迷子の僕の異世界生活

クローナ

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危険な魔法

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「昨日はお疲れ様だったね。」

「いえ、ルシウスさんこそすぐに来ていただいてありがとうございます。」

「本当はもっと早い時間に来るつもりだったんだけど魔法士の性と言うか朝が苦手でね。ノートン先生が部屋を用意してくださると言うから甘えてしまったよ。先生がここの魔法の仕掛けを作ったときもそうしたって聞いたら尚更ね。」

案内したゲストルームにはベッドに机、椅子、それに応接セットが備え付けてある。こんな部屋が孤児院の中になんのためにあるのかとずっと不思議に思っていたけどこうしたお泊りのお客さんに使うのか。

「前から気になってたんだよね。『桜の庭』の魔法。小鳥ちゃんのおかげで堂々とノートン先生ご本人から仕組みを聞き出せるなんて嬉しいなぁ。」

ルシウスさんは俺がシーツを掛ける間机の椅子に腰掛けて楽しそうに窓の外を眺めていた。ノートンさんの事はすっかり『先生』呼びだ。

「終わりました。」

「やぁありがとう。仕事とはいえこんな事小鳥ちゃんにさせてしまってクラウスに知られたら怒られてしまいそうだ。」

「そんな事ないと思います。宿屋で働いてる私を知っていますから。」

「そうなのかい?だけど魔法が完成するまでお世話になるわけだからやっぱり怒られてしまうかも知れないな。」

ルシウスさんはその場面を思い浮かべるように優しい顔で笑った。───だけどクラウスがそんな風に思うことなんてあるのだろうか。昨日の別れ際理由を話すこともなく『しばらく会えない』と言われたぐらいだ。
思い出せば昨日から幸せに満たされていたはずなのに胸の辺りがきゅうってなる。

「では私は仕事があるのでこれで失礼いたします。」

「あ、待って小鳥ちゃん。」

胸の軋みがひどくならないうちに立ち去ろうと思ったのに呼び止められてしまった。

「なんでしょう。」

「小鳥ちゃんは相手によって一人称が使い分けできるのは素晴らしいけど子供達には『俺』だよね。私にもそうして欲しいな。」

「でも……。」

ノートンさんが敬語を使おうとしてた程の人をただでさえ『さん』付で呼ぶことを許して貰っているのにいいのだろうか。

「じゃあせめて先生と同じ『僕』にしよう。可愛らしい小鳥ちゃんに良く似合ってるし。」

「ではそうします。あの……でしたらその『小鳥ちゃん』と呼ぶのもやめていただくわけにはいかないでしょうか。」

「え~だめだめ。こんなにキミにぴったりなんだもん。」

勇気を振り絞って言ったお願いは笑顔で却下された。



もん。って言った。

洗濯物を取り込みながらさっきのルシウスさんとのやり取りを思い出していた。

クラウスとユリウス様は髪の色とか雰囲気とかよく似ていたから兄弟って聞いてすぐに納得できたけれどルシウスさんって髪の色も正反対の黒だし、話し方も違うし何よりずっとにこにこしてる。さっきみたいな事を言われなかったらクラウスのお兄さんだって事忘れてしまう。

でもそれはそれで良かったと思う。子供達と同じでこの何日かをクラウスのそばで過ごした所為で昨日会ったばかりなのに名前を聞きその姿を思い出すとあの温もりに触れたくなる。何もかも忘れて俺の一番安心できる腕の中で心臓の音を聞いて不安から逃れたくなる。

こんな風に考えるのは『しばらく会えない』と言われたからかも知れない。

王都に来て『桜の庭』で働くようになった時から今までだってそう何度も会えてない。
逢えないのが当たり前だったのに遠征が終わってから休日を一緒に過ごして、それから何日も置かないうちに顔を見たり昨日の様に近くで触れたりしたせいで欲張りになっている俺は小さなディノと何も変わらない。

「こんな事ならうまく乗れないフリしてもたれちゃえば良かったな。」

求めてやまない温もりは俺が『お願い』しないと与えてもらえなくなってしまった。それをわかっていて強請れる程俺の神経は図太く出来ていない。

お日様の温もりの残るシーツを腕いっぱいに抱えて子供部屋に向かえば、セオの手によっていつの間にか元に戻されたベッドが昨日の幸せな夜を思い出して心が温まっていく。

その後ルシウスさんがいることで俺達の何かが変わる事は無かった。
『ノートンさんのお客さん』であるルシウスさんはノートンさんと一緒にお昼寝の終わった子供達が外で遊ぶのを眺めたり、夕食の時はノートンさんと何やら話しているのを同じテーブルでマリーとレインが興味深げに聞いたりしていた。



******



「冬夜です。お茶をお持ちしました。」

子供達を寝かしつけた後、俺は着ていた寝間着を着替えノートンさんの執務室にやって来ていた。

「どうぞ。」

ノックをしてすぐ中から聞こえてきた返事に扉を開けると目の前にノートンさんが立っていてティーセットを乗せたカートを中に引き込んでくれた。

「ありがとうございます。」

「いやいや、こちらこそ来てくれてありがとう。」

そう言うとそのままティーセットの乗ったカートをノートンさんに奪われた挙げ句ルシウスさんの向かい側に座らされてしまった。

「仕事が終わったばかりにすまないね。君なしでは始められないからね。」

「あの……昨日のお城での話ですよね。」

セオと入れ替わりにルシウスさんが来てくれた為にノートンさんとは昨日の夜話したきりで『桜の庭』にこのままいることしか伝えられていなかった。

「いや、それは粗方私が話したからいいよ。小鳥ちゃんには防御魔法の事で意見を聞きたいんだ。」

「そうなんですか?」

「うん、お披露目の話も聞いたよ。それにマリーとレインの学校の事も第一皇子様に聞いてくれたそうだね。トウヤくんにはぜひ一緒に行って欲しかったから覚えていてくれて嬉しいよ、ありがとう。」

「お礼なんて言わないで下さい。全部僕が悪いんですから。」

「トウヤくん……。」

だって本当に全部俺が悪い。子供達を危うくしてしまったのも『桜の庭』に閉じ込めてしまっているのも俺の厄介な魔法の所為なんだから。

「小鳥ちゃんの何が悪いんだい?キミの能力は称賛される事はあっても悪く言われることは有り得ない。たとえこの先君を手に入れるために子供達が危険な目にあったとしてもそれはそういう手段を取った者こそが『悪人』であって小鳥ちゃんのせいじゃない。そしてその責任を負うのは第一皇子であるアルフレッド様のものだ。横取りしちゃ駄目だよ。」

「建前はそうでも事実は違います。」

「違わない。私の言ってることこそが事実だ。昨日トウヤがそう変えたんだよ。」

名前で呼ばれ、それまでとは違うルシウスさんの厳しい口調に膝の上で拳を握り下を向いていた視線を上げると言葉とは裏腹にとても優しい顔で微笑むルシウスさんの顔があった。

「そのために私がここに来たんだ。トウヤが安心する魔法を必ず完成させるよ。これでも現役の王国魔法士の中では魔法士長に次いで2番目に広い部屋を許されているんだから任せて。」

やっぱり兄弟だと思った優しい笑顔はバチンって音が出そうなウインクでかき消えてしまった。




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