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第一章 私と殿下
晩餐会です(4)
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「ロン様、お久しぶりでございます。妹様と踊り終わったらでいいので私とも踊っていただけませんか?」
一人の令嬢が私達の話を遮るように入ってくる。大方、タイミングを探っていたが中々会話が終わらなくて焦れたのだろう。
先程から傍でずっとこちらをチラチラ見ていたから。
「すまないが、今は妹の……」
お兄様は断るようだ。そうはさせない。先程の話はもう終わりだ。これ以上聞かれても何も言えることは無いのだから。
「お兄様、私は大丈夫ですので踊ってきてください。私ばかりが独り占めしていては他の令嬢方が嫉妬してしまいますわ」
「そんなアタナシア様には誰も敵いませんから嫉妬などしませんわ。それにご兄妹でしょう? よろしいのですか?」
嫉妬などしないと言っても先程から、妬みの視線をこちらに向けていたのを私が知らないとでも思っているのだろうか。
生憎、そこまで鈍感ではない。
──バレバレだったわよ。
しかも、私が許可を出すと一変して媚びを売るようにしてきているのが、不愉快だ。普段なら気にもとめないが、今日は気分が悪い。
「ええ。ほら、お兄様。私も幼くはないのです。一人でも大丈夫ですわ」
トンっと背中を押すと、お兄様は一歩前に出た。
「待ってシア、まだ話しは終わって……」
「ロン様、あちらで踊りましょう」
令嬢は強引にお兄様を引っ張りながら人混みの中に紛れていく。私は何か言いたげなお兄様を笑顔で手を振りながら送り出した。
あの令嬢は当分お兄様を離さないだろう。強引に離れても、ほかのご令嬢が次の相手になろうと周りを取り囲むから当分帰ってこられはしない。
いつもお兄様は他の方と踊ったり談笑したりしないので、たまにはいいだろう。相手が良い方なのか悪い方なのかは別として。
「ごめんなさい、オレンジジュースを頂いてもよろしいかしら」
「どうぞ」
「ありがとう」
給仕からグラスを貰い、どこか落ち着ける場所を探す。キョロキョロと周りを見渡すと端っこの方に一人がけのソファが空いていたのでそこに移動する。
「ふぅ疲れたわね。終わるまでここに座ってようかしら」
ゆっくりとドレスがシワにならないように腰を下ろす。その後は何もすることがないので、ぼーっとホールを見つめていた。
だが、突然キャッという音と何かの液体が私の頬に飛んできた。慌てて視線を正面に戻すと、一人の令嬢が空っぽのグラスを持ちながら転んでいた。
「貴方大丈夫? 拭くものこれしか持っていないけど使ってください」
咄嗟に携帯していたハンカチを取り出し、差し出す。
「あっありがとうございます。でも……あのっ貴女様のお召し物が……すみません……」
今にも泣きそうな声で謝る理由が分からなくて、彼女の視線の先にある私の足元を見てみると、彼女のこぼしたジュースで靴が汚れていた。
通りで少し足元が冷たいなと思ったわけだ。
「わざとでは無いのでしょう? 誰でも失敗はあるものよ。大丈夫、これくらいの汚れならすぐに綺麗になるわ」
見たところハイヒールに慣れていないようだ。ズレた靴の隙間から赤くなった足が見える。
私も慣れていない時、転びそうになったことは何回もある。
(そういえばその時近くに殿下が居て、咄嗟に私が転ばないよう抱き抱えてくれたっけ。殿下、反射神経いいのよね)
いやいや、今はそんなこと考えてる場合ではない。何を呑気に私は思い出に浸っているのだ。慌てて現実世界に思考を戻す。
それに靴なら洗えば何とかなる……と思いたい。
それよりもこの子の方が心配だ。私に酷いことをされるのかと勘違いしているみたいで、怯えている。そんな想像してるようなことしないのに。
周りにこんなことで怒鳴り散らすような淑女として失格の方しかいなかったのかしら?
