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高揚
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外からの熱気が、徐々に会場内に流れてきた。裏口から正面入り口の方に向かい、私は今、外に出ている。テントを張ったグッズ売り場には未だ列を作っているが、スタッフの後ろに置かれた大量のダンボールはほぼ空箱になっていた。いったい一日で何個ぐらい販売されるかな。どんどんと積み重なっていく空箱から想像する。
テントの前方にあるベンチに腰掛けてみると、そこからグッズを買い終えた人たちがチケットを持ってドームへと入っていく様子を観察することができる。彼らは皆、顔に喜ばしさを生き生きと動かしていた。グッズを買い終えたファンはわたしの方に近寄ってきて、のベンチに荷物を置いた。何をするのかと思い、わたしは無意識にも目を寄せていた。どうやらドームをバックにそれぞれグッズと一緒に写真を撮るようだ。
「すごい人だね~」
不意に、反隣からの声が聞くともなしに聞こえてきた。ライブ会場にいるファン層とは少し離れたような渋い声質。
「翔也さん、まだかな」と呟きながら、私はぎこちなく首を動かす。なるべく自然に。私は探すふりをして、目線だけを隣に座る男性に向けた。
淡い黒の色眼鏡をかけた彼の目の先は、購入したグッズを添えて写真を撮っているファンの人たちに向けられていた。どうやら気づかれてないようだ。
私は男性のファッションに目がついた。ジーンズに白いシャツ、その上に白黒チェック柄のカーディガンといったシンプルな服装だが、なぜかそれがおしゃれに着こなされていた。
-洒落ているなぁ、この人。
「君、ファンの人かと思ったけど、スタッフだったんだね」
目線上から聞こえたその声に、私の背筋はピクリと上がった。
気を抜かしている隙に、見られていたのか。男性、完全に私に話しかけている、よね。恐る恐る目線を上げ、顔を彼の正面に向けた。
「それをぶら下げているってことは、スタッフさんだよね」
男性は私の吊り下げ名札を指さした。やはり私に話しかけていたか。もはやそらすことは出来なさそうだ。
だが、どうしよう。なんと返事をするのが適当だろうか。こんなベンチで座っているスタッフがいたら、間違いなくサボってると勘違いされる。
「いや、えーっと、スタッフの関係者というか、なんというか」
軽くうろたえる自分の反応に、思わず目が泳いでしまう。今の失言で完全に怪しまれたに違いない。
「もしや、-雄人が招待した子かな」
男性のひょんな発言に、泳いだ目の先が彼の目線と合点した。
「……え、それは」
「そうかそうか。君か」
私の応えにならない曖昧な返しに対して、男性は納得した表情を見せると同時に、見開いた目と笑みを浮かべた。
その様子に私は眉を顰めた。いったい何に、納得したのだ?何と、合点したのだろうか。頭に次々と出てくる疑問に戸惑う。彼の発言は、まるで私のことを知っているような言い分だ。
あなたは誰ですか、と問いただしたかったが、聞く気がでなかった。
「まあ、今日は、とにかく彼のライブを是非とも楽しんでくれ」
彼はベンチから尻を浮かし、私の肩に軽く手を添えると、会場の方へと歩いて行った。「今日は」という単語に力を込めた口調に聞こえたのは気のせいだろうか。
「……だれなんだろ」
去っていく男性の後ろ姿が人混みの中に紛れていき、私はその先を一点に見つめていた。頭の中で沸いた疑問がポロッと溢れた。
あの男性、関係者なのかな。私のこと、知っている様子だった。
「おーい、美希ちゃん」
自分の名前に耳が反応し、私は物思いから正気に戻る。人混みの中から抜け出した翔也さんの姿に焦点が当たった。会場入り口からこちらに手を振って近づいてきた。
「お待たせ」
ベンチから立ち上がり、私も彼に倣い手を振った。
「会場内、人やばかったですか」
「うん、賑わってる。男性トイレも通常以上に混んでたからね」
