迷子の僕の異世界生活

クローナ

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すれ違いの中で

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 クラウスの話 王都編 ⑲



『桜の庭』から飛び出した小さな影にそれは話に聞いていたレインだと思った。けれどディノが『とおや!』と叫んだ。

「ねえおにいちゃんおろして。」

「ああ。」

ディノの声に気づいて振り返ったのは本当にトウヤだった。でも俺の想像していたのと全然違って、青白い顔で立ち尽くしていた。自分に向かってくるディノに手を伸ばし抱きとめると小さな身体に縋るように地面にへたり込み泣き崩れた。

その姿はマデリンで初めて俺の腕の中で声を上げて泣いた夜を思い出させた。今ならわかる、なぜあの時地図を見上げて泣きそうな顔をしたのか。なぜあんなに泣いたのか。知らない所に迷い込んで不安で居場所を探してギリギリで堪えていたところで俺がその足を引っ張ったからだ。

でもあの頃とは違う。自分を顧みず護りたいと願う子供達に院長、そしてセオ。周りから愛されて幸せに過ごしていると話してくれた。『桜の庭』にいられて幸せだと、連れてきてくれてありがとうと何度も俺に礼を言った。だから『逢えないと』言った時もすぐに背中を向けたんだ。なのにまるで今もたったひとりでそこにいるみたいだ。

小さなディノよりも身体を小さく折り曲げて泣く姿に足が止まった俺の背中を『何してんだ。』とキールが強く叩く。

その痛みに我に返り近寄ればディノが繰り返し練習したさっきの言葉を伝えながら小さな手で一生懸命トウヤを支えていた。
小さいながらも逞しいその姿に邪魔は出来ず、トウヤに伸ばそうとした手でディノの頭を撫でた。

「「「ディノ!」」」

外の様子に気付いた子供達が次々と駆け寄って2人を囲む。ディノを叱りトウヤを慰めるその光景にさっきのは自分の思い違いだと改めた。

やはりトウヤには俺の代わりなどいくらでもいる。

「キール、俺は院長に説明してくるからあっちを頼む。」

「ええ!?なんで?逆じゃね?」

そうだできるならそうしたい。でもそうしたらあの子達からトウヤを攫って泣き止むまで腕の中に閉じ込めてしまいたい気持ちを抑え込むのは難しい。

「キミ達がディノを見つけてくれたのかい?」

同じ様に離れて見守る院長に挨拶をすれば至極落ち着いた様子だった。

「いえ、見つけたというより騎士舎の大門の格子に張り付いてセオを探していました。怪我などはしていないようです。けれどセオは今日昇格試験のための模擬戦の演習をしている為会わせてやれませんでした。」

「そうか、ディノはがっかりしただろうね。だけどありがとう早く連れてきてくれて助かったよ。トウヤ君が酷く心配してしまってね。」

「そのようですね。トウヤはあれほどに何を心配をしているのでしょうか。」

たかが子供の脱走だ。トウヤ自身も『桜の庭』も護らせる事を交渉したのはトウヤでその約束はしっかり果たされている。

「私が脅かしてしまった事が原因なんだろうね。ディノがいないと知った時のあの子は今にも倒れてしまいそうでね、自分の所為でディノに何かあったらと考えたんだよ。あの子に子供達を例えて脅かしたのは間違っていた。反省しているよ。」

「そうでしたか。ですが第一皇子様が護ると約束なされた今、もうその心配はありません。」

「私も何度かそう言ってはいるんだがやはり自分の国では無いから信用できないのかな。トウヤ君の育った所はここより平和だったと言うがこの王都も充分平和だと私は思うがね。」

院長がため息を付き見つめる先で双子の子供がトウヤの涙を拭いていた。あれがきっとロイとライ。そしてディノを抱くのがレインで女の子がマリー、そしてあれがサーシャなのだろう。休暇中尽きることなく話してくれたトウヤの愛する子供達。だからこそ心配も大きいのだ。俺以外にもあんなふうに涙を見せられる相手が増えたことが嬉しくもあり寂しくもある。

「では私達は警備に戻ります。」

こちらに向かってくるキールの姿に向こうも話が終わったのだと察し院長に挨拶をした。

「あんなに泣いているあの子をあのままにしていくのかい?」

そう言った院長の金色瞳は俺を責めているようだった。だが今の俺に何が出来ると言うのだろう。

「トウヤには『桜の庭』の子供達が何よりの慰めになるでしょう。それにあなたも。」

今のトウヤに俺など必要ない。それに休日ならまだしも警備任務を放り出したとあればその時点で昇格試験の権利を失ってしまう。ディノを引き渡した今これ以上留まる事は出来ない。

「本当にそう見えているならキミは大きな勘違いをしているよ。」

「え?」

「クラウス、そっちは終わったか?そろそろ行くぞ。」

院長のボソリとした言葉が聞き取れず聞き返そうとしたがキールに呼ばれてしまった。

「あ?───ああ。ではすみませんが失礼します。」

「あれだけ独占欲があるくせに自信が無いとは驚きだな。気に入らないが一つだけ教えておこう、あの子があんなふうに泣くのを見るのは私も含め皆初めてだ。子供達など笑顔のトウヤ君しか知らないから今も内心かなりとまどっているだろうね。この意味をよく考えるといい。」

頭を下げた俺に掛けられた院長の声は呆れているとも怒っているとも取れる声だった。驚き顔を上げるとすでにトウヤ達の方へ歩き出していた。

「おい、何してんだもう行くぞ。気持ちはわからないでもないがたかが迷子の引き渡しに時間がかかりすぎだ定時報告に遅れ過ぎると面倒だぞ。」

「……すまない、行こう。」

後ろ髪を引かれながらもキールの焦る声に俺は背中を向けるしかなかった。
けれどディノの『またね』の声に振り返ればその向こうにあの日、マデリンからの旅を終えここで別れた時と同じ捨て猫のような顔をしたトウヤがいた。




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