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危険な魔法
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しおりを挟むクラウスの話 王都編 ⑯
「話が違う。順に説明したいと言ったのはお前だろうクラウス。それは最終的なお前の願望だ、違うか?」
俺の放ったひと言に部屋の空気がピンと張り詰めた。第一皇子が冷ややかな瞳で俺を囚える。交渉は始まったばかりで怯む訳にいかない。視線を返し言葉を続ける。
「いいえ、違いません。この者を保護して頂きたい。それが話しの全てで、それ以外は補足に過ぎません。」
「屁理屈だな、まあいい。だが『保護』と云ったがこの国の人間ならそれほど高位の治癒魔法が使えるものならすでにそういった立場にある。そうでないと言うことはフランディールの人間ではないと?」
「はい。」
「だが他国の者でもこれだけの事が出来るのならそこでそれなりの地位が与えられているだろう。フランディールで保護することによって他国との間に摩擦が生まれてもつまらん。」
「それはないと思われます。この者が自分の力を知ったのは三日前ですので。」
「本人が知らなかったというのか。じゃあその魔道具はどうやって作ったのだ。」
「それと知らず作ったものに治癒魔法が付随してしまったようです。」
「ではお前はどうやってそれを知り得たのだ。」
「討伐遠征です。先日の報告の際唯一の負傷者とされた黒騎士の負傷した所に居合わせました。今かの騎士の身体には傷一つありません。」
「では虚偽の報告をしたと言うのか。それになぜその騎士が治癒される、その魔道具はお前専用ではないのか。」
「虚偽ではありません、負傷は事実です。それと当時は負傷した者はもちろん討伐遠征に参加した者全てこの飾り紐を付けておりました。」
「ではなぜそう報告を上げなかった。」
「確証がありませんでした。それにあまりにも驚異的な治癒魔法でした、負傷した騎士はこの飾り紐の助けが無ければ死んでいたでしょう。それほどの傷を治す効果が己の付けている飾り紐にあると知らせるにはあまりにも危険だと判断致しました。」
「どう危険だと?」
「この飾り紐を作った者が、です。この飾り紐の出どころは殆んどの者が知っております。騎士を信用しなかったわけではありません。ですがそれを聞いた第三者が信用できなかったのです。」
包み隠さず話すことでトウヤにかかる疑いを少しでも減らせると信じて第一皇子の矢継ぎ早な質問にひたすら答えていく、少しでも言い淀めば隠し事や誤魔化しと取られてしまう気がした。
「───それで?その全員が付けていた魔道具はどうなった。全て回収したのか?」
「はい。と言うかそのつもりでしたが王都に入ると全て切れて効果を失いました。今存在しているのは新たに作ったこれひとつだと思われます。」
「それと知らず作った物にどうやって治癒と効果無効になる様な付与が出来るのだ。魔道具が意識せず作れるなど聞いたことがない。まやかしとしか思えんな。まぁこの目で見たから効果は疑わぬが……。クラウスはその魔道具がどう作られたのか知っているのか?」
「────編む時に願いを込めたと言っておりました。無事に王都に戻って来るように、と。願いが叶うと飾り紐が切れると言われていると言っていましたからその所為ではないかと思います。ですがやはり本人はわかっていない様子でした。」
「ははっ願うだけで魔道具が作れるなんて連日徹夜の王国魔法士達が知ったら発狂しそうだな。───『願い』か。」
ずっと続いていた尋問の様な状態で張り詰めていた空気が第一皇子が笑った事によってほんの一瞬緩んだ。だがまだ何も終わっていない。
「確かにそんなものがあるなら使い様はいくらでもあるな。討伐遠征は限られた時間限られた物資限られた人数で行う強行軍の演習だ。今回はトラブルがあったにも関わらず短い日程で終えられたのにもその魔道具の恩恵が少なくないと言うことだな。その魔道具ありきの遠征なら人数も物資も今の7割で済む。更にこれを戦争に応用するなら随分と安く上がるな。それだけでも十分価値があるがそれだけでもないな。」
後ろに立っていたユリウスの腰の剣を逆手で抜くとその切っ先を俺の喉にピタリと当てた。
「さっきのお前の様に痛め付けてその腕から魔道具を抜き取ればこんな事もできてしまうぞ?────『死にたくなかったらそいつを私に差し出せ』」
「アルフレッド様、戯れが過ぎます。」
ユリウスが口を挟むが剣を収める様子はない。変わらず冷ややかな瞳で俺を捉えたまま口元だけ笑った第一皇子が俺の喉に向けた冷たい剣先が僅かに進み肌にくい込む。
「そう怒るなユリウス。これは十分考えられる事だ。我が国は力で周辺国を黙らせているからな。手の内にあれば最高の魔法士だが敵対国に渡れば最悪だ。その人間の望みはなんだ、金か?名誉か?そうであれば信用はできん。そういう人間はいくらでも寝返る。驚異の種になるくらいならいっそ今殺すのもアリだな。」
切っ先の触れた部分からの出血が喉を伝い落ち胸を濡らす。俺は飾り紐を外しテーブルの上に置き伸ばせる腕の分だけ皇子の方へ寄せた。
「そんな人間ではありません。私は彼の人となりをよく知っています。誠実で、勤勉で、たとえ相手に非があっても自分の所為で誰かが傷つくのを哀しむ、そんな人間です。自身に高位の治癒魔法が使えるとわかってもおごることなくただ……。」
「ただなんだ。」
「いえ、今まで通りの暮らしを望んでいるだけです。信用できないと言うならそのままどうぞお斬り下さい。」
こんな魔法いらないと泣くトウヤの姿が脳裏をかすめた。泣き顔は何度も見たけれどあんなに哀しみに満ちて泣く姿は初めてだった。もう二度とあんな風に泣かせたくない。
「なぜそこまで肩入れする。その者はお前に取ってどういう人間なんだ。」
「───誰よりも大切に想っています。彼にはずっと笑っていて欲しいと。そして彼を護るのは私でありたいと願っています。なので実は斬られると困ります。」
トウヤの笑顔を思い浮かべて自分の頬が緩むのがわかった。剣を向けられてこんな穏やかな気持でいるなんて初めてだ。
そこでようやく第一皇子はソファーの後ろへ剣を投げ捨てるが床に付くことなくユリウスが拾い上げた。
「あ~もういい。わかったよお前を信用してやる。さっさとその魔道具を使って傷を癒せ。見たかユリウス?まったく盛大に惚気けやがって。」
ついさっきまでの張り詰めた空気は一気に霧散し、そこにはフランディール第一皇子ではなく、呆れた顔で溜息をつくアルフレッド様がいた。
「あの……?」
投げ返された飾り紐を左腕に通したけれど第一皇子の急な変化に頭が追い付けない。呆れ顔のまま深くソファーに座り胸の前で腕を組むと顎で飾り紐を指し示しながら口を開いた。
「その治癒魔法を使うものはお前が連れて来て『桜の庭』で働いてるやつなんだろう?」
「───すでにご存知だったんですね。」
やはり先程の質疑は答えありきのもので、俺がどこまで話すか試されていた。ということは上手く交渉できたという事だろうか。
「オースターの報告書にあったからな。『桜の庭』から差し入れられた飾り紐でより団結できたと。今までなかった事だからその者と結びつけるのは簡単だ。大叔母様も気に入っていると聞く『保護』はしてやろう、だが───」
その言葉に胸を撫で下ろそうとした矢先、皇子の口元が再び綺麗な弧を描いた。
「どう云う形で『保護』するかは本人に選ばせよう近日中に呼び出すから連れてこい。」
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