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すれ違いの中で
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しおりを挟む今日は冬の2月10日。マリーとレインの『入学説明会』だ。
あの日、ルシウスさんの鈴によって子供達が護られる様を見て俺の中にあった不安がずいぶんと小さくなった。そして昨日は手芸屋のお姉さん?が目の下に隈を作りながら『お礼よ』と王都で人気だというお店のクッキーを沢山持ってきてくれた。ミサンガの売れ行きが好調らしい。
『桜の庭』ではノートンさんから、外に出ればルシウスさんから子供達が護られる安心に心穏やかな日々が戻りつつあった。
今朝は教会広場に遊びに行った時と同じ様に朝からみんなが沢山お手伝いをしてくれたおかげで迎えの馬車が来るまで随分と時間ができてしまった。
『よそ行き』の服を着た子供達はベルトループにルシウスさんからもらった鈴もちゃんと付けてプレイルームで馬車の到着をワクワクしながら待っている。
俺は鏡の前に椅子を一脚移動させてマリーのキレイな薄紫の長い髪を結っていた。前髪をあげふんわり編み込んだ髪を右側に三編みで垂らしてリボンで結ぶ。
ついさっきまで朝自分で2つに結んだ髪を解いて拗ねていたマリーは少しお姉さんぽくしたらとろけるような笑顔を見せてくれた。
「まりーかあいいねぇ」
「うん、アンジェラさんみたいだ。」
鏡越しに覗いたディノとレインの素直な誉め言葉に珍しく照れる様子も可愛かった。
「さーしゃもまりーと『おそろい』したい。」
見惚れたサーシャがキラキラの瞳で憧れのマリーの真似がしたいなんて可愛いこと言うから2つ結びのふわふわの赤い髪に編み込みを仕込み直すとまるでそれが当たり前の様にディノが椅子に座ったのでその柔らかな茶色の髪を少しだけ櫛で掬ってリボンで結んだ。
うん、可愛い。
結果、レイン以外の子供達の髪にお揃いのリボンが付けられたんだけど馬車が来る前にディノは取ってしまった。
それから程なく迎えに来たエレノア様の用意してくれた馬車にみんなで乗り込んだ。
ルシウスさんの鈴のおかげで護衛騎士はいない。2頭の馬が引く大きなキャリッジはノートンさんと6人の子供達、それに俺が乗っても全然余裕なのにこれが大人の6人用だと言われて驚いた。やっぱりこの世界の物の作りは大きい。だけど街道を走る馬車に比べたら余裕をもたせてあるのかも知れない。
初めて向かう教会から右側に折れる道に入れば木立の向こうに格子に囲まれた大きな建物があった。
「大きい建物ですね。マデリンの学校の何倍もある気がします。」
王都の入り口から教会までの雰囲気とまるで違い林の中に大きな敷地を構えていた。お城の様に背の高い縦格子で囲まれで建物も何棟も建っている。
「王都の子供だけではなく地方の将来有望な子供達や遠方の貴族の子女も通うから生徒数がどうしても多くなるんだよ。」
「ふ~ん、そうなんだ。」
ノートンさんの説明にマリーが納得したように答えた。
「楽しみ?」
「「うん。」」
子供らしい期待に満ちた顔をされては何も言えないしもちろん水を差すような事も言えないけれど2人が学校の寮に移ってしまう時はディノ以上に駄々をこねる自信があるかも知れない。
『桜の庭』から通えばいいのに。
そう思うのは案外見送る俺達だけでマリーとレインはこれから始まる学校生活をすごく楽しみにしてるんだろうな。
それに戻ってきた穏やかな日々に忘れそうになるけれどどれ程俺がそれを望んだとしてもこの先もずっとこの世界に居られる保証なんてないから無責任な事は言えない。
「それでは来年度入学生の方はこちらにおいで下さい。同伴された保護者の皆様は在校生が校内見学へご案内いたしますので受付の時にお渡しした用紙の右上に書かれた文字と同じ案内板のある席でお待ち下さい。」