「ですがっ! それにわたし……」
「私が何……?」
「あらアタナシア様、靴が汚れていますわよ?」
問いかけようとしたところで別の闖入者が登場する。
「まあシュレア様、先程ぶりですね。見苦しい姿をお見せして申し訳ございません。少し汚してしまっただけです」
「汚すとは何をしているのですか? それでも殿下の婚約者ですか? その座を降りた方がよろしいのでは?」
どうしてそれで、その話に持っていくの? 強引すぎではないかしら? 突拍子もなさすぎて思わず眉をひそめてしまうが、直ぐに取り繕う。
それに、私がジュースを零したわけではないが、私の靴を汚すことになってしまったこの子は子爵くらいの爵位だろう。
家の家格が伯爵家よりも上だったら顔を合わせている方が多いのですぐにお名前が出てくるが、彼女は顔見知りではない。
それに私が推測している爵位であったら、シュレア様に太刀打ちするのは彼女には無理だろう。
(いや、まさか……グル……なわけないか)
子鹿のように震えている令嬢はおろおろしている。
「おやローズ様、地面に座って何をしているのです? 先程から探していたのですよ」
「はっはい申し訳ございません。足元がおぼつかなくて転んでしまったのです」
いきなり話しかけられて驚いたのだろう。声が上擦っている。
そして彼女は今なんて言っただろうか。気に間違えでなければ……私の知っているローズ? でも、まだ私は彼女と会うまで三年あるはず……。
チラリと彼女を見て見ても私が記憶しているあのローズとは髪色が違う気がする……。
私は気のせいだと思うことにした。
それにシュレア様はあまり興味が無いようだ。しかし口元が吊り上がっている。大方、何があったのかはどうでもいいが私の服装が汚れていることが嬉しいのだろう。
「そうですか。これからは私から離れないでくださいね。で、アタナシア様。貴方もしかしてローズ様を転ばせたのでは?」
………私が? しても得は何も無いのに? 馬鹿馬鹿しいわね。それにローズ様と言ったかしら。
ずっと地面を見ていて小刻みに震えているのはシュレア様が怖いからなのかしら……?
またチラリと彼女を見るが下を向いたままだ。
いつの間にか周りにはシュレア様の取り巻きが大勢集まっていて、複数人対私一人では勝てそうにもない。
でも、流石にしてもいない事をあたかもしたかのように噂を流されたら困る。何せここは社交界、噂に悪い尾ひれがついて独り歩きしないことは無い。
「変な言いがかりは止めてください。私はずっとそこに腰掛けていたのですわ。彼女が転んだのを見てハンカチをお貸ししただけです。私はそんなことをする人に見えるのですか? 心外です」
「申し訳ございませんわ。転んだ近くに貴方がいたのでてっきり転ばせたのかと早とちりしてしまったようです。それについては謝罪致します。ですが、一つ忠告を」
そう言って彼女は私の耳元に小声で話しかける。
「いつまでもその座に悠々と居られると思って? 引きずり降ろされないように足掻く姿を楽しみにしているわ。最後にその座に居るのは私よ」
クスッと笑いながら彼女が離れていく。
「それではアタナシア様、御機嫌よう。ローズ様、貴方も一緒に来なさいな」
シュレア様は用件は終わりだとばかりにローズ様とほかの取り巻きたちを引き連れて人混みの中に紛れていった。
どうやらローズ様もグルだったらしい。
それだと先程、転んだこともわざとで私を嵌めようとしたのかしら……それに、悠々と座っている訳では無い。
フツフツと怒りが込み上げる。
「何よ、欲しいならあげるわ。どうせ婚約破棄されるの。言われなくても私が居ていい場所では無いの。でも居心地が良くて、殿下のことが好きだから足を引っ張らないように努力してるのよ。あと三年だけだから三年経ったら消えるから……彼の前からも私の心からもこの恋情を消すから……」
濡れたつま先から急速に体温が奪われていく。冷たい。
お母様とお父様を待つつもりだったけど帰ろう。どうせこの靴では何も出来ない。
そう思って私は出口の扉の方へ行き、御者に家に帰るよう伝えて馬車に乗る。
ガタゴトと音を立てながら暗闇の中、家への道のりを進む馬車。
私は来る時よりも憂鬱な気持ちで帰路に着いたのだった。
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先程から傍でずっとこちらをチラチラ見ていたから。
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「お兄様、私は大丈夫ですので踊ってきてください。私ばかりが独り占めしていては他の令嬢方が嫉妬してしまいますわ」
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嫉妬などしないと言っても先程から、妬みの視線をこちらに向けていたのを私が知らないとでも思っているのだろうか。
生憎、そこまで鈍感ではない。
──バレバレだったわよ。
しかも、私が許可を出すと一変して媚びを売るようにしてきているのが、不愉快だ。普段なら気にもとめないが、今日は気分が悪い。
「ええ。ほら、お兄様。私も幼くはないのです。一人でも大丈夫ですわ」
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「待ってシア、まだ話しは終わって……」
「ロン様、あちらで踊りましょう」
令嬢は強引にお兄様を引っ張りながら人混みの中に紛れていく。私は何か言いたげなお兄様を笑顔で手を振りながら送り出した。
あの令嬢は当分お兄様を離さないだろう。強引に離れても、ほかのご令嬢が次の相手になろうと周りを取り囲むから当分帰ってこられはしない。
いつもお兄様は他の方と踊ったり談笑したりしないので、たまにはいいだろう。相手が良い方なのか悪い方なのかは別として。
「ごめんなさい、オレンジジュースを頂いてもよろしいかしら」
「どうぞ」
「ありがとう」
給仕からグラスを貰い、どこか落ち着ける場所を探す。キョロキョロと周りを見渡すと端っこの方に一人がけのソファが空いていたのでそこに移動する。
「ふぅ疲れたわね。終わるまでここに座ってようかしら」
ゆっくりとドレスがシワにならないように腰を下ろす。その後は何もすることがないので、ぼーっとホールを見つめていた。
だが、突然キャッという音と何かの液体が私の頬に飛んできた。慌てて視線を正面に戻すと、一人の令嬢が空っぽのグラスを持ちながら転んでいた。
「貴方大丈夫? 拭くものこれしか持っていないけど使ってください」
咄嗟に携帯していたハンカチを取り出し、差し出す。
「あっありがとうございます。でも……あのっ貴女様のお召し物が……すみません……」
今にも泣きそうな声で謝る理由が分からなくて、彼女の視線の先にある私の足元を見てみると、彼女のこぼしたジュースで靴が汚れていた。
通りで少し足元が冷たいなと思ったわけだ。
「わざとでは無いのでしょう? 誰でも失敗はあるものよ。大丈夫、これくらいの汚れならすぐに綺麗になるわ」
見たところハイヒールに慣れていないようだ。ズレた靴の隙間から赤くなった足が見える。
私も慣れていない時、転びそうになったことは何回もある。
(そういえばその時近くに殿下が居て、咄嗟に私が転ばないよう抱き抱えてくれたっけ。殿下、反射神経いいのよね)
いやいや、今はそんなこと考えてる場合ではない。何を呑気に私は思い出に浸っているのだ。慌てて現実世界に思考を戻す。
それに靴なら洗えば何とかなる……と思いたい。
それよりもこの子の方が心配だ。私に酷いことをされるのかと勘違いしているみたいで、怯えている。そんな想像してるようなことしないのに。
周りにこんなことで怒鳴り散らすような淑女として失格の方しかいなかったのかしら?
「ですがっ! それにわたし……」
「私が何……?」
「あらアタナシア様、靴が汚れていますわよ?」
問いかけようとしたところで別の闖入者が登場する。
「まあシュレア様、先程ぶりですね。見苦しい姿をお見せして申し訳ございません。少し汚してしまっただけです」
「汚すとは何をしているのですか? それでも殿下の婚約者ですか? その座を降りた方がよろしいのでは?」
どうしてそれで、その話に持っていくの? 強引すぎではないかしら? 突拍子もなさすぎて思わず眉をひそめてしまうが、直ぐに取り繕う。
それに、私がジュースを零したわけではないが、私の靴を汚すことになってしまったこの子は子爵くらいの爵位だろう。
家の家格が伯爵家よりも上だったら顔を合わせている方が多いのですぐにお名前が出てくるが、彼女は顔見知りではない。
それに私が推測している爵位であったら、シュレア様に太刀打ちするのは彼女には無理だろう。
(いや、まさか……グル……なわけないか)
子鹿のように震えている令嬢はおろおろしている。
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チラリと彼女を見て見ても私が記憶しているあのローズとは髪色が違う気がする……。
私は気のせいだと思うことにした。
それにシュレア様はあまり興味が無いようだ。しかし口元が吊り上がっている。大方、何があったのかはどうでもいいが私の服装が汚れていることが嬉しいのだろう。
「そうですか。これからは私から離れないでくださいね。で、アタナシア様。貴方もしかしてローズ様を転ばせたのでは?」
………私が? しても得は何も無いのに? 馬鹿馬鹿しいわね。それにローズ様と言ったかしら。
ずっと地面を見ていて小刻みに震えているのはシュレア様が怖いからなのかしら……?
またチラリと彼女を見るが下を向いたままだ。
いつの間にか周りにはシュレア様の取り巻きが大勢集まっていて、複数人対私一人では勝てそうにもない。
でも、流石にしてもいない事をあたかもしたかのように噂を流されたら困る。何せここは社交界、噂に悪い尾ひれがついて独り歩きしないことは無い。
「変な言いがかりは止めてください。私はずっとそこに腰掛けていたのですわ。彼女が転んだのを見てハンカチをお貸ししただけです。私はそんなことをする人に見えるのですか? 心外です」
「申し訳ございませんわ。転んだ近くに貴方がいたのでてっきり転ばせたのかと早とちりしてしまったようです。それについては謝罪致します。ですが、一つ忠告を」
そう言って彼女は私の耳元に小声で話しかける。
「いつまでもその座に悠々と居られると思って? 引きずり降ろされないように足掻く姿を楽しみにしているわ。最後にその座に居るのは私よ」
クスッと笑いながら彼女が離れていく。
「それではアタナシア様、御機嫌よう。ローズ様、貴方も一緒に来なさいな」
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