迷子の僕の異世界生活

クローナ

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休暇と告白

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ごくりと鳴った俺の喉に気付いたノートンさんはお茶のおかわりを淹れてくれた。

「ここに来る前は王国魔法士として働いていたから私にもある程度の知識と情報があるんだけれど、セオが負ったような肺まで届いた傷や折れた足を簡単に治せる程の優秀な治癒士は今のフランディールにはいないんだ。そして同じ作用を持った魔道具を作り出せる者もいない。だからね、トウヤ君の治癒魔法はそのぐらい素晴らしいものだと言うことをまずは知ってほしい。」

ノートンさんの言葉に驚いて思わずセオを見た。そんなにひどい怪我を負ったのかと。だけどそれが跡形もなく治っていたのは今朝自分の目と指先で確認したのを思い出した。

「本来ならトウヤくんの様な高い治癒力を持っている者ならば教会で働くのが当たり前なんだと思うがキミはそれだけじゃなくて同じ治癒力を持った魔道具も簡単に作ってしまうから王国魔法士として働いてもいいかも知れない。」

「そんな……。」

「セオ、キミは黙って聞いていなさい。」

俺の気持ちを代弁するかのようにつぶやいたセオをノートンさんがたしなめる。

「今の話はトウヤ君が国に保護された立場だった時の話だよ。だけどトウヤくんは『桜の庭』で自分でもその能力があることを知らないで働いているね。しかもキミはフランディールの人間ではない。だからとても危うい立場にある。──セオ、キミはもしトウヤ君の飾り紐がそこらで売っていたらどうなると思うかい?」

「そりゃあかなりの高額で取引される事になると思いますよ。俺だって欲しいと思います。あの飾り紐があれば少々の怪我は治ってしまうんだから多少無茶しても平気でしょうから。」

「そうだね、誰でも当然そう思うだろう。回復魔法の付与された飾り紐があれば兵士の補充が要らない。戦争だって低予算で出来てしまう。それだけじゃない、そんな物を作り出せる人間がいるのなら手に入れたいと考えるのが当たり前なんだ。それはこのフランディールも例外ではないと言う事を頭に入れて置いて欲しい。」

「それは我が国がトウヤさんに危害を加えるかも知れないと言う事ですか?」

「残念だけど出方に寄ってはあり得ない事ではないんだ。こんな事言ったらセオが怒るかもしれないが例え騎士団選りすぐりの騎士かも知れないが信用できない。怪我をしたのがセオで良かった。そしてそれを見つけたのがクラウス君で良かった。この2人がトウヤ君を危険な立場に追い込む事は考えられないからね。」

ノートンさんが笑顔を向けたその先を追えば、セオが俺を見て笑ってうなずいてくれた。

「それでね、トウヤ君が騎士隊に渡した物は王都に入ったとたん切れたそうだ。セオのは『桜の庭』に入ってから、クラウス君のはトウヤ君に会ってからだそうだ。その違いがトウヤ君にわかるかい?」

「はい。」

ミサンガを編む時にクラウスには無事俺の元に、セオには『桜の庭』にそして騎士隊の人達は王都に戻って欲しいと願いを込めた。じゃあ俺のしていたミサンガもクラウスに逢えたから切れてしまったんだ。ひとつ、2つなら偶然だと言えるでもそれが全部なら違ってくる。
それは本当に俺の魔法なんだろうか。

「そうか、そんな仕掛けまで付与できるとは本当に凄い。その仕掛けのおかげで騎士隊に持たせた飾り紐はひとつも存在していない。今あるものはクラウス君が持っているのかな?」

「はい。でも俺、以前アンジェラに作って渡してしまいました。」

「あれなら大丈夫だ、何も付与されてないのを確認したよ。セオが遠征に行く時にトウヤ君から貰ったと言って見せてくれてね。何かしら付与されてる事に気付いてたんだが全く読み取れなくてね。だからキミが目の前で飾り紐を編んだ時確かめさせてもらったんだ。」

「───そう、ですか。」

ノートンさんはそんなに前から気付いてたんだ。俺のおかしな所に。

「トウヤ君の力は素晴らしいそして同時にとても危険だ。」

「それならもう二度と作ったりしません。」

「だけど子供達を盾に取られたら?公園で子供達と遊んでる時にディノを掴まえられて着いてこいと言われた時キミはひとりで逃げられるかい?」

「そんなの!…………ひとりでなんて逃げられません。」

想像しただけで悲鳴を上げそうになるほと血の気が引いた。そこまで言われて俺はようやく自分がいかに厄介な存在なのか理解した。

「そういう事だよ。だからね、国に知らせるようクラウス君に言ったのは私だよ。彼なら第一皇子付き近衛騎士のお兄さんに王国魔法士のお兄さんもいる。トウヤ君の事を誰よりも真っ直ぐ伝えられると思うんだ。監禁するみたいで申し訳ないけどクラウス君がこの先の答えを持ってくるまでは決して『桜の庭』の外に出てはいけないよ。前にも云ったけどここには悪意を持ったものは入り込めないようになってるからね。わかったかい?」