耳障りのいい女の子のアナウンスが流れる。今日の『入学説明会』の主体は学生みたいだ。
マリーとレインは俺達と別行動で身体測定、魔力測定、制服採寸や校内見学をする。保護者はその間別室で同じ様に入学案内と校内見学がある。だけど『桜の庭』の子供達の保護者は入学後校長に変わってしまう。
ノートンさんも何度も見送り学校の説明など今更必要ないので代わりに次の子供達が突然環境が変わって不安にならない様に特別に学校見学をするようになったと教えてくれた。
俺の少ない知識で表すなら合唱祭や芸術鑑賞などで訪れた事がある音楽ホールの様な場所に集められた沢山の親子連れ。
一人ひとりの小さなお喋りがざわざわとした大きな音に変わり、普段聞き慣れない喧騒と見慣れない人の多さに驚いて子供達はすっかり萎縮してしまっていた。
しかも入学年齢でない小さな子を引き連れているせいでどうしても視線が集まる。でもそれは仕方ない、ウチの子達の可愛さはどうしたって目立つんだから。
「じゃあ私達行ってくるね。」
「ちゃんとノートンさんとトウヤの言うこと聞くんだぞ。」
レインに確保されていたディノを受け取り人混みに消える2人を見送った。
ノートンさんとサーシャ。ロイとライにディノ。そして俺。二ヶ月後にはこれが当たり前になってしまうんだな。なんだか淋しい。
「おるすばんよ。」ってレインについていきたそうな顔をしているディノを慰めるサーシャに俺も一緒に慰められていると目の前に学校の制服姿の三人組が揃出た。
「『桜の庭』の皆さん学校へようこそ、今日あなた達を案内する生徒会長のエリオットだよろしく頼むよ。」
「同じく生徒会のセシリアよ。」
「同じくフラジオだ、よろしくな…と。キミは見かけない顔だな、中等部か?どこのクラスだ。」
腰をかがめて子供達に挨拶をしてくれた彼は膝にディノを抱く俺を見てそう言った。そしてその言葉に同意したのか俺を上から下まで眺めた彼女はこう言った。
「ホント、高等部じゃ見たことないわね。中等部なら授業中でしょう?でもなぜ制服を着てないの?」
中等部だって。これは今日来てる新入生と間違われなかった事を喜ぶべきだろうか。いやいや、中等部って11~13歳だ。高等部で見ない顔だからって流石にそれはない。
確かに来年からマリーやレインが着る制服を身に着けた生徒会を名乗る3人は例に洩れず俺より身長が高くガタイもいい。生徒会長だと言ったエリオットは細身だけどセオと変わらない。セシリアと云う女の子もスラリとしているけれどやっぱり俺より強そうだ。
ウォールで子供扱いされてムキになった時の失敗を思うとなんて説明したらいいのやら。
「彼は学生ではなく『桜の庭』の職員です。」
「職員?まさか『桜の庭』で子供を働かせているのか?」
言葉を選んでいるうちにノートンさんが囲まれた俺の事を横に来て説明してくれた。けれど返って来たのは的はずれな返事。
俺が子供に間違えられるのはまぁ仕方ないんだけど、こいつノートンさんに向かって何だその口の聞き方!ウチの子達が真似したらどうしてくれるんだ。けれどノートンさんは完璧な大人でそんな事気にもしないようだった。
「いいえ、子供ではありません。彼はこう見えてとうに成人しております。」
「な……本当か?信じられん。しかも『彼』って男なのか?だってそれ……。」
子供は仕方ないとは言え女の子と間違えるなんて!って思ったけど『それ』と指を差され今朝サーシャが付けてくれたリボン付きのピンをそのまま付けていたのを思い出した。これは怒れないかも。
仕方なく襟元を緩めてギルドタグを出して見せるとようやくエリオットは納得してくれたようだった。
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