会場のゲートにはグッズ購入と同じくらいの長い列ができていた。コンサートの三十分前。時計が五時半を知らせると、係の人は入り口の受付に立って開場した。列が動き出して、ドームの中に続々とたくさんの人が入っていく。時間指定があるものの、人の数は異常だった。
「さすが、雄人さん。すごい人だな」
「すごすぎです。ここにいる全員、雄人さんを見るために来ているってことですよね」
圧倒的なファンの数に、私は口を閉じることを忘れてしまう。熱狂的に彼のことを好きでいるファンたちは、このライブが始まる瞬間をどの風に待っているのだろう。
「俺たちも、そろそろ戻ろっか。せっかくやし、ロビーの様子見てから行こう」
「そうですね」
ファンの人に紛れながら、ロビーを横切っていく。多方から飛び交う人の声が重なり、ロビーは一気に騒がしく感じた。だが、その騒音は苛立たしいものではなかった。期待と緊張をより一層高揚させる空間を生み出す音と化していた。
たくさんの豪華な祝花やそれを撮るファンの人たちの姿、チケットと入り口番号とアルファベットを照らしながら、会場に向かう人たちの姿を通り過ぎ、私たちはスタッフ専用口と書かれた扉に入って楽屋に戻った。楽屋の時計を見ると、約束の二十分前ぴったり指していた。
「おかえりなさい。どうだった?」
楽屋に戻ると、麻衣さんはライブ準備が整っている様子だった。センターテーブルに積まれた花束や箱を整頓している。
「めちゃくちゃ楽しかったです」
「美希ちゃんと色々話せたしな」
まだライブが始まっていないというのに、十分満喫している。こんなにも高揚な気分になっている自分に頬が緩んで笑ってしまう。
「雄人さんは、もうステージで準備してるんですか」
「いや、ギリギリまで楽屋でゆっくりしてると思うわよ。さっき最終リハが終わってメイクと衣装着替えもしたから、楽屋でリラックスして本番に挑むと思うわよ。もうちょっとしたら舞台袖に移動すると思うけど。さっきやぶさんが顔出しに来たから、もしかしたら彼と話してるかも」
「やぶさん?」
「私たちの事務所の社長よ。藪紘一。事務所ではやぶさんっていう名で通用しているのよ」
……社長か。その響きに少し身を引き締めてしまう。彼の社長ってどんな人なのだろうか。勝手に思い浮かぶ社長像を当てはめる。
「そうだ。今度、やぶさんに会わせないとね」
ふと思い出したかのように、麻衣さんは胸の前で手を合わせ音を鳴らした。
「どうして、ですか?」
「やぶさん、美希ちゃんに会いたがっているみたいでね」
「私に?」
思わず大きな声をあげてしまった。
社長が私を認知しているというのか。雄人さんの事務所は大手芸能事務所として認識されている。そこの社長に認知されているというのか。畏まったスーツを着こなした品のいい社長像が想像され、微妙に背筋が伸びてしまう。
「雄人が美希ちゃんのことを話した時に、気になっちゃったみたいでね。『雄人がスカウトしたい子には興味があるな』って楽しみにしてるのよ」
麻衣さんの腕が私の肩をツンツンと突く。
若干楽しそうに話すのやめてくれませんか、と内心で呟く。
「-サイですか」
目を瞑りながら、私は適当な返事を返した。とりあえず麻衣さんからのこの話題から逃れておこう。
「まあ、そのことはライブの後でまた詳しく話すわ」
机に置かれたバインダーをチェックしながら、麻衣さんは横目で私にウインクをした。
そんなこと言われても、気になって仕方がないじゃないかと内心で愚痴りながら、私は麻衣さんのウインクに「はは」と苦笑する。
「とにかく、今は雄人のライブをしっかり見てきてもらいたいしね」
楽屋の時計がライブ開始時間に刻々と近づいてく。楽屋の前を走り回るスタッフたちが増え、ステージ裏での緊張感が伝わってくる。次々に聞こえてくる声が一層そうさせていた。
「雄人には、思いっきりライブしてもらわなきゃね。ちゃんと成功してもらわなきゃ」
「そうですね」
返事をしながら麻衣さんの顔の方に目線を移す。
その顔に、私は思わず眉をひそめた。麻衣さんの表情が言葉と裏腹のものを醸し出していたからだ。
「どうかし-」
「ぼちぼち、俺らは客席に行った方がいいですかね?」
翔也さんが私の言葉に重ねて聞いてきた。パイプ椅子から立ち上がり、翔也さんは私の方に手を置いた。
