74 / 150
正体(2)
しおりを挟む「じゃあ今、リリアンネ様はどこに?」
「馬車に乗ったあとは見てないので……多分先に出立したと思いますよ」
「目的地は……」
「ルルクレッツェ国です。国境に辿り着く前に捕獲されますけど。ここに残ってたら私が捕まえて差しあげましたのに……」
残念そうに口を尖らせたメイリーンの瞳は凍っている。怖い。〝捕まえる〟がそのままの意味ではなさそうに聞こえる。
「そっそうなの。ではここはどこ?」
「私にも分からないんですよね。でも大丈夫です。発信機は壊れてないのですぐに助けが来ます。まあその前に殺されちゃうかもしれませんが」
呆気楽観と物騒なことを言う。
「怖いこと言うのね」
エレーナだって同じ考えだ。捕まるなんて普通ありえない。ましてや何故か牢屋だ。窓がないので今が昼か夜か意識を失っていた自分には分からない。
エレーナの記憶はリリアンネに何かを嗅がされたところで終わっていた。推測するにリリアンネに攫われたのだろう。
「そういえば私、本当に驚いたんですよ! 木箱に入れられて、中々閉まらないなと思ってたらエレーナさまが詰め込まれるなんて」
「なっなんかごめんなさい」
「謝ることではないです。それよりも計画ではエレーナ様が捕まるはずなかったのですが……何か変更点でもありましたか?」
「計画って?」
きょとんとすれば、目を見張られた。
「知らないのですか。じゃあ何故ここに?」
メイリーンも小首を傾げた。そしてにわかに目付きが厳しくなる。
「まずいですね。私だけなら大丈夫なのですが、私がいてエレーナ様に傷がつくと後が怖い」
「どういうこと? 何が起きているの」
「……詳しいことは言えません。言えるのはジェニファー王女もどきの私が彼らに捕まってそこを叩くはずだった。ということです。エレーナ様がここにいるのは予定外です」
彼女は縛られている腕を後ろに回そうとして諦めた。
「とりあえずエレーナ様。髪をとめているバレッタを外してくれませんか?」
「分かったわ」
後ろを向いた彼女に付いているバレッタを四苦八苦しながらも外す。するとはらりと結われていた一部の髪が彼女の肩に落ちた。
「はい」
「ありがとうございます。もうひとつお願いが」
「何かしら」
「私のスカートの中に手を入れて欲しいのです」
「え」
思わず引いてしまう。
「誤解しないでください。あのですね、太腿に隠しているんですよ」
「何を」
「──武器を」
「えっ」
「あの人達バカで、頭が回らなくて、良かったです。王女がそんなもの持っているなんて想像もしてないようで。身体検査もせずに、担いでここまで連れてこられたのだけは好都合」
八重歯を出しながらいたずらっ子のような表情をした。
「自分で出せればいいんですけどね。あいにく手を縛るということは思いついたようですので。まあ、後ろじゃなくて前で縛ってる時点でお察しですが」
普段の、と言ってもエレーナは1回しかまともに話したことがないが、舞踏会の時に出会ったメイリーンと今の彼女は同一人物なのだろうか。
(あのほわほわっとした、汚れの知らないようなか弱い令嬢はいずこに……)
メイリーンはこういう場に慣れているみたいな感じだ。唖然としているエレーナと反対に、今も取り外した煌びやかなバレッタを躊躇もなく踏み潰して壊し、何かを取り出している。
「分かったわ。失礼するね」
エレーナは深く考えることをやめた。そんなことをしていても無駄であるのが分かりきっている。今、しなくては行けないのはどうやってここから抜け出すかだ。
彼女がスカートを捲ったので、エレーナは彼女の足に沿うように手を入れた。すると直ぐにコツンと何かにあたり、カチャカチャと音をさせながら、太腿からそれを取り外した。
「これ……かしら」
「そうです! これで縄を断ち切れますね」
ここに来て1番嬉しそうに笑っている。
手を合わせて「やりましたね!」と言うメイリーンは、お菓子を見て喜んでいるような感じだが、そんなにこにこする物ではない。
スカートの中から出てきたのは、一般的に暗器と呼ばれるもので、本当だったらエレーナは一生見る機会がなかったはずのものだった。
289
あなたにおすすめの小説
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
私のことはお気になさらず
みおな
恋愛
侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。
そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。
私のことはお気になさらず。
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
2度目の人生は好きにやらせていただきます
みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。
そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。
今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。
婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜
みおな
恋愛
王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。
「お前との婚約を破棄する!!」
私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。
だって、私は何ひとつ困らない。
困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる