悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

夕香里

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第一章 私と殿下

魔法とこれからについて

 勉強禁止、最低でもあと三日はベッドの上で過ごしなさいと言われてしまったので、大人しく私はベッドに横になっていた。そのため、これ幸いにとこれからのことを考える。

「まずはギルバート殿下についてよね……確かローズが彼と出逢うのは三年後の十八歳だったはず。ということはあと三年は私は彼に避けられたりはされない」

 指を折って数える。

「というか、避けられる覚えがない! 何で避けられていたのかしら……ギルバート殿下に何か悪巧みしたことは……ないわね」

 そうなのだ私はまだ十五歳、殿下は二つ年上の十七歳、私が断罪されるのは三年後の十八歳。三年の猶予がある。

 それに加えてまだ殿下はローズに出逢ってない。なら、会わないようにすればいいのでは? と思ったが私が勝手に出会いを捻じ曲げていいのだろうか……。
 ねじ曲げるとどこかに歪みが生んじて、違うところで問題が起きてしまうかもしれない。他の人にしわ寄せが行くのは絶対に嫌だ。

「うーん難しいわ。もう手っ取り早く殿下に、貴方には運命の人がいて、それは私ではない方だから婚約を解消してと直談判しようかしら」

 頭を抱える。

「それとももう少し早く私の手で子爵令嬢と殿下を引き合わせればいいかな。もしくはやっぱり嫌がらせ……? でもそうすると私が牢屋行きに……うぅぅそれは嫌だわ」

 何としてでも牢屋行きは勘弁して欲しいが、周りに迷惑をかけるのも嫌だという我儘で、中々良い案が浮かばない。

「はっ! 子爵令嬢に嫌がらせじゃなくて、いっその事二人のことを応援すれば円満に婚約解消出来て、牢屋行きにならなくて済む! それで解消後は私に嫁ぎ先なんか見つかりっこないはずだから修道院に入って神に祈りを捧げるなり、市井で質素な暮らしを送るなりすればいいわ。我ながらいい案ね!」

 心の中で自分自身に拍手を送る。

 それに私は魔法が使える。魔法はこの世界では珍しいものでは無い。貴族に生まれればほとんどの者が魔力を持って生まれてくる。まれに平民にも。
 そして生まれて直ぐに赤子は魔晶石に触り、その石の中に映し出される色合いで使える魔法が分かるのだ。

 私の場合は光・氷・風魔法が使えるのに加えて、特殊魔法に分類される回復魔法が使える。これはとても貴重でこの世界に百人もいないんだとか。

 そのため回復魔法持ちは使えることを簸た隠す。

 誘拐され、悪用される危険性があるからだ。

 一度目の人生の時は何事もなく過ごせていたが、今回はどうなるか分からない。
 故に勿論親しい人達以外に私が回復魔法が使えることは秘密にされている。知っているのは家族と長年仕える使用人と王家の人だけ。

 それぐらい秘匿にされるのは回復魔法は死者を甦らせる以外は何でも回復してしまうからだ。
 即死でなければ生き返る。首をはねられても心臓さえ動いていれば再生可能だ。
 ほぼ不老不死となれるこの力はとても危険で、過去には戦争の火種となることがしばしばあったらしい。

 だが、そんな大きな力にはリスクもある。それは他の魔法を使うよりも何倍も疲れるということ。魔力も桁違いに必要である。

 そんな危険と隣り合わせな魔法だが、私はこの力に感謝してる。なぜなら私の大好きな人達の怪我を、すぐに治すことが出来るから。

 だから今回のことも三日も寝てなくても大丈夫なのに……。

 まあそれほど心配させたのは私のせいなので大人しく従うことにしたのだ。

 私は回復魔法を持っているが、お父様、お母様、ロンお兄様は特殊魔法は持っていない。
 だが、魔力は膨大で一般の魔法の数倍上の威力を持っている。
 そのため魔力のコントロールが難しく、感情に左右されやすいデメリットがある。

 例えばお父様は王国随一の氷魔法使いだ。家族が体調を崩したり、気分が落ち込んでいたり、お父様自身の機嫌が悪い時などに絶対零度という名の吹雪を撒き散らす。しかもそれは公爵家内ではなく、王宮で出すので、その威力と威圧と寒さに周りは怯えてしまう。

 絶対零度を出している状況下でお父様に近づくことが出来るのはロンお兄様と陛下だけ。

 ロンお兄様は家族であるので絶対零度は効かず、近寄れない部下達の代わりにお父様の傍で補佐を淡々と完璧にこなす。

 対して陛下は絶対零度の中、特攻し、お父様をからかい毎回氷漬けにされている。しかし陛下は王家の直系しか持たない特殊魔法──無力化魔法持ちなので直ぐに溶ける。

 お父様は永遠に凍っていて欲しいみたいだけど、流石にそれは……と思ってしまうし、陛下が不憫で可哀想だ。

 私のお兄様であるロンお兄様は氷と風魔法使いで風魔法にとても強い。
 たまに馬車がめんどくさいからと自分の風魔法で空を飛んでいくことがある。

 私は毎回普通の人には出来ないのに凄いなぁと感心しながら空を飛んでいるお兄様を見ている。
 私も飛んでみたいが生憎そこまで風魔法に強くなく、せいぜい自分の体を数センチ浮かせるぐらいが精一杯だ。

 それに兄様は風を操り誰よりも早く手紙を届けたり受け取ったりできるので、諜報機関に手伝いに行ってるらしい。流石お兄様!

 逆にお母様は炎と風魔法使いで炎はこちらも国一番の魔法使いだ。

 魔力が強い。と言ってもお母様はあまり魔法を使わない。せいぜい暖炉の火が弱くなったり私達が寒いと言った時に、触るぶんには火傷しないが、湯を沸かしたり室内を暖めてくれる不思議な火の玉を作って渡してくれる。

 こちらも、普通の人には作れない。暖めてくれる火の玉は作れるが、お母様みたいに触っても火傷しないというのが作れないらしい。

 たまにお父様が王宮で冷気を発したりしたことを聞くとお母様の周りに炎が立ちこめる。朗らかに笑いながら火を伴ってるお母様には近寄ってはいけない。お父様に対してのとばっちりを食らってしまうから。

 そして私──アタナシア・ラスターの補足。私は光魔法も使えるが、あまり万能ではない。せいぜい呪いを解いたり、願いを込めて唄うと小さな祝福をさずけることができたり、すこーしだけ運がいいくらいだ。

 もっと光魔法が強い人だと加護の祝福や人を死に至らしめる呪いなどを解けるらしいが、生憎そこまで強くない。と言ってもまあ光魔法も使える人が余りいないらしいので珍しい魔法である。

 そしてギルバート殿下。彼は無力化・水・土・風魔法が使える。特に強力なのは土と無力化で、無力化に関してはソルリア王家直系の子孫しか使えないのでとても貴重だ。

 仮に直系が途絶えてしまったら、そこでこの魔法はこの世界から消えてしまう。そんな貴重な魔法は良いことしかない。
 呪いなどは弾き返すし、向けられた魔法は消滅するし、ずっと発動してる魔法なので寝ていても魔法を弾き飛ばすし、おまけに無力化なのに回復魔法は受けつけるというチート魔法だ。

 この世の欠点が無い魔法はあるはずがないので何か欠点があるはずだが、今のところ見つかっていない。
 だから私はチート魔法だと心の中で言っている。

 とても羨ましい。私が持ちたい。

 羨ましそうに見ている私を揶揄うのが殿下は好きらしい。毎度毎度見せびらかしてくる。それに怪我をするはずがないのに、わざと怪我をして私に魔法を使わせようとしてくる。

 回復魔法は他の魔法より魔力を沢山使う。だから極力使いたくないのに、(お母様とかが怪我したらすぐに使うけど)殿下は「怪我したのに治してくれないの? だったら治るまでずっと一緒にいてね」と片時も私を離さなくなるので仕方なくだ。

 そして魔力を定期的に一定量体内から放出しないと魔力暴走を引き起こす。放出量は自身が持っている魔力量に比例する。よって、魔力が膨大だと沢山の魔力を定期的に放出しないといけない。

 そのためロンお兄様はよく魔力暴走を起こさないように、周りに迷惑がかからない程度に風を発生させて放出している。お母様はちょこちょこ火で家事をしている。お父様は……絶対零度を放っているので大丈夫なのだろう。
 
 私も家族と同じように魔力は膨大だが、定期的に殿下の怪我を治してるおかげか魔力暴走などは起こしたことはない。
 もしかしたら殿下は私の魔力暴走を起こさせないように、からかいながら魔力を調節できるようにしてくれているのかもしれないが、きっと尋ねてもはぐらかすだろう。

「殿下には感謝しなきゃいけないのかしら……うーんありがとうって言うのはなんか言いたくないわね。どうせ最後に私を捨てるのだし……」

 ズキズキとまた痛くなる。どうせ断罪されてしまうのだ。なら、あと三年の間に円満解消ができなく、破棄された後の生活のために何か始めた方が良いのかと考える。
 真面目に考えて回復と光を使った魔法は使えないだろう。一発で私だとバレる。

「っとなると氷と風魔法か……風だったら洗濯物を乾かすとか空気を入れ替えるとか出来るわね。氷は……物を冷やせる……?」

 使い道が全く見いだせない。まあ強くなる分には問題ないでしょうと言い聞かせて独学でちまちまと勉強することに決めた。

「まあ何とかなるわよね。問題が起きたらその時よ」

 そう言えばローズは何魔法使いなのだろうか。私には記憶が無い。ということは、記憶に残りそうな特殊魔法は使えないのだろう。

「でもローズは穏やかな雰囲気の人だったわね。私とは大違いだわ」

 ここで私は疲れたので眠ってしまった。


◇◇◇


 その頃、王宮の一角ではこの国の第一王子であり、王太子でもあるギルバートがバルコニーで空を見上げながら物思いに耽っていた。

「良かった。アタナシアの意識が戻って」

 お茶会をしていたら突然頭を抱えて意識を失ってしまったギルバートの婚約者。咄嗟に体が動き、支えたからいいもののあのまま倒れていたら、彼女は頭を強く打ち付けてしまう所だった。

(肝が冷えたな)

  最初はまさか何かの呪いにかかったのかと心配したが、気を失っているだけだと気づいた時、どれだけ安堵したことか。
 頭は打っていないからその内、目を覚ますだろうと言われたが、一週間も目を覚まさなかった。

 その間王宮は悲惨だった。公爵はシアの意識が戻らないことに苛立っていつもより強い絶対零度を辺り一面に放ち、ロンはロンで公爵の補佐はするが、諜報活動はいつ妹が目を覚ますかわからないからやりませんと拒絶した。

 そのしわ寄せは父とギルバートに全て降り掛かってきた。しかもよりによって父はそのしわ寄せを全てギルバートに押し付けてきたのだ。

 執務室のテーブルに積まれた大量の書類の山と、「我は公爵をからかう絶好のチャンスだから息子よ執務頑張りなさい」という書き残しを置いて。

 そして毎日のように公爵の元に行き、からかい、氷漬けにされていた。
『公爵による氷漬けが一番良いんだよ! 一回ギルも氷漬けにされてみれば分かるよ』と何か父は言っていたが丁重にお断りした。

 わざわざ氷漬けにされに行くのは父だけだ。父は無力化魔法があるからいいが、ほかの者には無いのだから。

 父の補佐と自分の公務、絶対零度をまき散らす公爵と重要な諜報活動の任務の拒否をしたロンのフォローをするのでとても忙しく、やっと少しだけ時間が出来てお見舞いに行った時、彼女はようやく目を覚ました。

 その際、何かボソボソと言っていたが聞き取ることは出来なかった。

 それよりもギルバートをまたその瞳に映してくれたことが嬉しく、彼女の頬に口付けを落としたい衝動を押さえつけて髪の毛を触っていると、衝撃的な言葉が飛んできた。
 これまでギルバートのことを二人っきりの時はギルとしか呼ばなかった彼女が、殿下呼びしたのだ。

 心臓を一突きされたような感じで、それを咄嗟に隠すように髪の毛から手を離した。
 彼女の髪はサラリとギルバートの手からいとも簡単に零れ落ちていった。
 それがなんとも言えない気持ちにさせてきて、公爵を呼ぶことを口実に彼女の部屋を退出したのだ。

 またねと言った時にこちらを見ながら笑顔で小さく手を振る彼女はとても可愛らしい。
 
(あの笑顔を守らないと……絶対に)

 そうギルバートは己に固く誓っていた。

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