「───はい。」

「さあ、随分と話し込んでしまったね。明日も早い、そろそろ部屋に行きなさい。」

そう言って立ち上がったノートンさんに手を取られ、促されて俺もセオも立ち上がった。
そのままドアまで手を引かれノートンさんはドアノブに手を掛けたけれどどうしても聞いておきたいことがあってその手を上から抑えてしまった。

「ノートンさん、僕はまだここにいてもいいんですか。」

不安にかられながら見上げた先の眼鏡の奥にある金色の瞳が優しく俺を見下ろした。

「勘違いしてもらっては困るよ。トウヤくん私は……いや、私達はキミを護りたいんだ。言っただろう、トウヤくんも『王妃様の愛し子』なんだ。だから私はキミの父親のつもりなんだよ。私の為にも子供達の為にもいてもらわないと困るんだ、とてもね。」

そう云って俺を抱きしめてくれた。


部屋に戻り灯りを小さくしてベッドに倒れ込んだ。

「疲れたなぁ」

詰めてた気持ちをそのひと言に吐き出した。

今日は1日中、何度も子供達を抱きしめて温もりを確かめた。何度も俺のいない間淋しかったと言う話しを聞いて心を満たした。

ここだけは俺を求めてくれていると確かめたかった。

初めて欲しい物をもらえたと浮かれていたあの日、遠征から帰ったばかりのクラウスに会えて嬉しかった。『休暇の打ち合わせに来た』って俺には云ったけど本当は俺の事をノートンさんに相談しに来たんだね。

執務室に入った時テーブルの上に切れたミサンガが置いてあった。クラウスにどんな願いを込めたか聞かれて得意げに話してその上照れたりなんかして。あの時の俺は3人の目にどう映っていたのかな。

「はは、恥ずかしいなぁ。」

『ゆっくりできたかい。』ノートンさんがそう聞いてくれてよかった。『楽しかったかい?』と聞かれたら上手く返事が出来なかっただろう。だって楽しかったはずの休日は俺の所為で台無しになってしまった。

昨日、クラウスが自分の手を傷付けてまで俺に教えてくれようとした事がようやく分かった。

俺の力はおかしいんだ。そのせいで子供達にも危険が及ぶかも知れない。ノートンさんは『いていいよ。』って言ってくれたけどそうじゃない。きっと俺はここを離れたほうがいい。

こんな事になるならクラウスに告白なんてしなきゃ良かった。おかしな魔法で周りの人に迷惑掛けて子供達まで巻き込んでしまうなんて。やっぱり俺はこの世界の異物でしかなかった。

こうなるってわかってたから最初の夜に俺の答えを聞かなかったんだね。
なのに聞かれる前に告白してしまった。返事を散々遅らせてその上考えなしにこれが答えだとでも云うように自分の気持を押し付けて何もかも自分勝手な俺の事を「俺のだ」って言われて嬉しくて舞い上がってた。クラウスの気も知らないで。

───こんな俺でいいわけがないじゃないか。

ギルドを出てからクラウスの態度がおかしいと感じたのは勘違いじゃなかったんだね。

賑やかな街の中を抱き上げられもせず、手を取られることもなく歩いたのはいつぶりだっただろうか。
あの夜は聞いた話にひとりドキドキして少し期待なんかしてたけど、それまでお構いなしにキスしてきてたのにクラウスは『キスしていいか?』って聞いてきた。首を横に振っていたらあの時に終わっていたかも知れない。
そしてその口づけも俺の所為ですぐ終わってしまった。慣れない俺に呆れてしまったよね。お店で話してた女の人とは違いすぎるんだもの。

それともクラウスが褒めてくれた治癒魔法を『要らない』と泣いたから呆れたのだろうか。

最後の夜、それまで溢れるほどに満たされていた俺の心の中のコップの水は泣きすぎて空っぽになりそうだった。呆れながらももう一度抱きしめてくれて嬉しかったよ。

泣き腫らして起きた朝もクラウスは相変わらず優しかった。でもこめかみに落ちるおはようのキスも俺を抱きしめることもしてくれなかった。けれどそれを認めるのが嫌でみっともなく自分からねだってまた泣いて、優しいクラウスに漬け込んですがりついてしまった。本当にどうしようもない奴だな。

もうそろそろ、教会の0時を告げる鐘がなる。今日は冬の1月ひとつきの30日。俺の中では大晦日だ。

どれだけ拭っても涙がとめどなく頬を伝い落ちていく。約束破ってごめんなさい。明日からはもう泣かないから今日だけは許してね。

大好きだよ。クラウス。想うことは許してね。俺をその気にさせた罰だとでも思ってね。

そっと『お守り』に口付けると大好きな空の蒼色の石が色を増して温かくなる。今頃クラウスの左耳でピアスも光っていのるだろう。

優しい笑顔を思い出しながら涙が止まらなくていつまでも眠れなかった。






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