「そうね。十分前のアナウンスも流れ始めたし。よろしく、翔也」
「了解っす」
「雄人のライブ、思いっきり楽しんでね」
自信たっぷりの口調で、麻衣さんは笑顔を見せた。さっきの違和感は気のせいだったのかもしれない。
その笑顔に応えるように、私は「はい」と返事をした。
テントの前方にあるベンチに腰掛けてみると、そこからグッズを買い終えた人たちがチケットを持ってドームへと入っていく様子を観察することができる。彼らは皆、顔に喜ばしさを生き生きと動かしていた。グッズを買い終えたファンはわたしの方に近寄ってきて、のベンチに荷物を置いた。何をするのかと思い、わたしは無意識にも目を寄せていた。どうやらドームをバックにそれぞれグッズと一緒に写真を撮るようだ。
「すごい人だね~」
不意に、反隣からの声が聞くともなしに聞こえてきた。ライブ会場にいるファン層とは少し離れたような渋い声質。
「翔也さん、まだかな」と呟きながら、私はぎこちなく首を動かす。なるべく自然に。私は探すふりをして、目線だけを隣に座る男性に向けた。
淡い黒の色眼鏡をかけた彼の目の先は、購入したグッズを添えて写真を撮っているファンの人たちに向けられていた。どうやら気づかれてないようだ。
私は男性のファッションに目がついた。ジーンズに白いシャツ、その上に白黒チェック柄のカーディガンといったシンプルな服装だが、なぜかそれがおしゃれに着こなされていた。
-洒落ているなぁ、この人。
「君、ファンの人かと思ったけど、スタッフだったんだね」
目線上から聞こえたその声に、私の背筋はピクリと上がった。
気を抜かしている隙に、見られていたのか。男性、完全に私に話しかけている、よね。恐る恐る目線を上げ、顔を彼の正面に向けた。
「それをぶら下げているってことは、スタッフさんだよね」
男性は私の吊り下げ名札を指さした。やはり私に話しかけていたか。もはやそらすことは出来なさそうだ。
だが、どうしよう。なんと返事をするのが適当だろうか。こんなベンチで座っているスタッフがいたら、間違いなくサボってると勘違いされる。
「いや、えーっと、スタッフの関係者というか、なんというか」
軽くうろたえる自分の反応に、思わず目が泳いでしまう。今の失言で完全に怪しまれたに違いない。
「もしや、-雄人が招待した子かな」
男性のひょんな発言に、泳いだ目の先が彼の目線と合点した。
「……え、それは」
「そうかそうか。君か」
私の応えにならない曖昧な返しに対して、男性は納得した表情を見せると同時に、見開いた目と笑みを浮かべた。
その様子に私は眉を顰めた。いったい何に、納得したのだ?何と、合点したのだろうか。頭に次々と出てくる疑問に戸惑う。彼の発言は、まるで私のことを知っているような言い分だ。
あなたは誰ですか、と問いただしたかったが、聞く気がでなかった。
「まあ、今日は、とにかく彼のライブを是非とも楽しんでくれ」
彼はベンチから尻を浮かし、私の肩に軽く手を添えると、会場の方へと歩いて行った。「今日は」という単語に力を込めた口調に聞こえたのは気のせいだろうか。
「……だれなんだろ」
去っていく男性の後ろ姿が人混みの中に紛れていき、私はその先を一点に見つめていた。頭の中で沸いた疑問がポロッと溢れた。
あの男性、関係者なのかな。私のこと、知っている様子だった。
「おーい、美希ちゃん」
自分の名前に耳が反応し、私は物思いから正気に戻る。人混みの中から抜け出した翔也さんの姿に焦点が当たった。会場入り口からこちらに手を振って近づいてきた。
「お待たせ」
ベンチから立ち上がり、私も彼に倣い手を振った。
「会場内、人やばかったですか」
「うん、賑わってる。男性トイレも通常以上に混んでたからね」
会場のゲートにはグッズ購入と同じくらいの長い列ができていた。コンサートの三十分前。時計が五時半を知らせると、係の人は入り口の受付に立って開場した。列が動き出して、ドームの中に続々とたくさんの人が入っていく。時間指定があるものの、人の数は異常だった。
「さすが、雄人さん。すごい人だな」
「すごすぎです。ここにいる全員、雄人さんを見るために来ているってことですよね」
