王子殿下の慕う人

夕香里

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「じゃあ今、リリアンネ様はどこに?」

「馬車に乗ったあとは見てないので……多分先に出立したと思いますよ」

「目的地は……」

「ルルクレッツェ国です。国境に辿り着く前に捕獲されますけど。ここに残ってたら私が捕まえて差しあげましたのに……」

残念そうに口を尖らせたメイリーンの瞳は凍っている。怖い。〝捕まえる〟がそのままの意味ではなさそうに聞こえる。

「そっそうなの。ではここはどこ?」

「私にも分からないんですよね。でも大丈夫です。発信機は壊れてないのですぐに助けが来ます。まあその前に殺されちゃうかもしれませんが」

呆気楽観と物騒なことを言う。

「怖いこと言うのね」

エレーナだって同じ考えだ。捕まるなんて普通ありえない。ましてや何故か牢屋だ。窓がないので今が昼か夜か意識を失っていた自分には分からない。

エレーナの記憶はリリアンネに何かを嗅がされたところで終わっていた。推測するにリリアンネに攫われたのだろう。

「そういえば私、本当に驚いたんですよ! 木箱に入れられて、中々閉まらないなと思ってたらエレーナさまが詰め込まれるなんて」

「なっなんかごめんなさい」

「謝ることではないです。それよりも計画ではエレーナ様が捕まるはずなかったのですが……何か変更点でもありましたか?」

「計画って?」

きょとんとすれば、目を見張られた。

「知らないのですか。じゃあ何故ここに?」

メイリーンも小首を傾げた。そしてにわかに目付きが厳しくなる。

「まずいですね。私だけなら大丈夫なのですが、私がいてエレーナ様に傷がつくと後が怖い」

「どういうこと? 何が起きているの」

「……詳しいことは言えません。言えるのはジェニファー王女もどきの私が彼らに捕まってそこを叩くはずだった。ということです。エレーナ様がここにいるのは予定外です」

彼女は縛られている腕を後ろに回そうとして諦めた。

「とりあえずエレーナ様。髪をとめているバレッタを外してくれませんか?」

「分かったわ」

後ろを向いた彼女に付いているバレッタを四苦八苦しながらも外す。するとはらりと結われていた一部の髪が彼女の肩に落ちた。

「はい」

「ありがとうございます。もうひとつお願いが」

「何かしら」

「私のスカートの中に手を入れて欲しいのです」

「え」

思わず引いてしまう。

「誤解しないでください。あのですね、太腿に隠しているんですよ」

「何を」

「──武器を」

「えっ」

「あの人達バカで、頭が回らなくて、良かったです。王女がそんなもの持っているなんて想像もしてないようで。身体検査もせずに、担いでここまで連れてこられたのだけは好都合」

八重歯を出しながらいたずらっ子のような表情をした。

「自分で出せればいいんですけどね。あいにく手を縛るということは思いついたようですので。まあ、後ろじゃなくて前で縛ってる時点でお察しですが」

普段の、と言ってもエレーナは1回しかまともに話したことがないが、舞踏会の時に出会ったメイリーンと今の彼女は同一人物なのだろうか。

(あのほわほわっとした、汚れの知らないようなか弱い令嬢はいずこに……)

メイリーンはこういう場に慣れているみたいな感じだ。唖然としているエレーナと反対に、今も取り外した煌びやかなバレッタを躊躇もなく踏み潰して壊し、何かを取り出している。

「分かったわ。失礼するね」

エレーナは深く考えることをやめた。そんなことをしていても無駄であるのが分かりきっている。今、しなくては行けないのはどうやってここから抜け出すかだ。

彼女がスカートを捲ったので、エレーナは彼女の足に沿うように手を入れた。すると直ぐにコツンと何かにあたり、カチャカチャと音をさせながら、太腿からそれを取り外した。

「これ……かしら」

「そうです! これで縄を断ち切れますね」

ここに来て1番嬉しそうに笑っている。

手を合わせて「やりましたね!」と言うメイリーンは、お菓子を見て喜んでいるような感じだが、そんなにこにこする物ではない。

スカートの中から出てきたのは、一般的に暗器と呼ばれるもので、本当だったらエレーナは一生見る機会がなかったはずのものだった。
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