詩萊の肌を傷つける。そんな中必死で奥へと進んだ詩萊の前に、古ぼけた大きなお墓が姿を現した。

(おいてるものを、とればおわり)

 そう言い聞かせてさらに進む詩萊の目に、お墓の上にあるなにか青いものがぼんやりと姿を現す。

(……なに? )



 目をこらして、一瞬。詩萊は声にならない叫びを上げた。

「ぴいちゃん、ぴいちゃん……! 」



 お墓の上に置かれていたのは、変わり果てた姿のぴいちゃんだった。

「ああ、私のせいだ。私がぴいちゃんに頼ってばかりだったから、聖萊ちゃんに見つかって……! 」

 状況から考えても、聖萊がぴいちゃんになにかしたのは明らかだった。だが、詩萊は自分をただただ責めて涙を流した。



 後ろから、聖萊の笑い声がする。

「お姉ちゃんのお友達に、立派なお墓を用意してあげたの。嬉しいでしょう? 」
「……っ」
「なによ、その目は。生意気ね! 」

 詩萊は生まれて初めてきっ、と聖萊をにらみ、大事そうにぴいちゃんを抱きしめた。それに気分を悪くした聖萊が詩萊につかみかかった、その時。

「きゃ……!? 」

 眩しい光が、二人を包み込んだ。







 眩しい光に、目が見えなくなって。

 目をぎゅっと閉じてしばらくすると、ふわりといい香りが漂ってくる。

 詩萊がゆっくりと目を開けると、そこには先ほどまでの暗いお墓は跡形もなく、きらびやかな世界が広がっていた。

 金色の部屋飾りに、大理石でできた壁と床。広く突き抜けた天井のステンドグラスからは、色とりどりの光が漏れる。

 その中でもひときわ輝きを放つ、オレンジの髪につり気味な金の瞳。赤いマントを羽織った絵本の中の王子様のような格好の詩萊より少し年上だろう少年が、顔をしかめて呟いた。

「ひどい見てくれだな。これが、聖女か? 」



 「聖、女? 」
 意味も分からず聞き返した詩萊を、少年はぶしつけにじろじろと見る。

「泥だらけでぼさぼさの髪。痩せこけて顔色も悪い。服も粗末だ。こんなのが本当に我が国を救う聖女なのか? 」

(なにそれ、一体どうなってるの)

 混乱する詩萊をよそに、少年は勝手に言葉を続けた。

「俺はこの国の高貴なる王子だ。この国――ノーブルヴェインには今人や土地に致命的な影響を与える黒い霧の脅威が迫っている。それを晴らせる唯一の存在、それが聖女だ。それをこの俺が召喚してやったのだ。聖女であるなら、地位も暮らしも全て俺が保証しよう。いい暮らしをさせてやるぞ」

 ばさり、威圧的にマントをひるがえした少年の口から、わからない事情ばかりが飛び出す。

 それになんとか返答しようとしたその時。後ろから、聞き慣れた声が響いた。

「聖女はその子じゃありません。きっと……私、聖萊です! 」






「なんだと? 」

(……聖萊ちゃん! )

 詩萊の言葉をさえぎり、大声を上げたのは聖萊だった。聖萊はその愛らしい顔でほほえむ。すると、それを見た少年が表情をあからさまに変えた。

「なんと、美しい……!きっと彼女が聖女に違いない!おいお前、急いで魔法適性の鑑定をしろ! 」

 そう少年が言うや否や、控えていた大人が詩萊と聖萊に手をかざす。それに詩萊が覚えていると、手をかざした大人が機械的な口調で少年へと報告した。

「後ろの方……セーラ様には最高レベルの光属性魔法の才が有ります。前の方は、なにも」



「なるほど、思ったとおりだ」
 大人の言葉に、少年はうんうんと頷いた。そして。

「小汚い女め、聖女を騙ってよくも俺を騙そうとしたな!お前は死の国へと追放だ! 」
 そう詩萊へと言い放ったのだった。



(わ、私、何も言ってない)
「あ、あの、そんな事言われても……! 」

 こんな知らない場所で、生きていくすべもありません。そう困り顔で言う詩萊に、少年はなお冷たく言葉を浴びせた。

「ふん、聖女でもないみすぼらしい女など要るものか!呪われた地で命尽きるがいい! 」




 そして物語は、冒頭へと至る。



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