圧倒的なファンの数に、私は口を閉じることを忘れてしまう。熱狂的に彼のことを好きでいるファンたちは、このライブが始まる瞬間をどの風に待っているのだろう。
「俺たちも、そろそろ戻ろっか。せっかくやし、ロビーの様子見てから行こう」
「そうですね」
ファンの人に紛れながら、ロビーを横切っていく。多方から飛び交う人の声が重なり、ロビーは一気に騒がしく感じた。だが、その騒音は苛立たしいものではなかった。期待と緊張をより一層高揚させる空間を生み出す音と化していた。
たくさんの豪華な祝花やそれを撮るファンの人たちの姿、チケットと入り口番号とアルファベットを照らしながら、会場に向かう人たちの姿を通り過ぎ、私たちはスタッフ専用口と書かれた扉に入って楽屋に戻った。楽屋の時計を見ると、約束の二十分前ぴったり指していた。
「おかえりなさい。どうだった?」
楽屋に戻ると、麻衣さんはライブ準備が整っている様子だった。センターテーブルに積まれた花束や箱を整頓している。
「めちゃくちゃ楽しかったです」
「美希ちゃんと色々話せたしな」
まだライブが始まっていないというのに、十分満喫している。こんなにも高揚な気分になっている自分に頬が緩んで笑ってしまう。
「雄人さんは、もうステージで準備してるんですか」
「いや、ギリギリまで楽屋でゆっくりしてると思うわよ。さっき最終リハが終わってメイクと衣装着替えもしたから、楽屋でリラックスして本番に挑むと思うわよ。もうちょっとしたら舞台袖に移動すると思うけど。さっきやぶさんが顔出しに来たから、もしかしたら彼と話してるかも」
「やぶさん?」
「私たちの事務所の社長よ。藪紘一。事務所ではやぶさんっていう名で通用しているのよ」
……社長か。その響きに少し身を引き締めてしまう。彼の社長ってどんな人なのだろうか。勝手に思い浮かぶ社長像を当てはめる。
「そうだ。今度、やぶさんに会わせないとね」
ふと思い出したかのように、麻衣さんは胸の前で手を合わせ音を鳴らした。
「どうして、ですか?」
「やぶさん、美希ちゃんに会いたがっているみたいでね」
「私に?」
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社長が私を認知しているというのか。雄人さんの事務所は大手芸能事務所として認識されている。そこの社長に認知されているというのか。畏まったスーツを着こなした品のいい社長像が想像され、微妙に背筋が伸びてしまう。
「雄人が美希ちゃんのことを話した時に、気になっちゃったみたいでね。『雄人がスカウトしたい子には興味があるな』って楽しみにしてるのよ」
麻衣さんの腕が私の肩をツンツンと突く。
若干楽しそうに話すのやめてくれませんか、と内心で呟く。
「-サイですか」
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「まあ、そのことはライブの後でまた詳しく話すわ」
机に置かれたバインダーをチェックしながら、麻衣さんは横目で私にウインクをした。
そんなこと言われても、気になって仕方がないじゃないかと内心で愚痴りながら、私は麻衣さんのウインクに「はは」と苦笑する。
「とにかく、今は雄人のライブをしっかり見てきてもらいたいしね」
楽屋の時計がライブ開始時間に刻々と近づいてく。楽屋の前を走り回るスタッフたちが増え、ステージ裏での緊張感が伝わってくる。次々に聞こえてくる声が一層そうさせていた。
「雄人には、思いっきりライブしてもらわなきゃね。ちゃんと成功してもらわなきゃ」
「そうですね」
返事をしながら麻衣さんの顔の方に目線を移す。
その顔に、私は思わず眉をひそめた。麻衣さんの表情が言葉と裏腹のものを醸し出していたからだ。
「どうかし-」
「ぼちぼち、俺らは客席に行った方がいいですかね?」
翔也さんが私の言葉に重ねて聞いてきた。パイプ椅子から立ち上がり、翔也さんは私の方に手を置いた。
「そうね。十分前のアナウンスも流れ始めたし。よろしく、翔也」
「了解っす」
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