聖女候補に認定された幼馴染が泣きながら帰ってきたので戦争します。

名無シング

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11.邪魔者はお帰り頂く事に

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不死身のルーデル…

先日の王家からセィタン家に対して解任を通達された当代の騎士団長本人で、歴代の団長の中で戦歴を作り上げた武人。

曰く、北から略奪進軍をする遊牧系蛮族の軍勢を、自ら捕らえたドラゴンに大砲を乗せて、セィタン家に属する部下達と共に出撃して蛮族の軍を壊滅させた。
曰く、西に潜む巨大な獣の魔物を、片腕で担いできた大砲で殴りつけながら砲撃して倒した。
曰く、南で村々を荒らしまわるならず者の賞金首達を二門の大砲を両腕で持ち上げながら、部下達に弾込めさせながらならず者達を迎撃させた。

そんな根の葉の無い噂な内容の常人じゃない戦績の中で必ず言われていたのは、『どんなに負傷しても必ず生きて帰ってくる男』として称えられていた。

現在の右腕が義手になっているのは、ある肉食の地竜のブレスに右腕を吹き飛ばされて入院し、団から引退勧告を受けた時に「そんな事は無いだろ。右腕が吹っ飛んだら、生きて会話する事が出来ないだろ」と僅か一週間で退院し、特注の魔法式で動く機械義手を新しい右腕として身に着けて騎士団に復帰した。

同家の部下が肋骨二本を折る全治一ヶ月の大怪我を負った時も、一週間後に「北東に強大な敵が出た!休んでる暇は無いぞ!今すぐ出撃だ!!」とルーデル本人も肋骨六本も折る全治二ヶ月の大怪我を負ってるのにも拘らず、団の許可を取らずに無断で出撃して迎撃した。

そんな曰く付きの騎士団長であるが、職の異能などを使わずに戦歴を挙げた人物であったため、選定で才能を貰えなかった者達からはセントーラの真の英雄として称えられていた。

だが、そんな英雄もセシル・アスモデが勇者になった時に一気に忘れ去られ、セィタン家とベルフェ家の部下達と共に王都から去る時も王都の民から見送られる事は無かった。




そんな人物がこのフリーデンの町に滞在していた事に、セィタン家直属の貴族であるティファはおろか、カイ達さえも驚きを隠せなかった。
そして、聖女隊も平民出の聖女候補三人以外の騎士達もまた驚きを隠せなかった。
迂闊な行動を取れば、かつての英雄が自分達に牙を向く事に…

「もう一度言う、愚かな女。貴様は俺の友人である亜種族・・・を薄汚いと侮辱した。友が侮辱されたなら、俺も侮辱された事になる。この意味が分かるか?愚かな女よ」

ルーデルが威圧をかけながら近寄る姿に、英雄ルーデルという人物を知らない聖女候補三人は得体の知れない恐怖を感じてしまい、言葉を出せずに後ずさりをするしかなかった。
それと同時に、ルーデルの後ろからは黒色の軍服を着たセィタンの私兵団の軍人達が一門の大砲…新式の信管式大砲を数人掛りで担いで持ってきた。

「出遅れました!大隊長殿!!」
「遅いぞ!ガーデルマン君!!」
「はっ!砲の調整に時間が掛かりました!!大隊長殿!!」

部下の一人で副官のガーデルマンと呼ばれた男性がルーデルに敬礼をした後、後ろに下がって他の部下達と共に隊列を組んで待機した。
一方のルーデルは部下達が持ってきた大砲を義手である右腕で持ち上げ、砲身を空に向けていた。

「女。ここで事を起こせば、この火砲が貴様等に向けて火を噴く事になる。これ以上、事を起こさずに用件だけを述べれば見逃す」

ルーデルはそう述べた後、空に向けて空砲を放った。
実弾は込められていないが、砲身から放たれた火薬の爆発によって辺りは一瞬光り、その後に爆風の余波による衝撃と黒煙が辺りを立ち込めた…

ルーデルの後ろに立っていたカイ達は顔を腕で押さえながらも踏ん張って立っていたが、相手側の平民出の聖女候補達は砲身の爆風の余波に耐え切れずに尻餅をつき、アスモデ家から送られたドレス状の戦闘服を火薬の黒煙と地面の土で汚していった。

聖女候補達は先程の威圧の恐怖に加えて、ルーデルの威嚇射撃を行った事に恐怖が更に増してしまい、中には汚水を漏らして地面に広がらせてしまった。
逆に騎士達が聖女候補達に代わって立ち上がり、倒れた聖女候補達を乗ってきた馬車に避難させた後に責任者らしき聖女隊の副官騎士がルーデルの前に立って敬礼した。

「恐れ申し上げます!ルーデル閣下!!我々新設された聖女隊は、亜種族・・・が住まう町にて王国に対する不穏な動きがあるという報告を受けて出向き、事があれば殲滅せよと命令を受けました!!」
「そうか。して、貴様等はどう見るのかね?」
「はっ!この町はセィタン家に関わる軍事産業の町だと分かり、報告は誤報だったと言う事で我々の出る場所ではないと判明しました!!ゆえに引き返します!!」
「そうか。なら早々に立ち去れ。それと…王国に伝えろ。次に勝手な事を行えば、今度はセィタンとベルフェ双方の軍が動く…とな」
「は、はっ!!心得ました!!総員、撤退!!」

副官の命令の下、騎士達は早々に町の外に待機してある馬車と馬に乗り、王都へと撤退していった。



あまりの展開に、カイ達は唖然と眺めていたが…
マシューが腕を上げたと同時に待機していたい衛兵達を下がらせ、ルーデルも同じく左腕を上げると待機していた私兵達がルーデルの砲を回収させて奥へと下がらせた。

「さて…貴殿がキクルス伯爵の子息であるカイ・キクルスだな?」

ルーデルはゆっくりと振り向き、カイの瞳を見ながら問い始めた。
カイは一瞬固まったが、すぐさま貴族らしく礼をして挨拶をした。

「は、始めましてルーデル閣下…私がキクルス伯爵の次男でありますカイ・キクルスと申します」
「ふむ。…悪くないな」
「は、はっ?」

突然のルーデルの言葉にカイは思わず間の抜けた声を発したが、ルーデルは構わずに続けた。

「今一度、その目の輝くを見たが…悪くは無い。婚約者であった女達を聖女と言う名目と共に連れて行かれ、一人を除いた女達はあの間男に取られて憎悪の炎を宿してもなお未来への希望を持つ目をしている…実に若いが、とても良い眼をしている。ティファ嬢の横に居る男装の令嬢もまた同じ眼をしているのも分かる…社長殿。カイ殿達を招いて引き続き会議を行おうではないか」
「ははっ!よろしく頼みます、ルーデル閣下…!!」

言葉を交わしたルーデルは硬い皮の軍靴の音を立てながら町長宅である工場へと戻り、カイ達もまたマシューを先頭に戻っていった。




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