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使用人との攻防戦
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「──車椅子なんていらないわ。歩けるもの」
エントランスを通り抜けようとすると他の使用人によって防がれる。
「そうは仰らずに乗って下さいませ」
困ったように顔を見合わせる侍女達。車椅子に座らないと屋敷の中には入れてくれないのか、使用人達によってエントランスを塞がれていた。何度か押し問答が続いているが、中々折れてくれない。
なぜこのような状況になっているのかというと、時は少し遡る。
靴を持ったまま馬車から降りてきたエレーナを待っていたのは、公爵家に仕えてくれている者達だった。
エレーナの姿に悲鳴をあげる者はいなかったが、普段エレーナの周りで働いている者は血の気が引き、他の者も皆、絶句していた。
中には迎えの笑みで固まっている人もいた。ぴくぴくと頬が痙攣している者も。それはお父様の補佐官兼執事でもあるデュークだ。
言葉に発した訳ではないが、みんな脳内でこう考えていた。
──舞踏会に行ったはずなのに何故またお嬢様はボサボサになり、怪我をしているのかと
小さい頃はお転婆娘だったエレーナ。昔はよく生傷を作っていた。他の令嬢だったら痛みに泣くような怪我もケロリとしていた。
だからいつも怪我をした本人よりも、周りが心配し、慌てふためく始末。
今回もそうだ。
こういうのに慣れていた長年仕えている古参の侍女達が動き、屋敷内から車椅子を即座に持ってくる。これは昔、エルドレッドが足を骨折した際に使っていたものだった。
エレーナの性格と、侍女達の行動の意図を理解した者は、エントランスを塞いだ。
ポカンとしていたのは新参の者だけ。それ以外の人達は、会話をしなくても互いの視線で理解し、一手先を読み、動く。
「お嬢様、お乗り下さい」
「いやよ」
エレーナは一瞥し、即座に切り捨てる。
既に御者はお医者様を呼びに馬に鞭を当てて、馬車をUターンさせた。がら空きになった背後を、残った侍女達が埋めて四方を固められる。
彼女達はエレーナが小さい頃から勤めてくれているので、エレーナのことをよく知っている。
だからエレーナが何とかしてこの場を突破しようとしていることを悟り、絶対に逃さない強い意志をひしひしと感じた。
「言うことを聞いてくださいお嬢様」
デュークにため息をつかれる。
「どうやったら舞踏会でそんな状態になるのですか……」
「なるのよ。だから今、こうなっているのでしょう」
少しだけ裾を上げて足を見せれば、はしたないからやめなさいと叱られる。
確かに普通に会場に居ただけではならない。今日はその〝普通〟ではなかったのだ。
一日で起こったとは信じられないほど、沢山のことがエレーナの身に降り掛かってきた。いつもより心身共に疲弊している。
「ですから、取り敢えずお乗り下さい。あなた様は時折無理をされる。私たちがそれを分からないとでも?」
冷たいけれど冷たくない。本当に心配で、言っているのだろう。
「…………」
「お嬢様。素直に乗ってください」
今まで見守っていたリリアンが意を決したように発言した。
「リリアン……あなた。──わかったわ。乗るわ。降参よ」
そんな憂いを帯びた目で見られると良心が痛む。
空気が緩まる。車椅子に腰を下ろせば、靴をデュークが引き取り、すべるように動き始めた。
エントランスを通り抜けようとすると他の使用人によって防がれる。
「そうは仰らずに乗って下さいませ」
困ったように顔を見合わせる侍女達。車椅子に座らないと屋敷の中には入れてくれないのか、使用人達によってエントランスを塞がれていた。何度か押し問答が続いているが、中々折れてくれない。
なぜこのような状況になっているのかというと、時は少し遡る。
靴を持ったまま馬車から降りてきたエレーナを待っていたのは、公爵家に仕えてくれている者達だった。
エレーナの姿に悲鳴をあげる者はいなかったが、普段エレーナの周りで働いている者は血の気が引き、他の者も皆、絶句していた。
中には迎えの笑みで固まっている人もいた。ぴくぴくと頬が痙攣している者も。それはお父様の補佐官兼執事でもあるデュークだ。
言葉に発した訳ではないが、みんな脳内でこう考えていた。
──舞踏会に行ったはずなのに何故またお嬢様はボサボサになり、怪我をしているのかと
小さい頃はお転婆娘だったエレーナ。昔はよく生傷を作っていた。他の令嬢だったら痛みに泣くような怪我もケロリとしていた。
だからいつも怪我をした本人よりも、周りが心配し、慌てふためく始末。
今回もそうだ。
こういうのに慣れていた長年仕えている古参の侍女達が動き、屋敷内から車椅子を即座に持ってくる。これは昔、エルドレッドが足を骨折した際に使っていたものだった。
エレーナの性格と、侍女達の行動の意図を理解した者は、エントランスを塞いだ。
ポカンとしていたのは新参の者だけ。それ以外の人達は、会話をしなくても互いの視線で理解し、一手先を読み、動く。
「お嬢様、お乗り下さい」
「いやよ」
エレーナは一瞥し、即座に切り捨てる。
既に御者はお医者様を呼びに馬に鞭を当てて、馬車をUターンさせた。がら空きになった背後を、残った侍女達が埋めて四方を固められる。
彼女達はエレーナが小さい頃から勤めてくれているので、エレーナのことをよく知っている。
だからエレーナが何とかしてこの場を突破しようとしていることを悟り、絶対に逃さない強い意志をひしひしと感じた。
「言うことを聞いてくださいお嬢様」
デュークにため息をつかれる。
「どうやったら舞踏会でそんな状態になるのですか……」
「なるのよ。だから今、こうなっているのでしょう」
少しだけ裾を上げて足を見せれば、はしたないからやめなさいと叱られる。
確かに普通に会場に居ただけではならない。今日はその〝普通〟ではなかったのだ。
一日で起こったとは信じられないほど、沢山のことがエレーナの身に降り掛かってきた。いつもより心身共に疲弊している。
「ですから、取り敢えずお乗り下さい。あなた様は時折無理をされる。私たちがそれを分からないとでも?」
冷たいけれど冷たくない。本当に心配で、言っているのだろう。
「…………」
「お嬢様。素直に乗ってください」
今まで見守っていたリリアンが意を決したように発言した。
「リリアン……あなた。──わかったわ。乗るわ。降参よ」
そんな憂いを帯びた目で見られると良心が痛む。
空気が緩まる。車椅子に腰を下ろせば、靴をデュークが引き取り、すべるように動き始めた。
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