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変わる環境とそれぞれの門出
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しおりを挟む「迎えに来るの明日だよね?」
「ああ、今日は冬夜と院長に手紙を預かって来たんだ。」
「そっか。」
確かにマントからちらりと覗くのは近衛騎士の白い騎士服でもちろん髪もキッチリ結んでいる。
「顔が赤いけどどうかしたのか?」
「これはその……急いで来たから……。」
ディノを抱っこしてるから上手く顔が隠せない。お仕事中のクラウス様が嘘の言い訳をする俺の顔に触るか触らないかの距離に手を近づけるとひんやりと冷気を含んだ風が頬を撫でた。
こんな事してもらうなんて少しだけバツが悪くてつい目を逸してしまう。クラウスの来るタイミングが悪すぎた。でも本音を言えばこの何日かは通信だけだったからやっぱり顔が見れて嬉しい。
俺の気まずい胸中を知る由もなく顔の熱を冷ますクラウスの腕をディノの小さな手が捕まえた。
「おにーちゃんたかいのして!」
「……前にこの時間なら昼寝中だと聞いたから来たんだが邪魔をしたか?」
そんな事を言いながらせっかく俺の腕に収まっていたディノをひょいと軽々肩まで持ち上げてしまった。俺には『お仕事中』だから触らないのにディノはいいんだ。
「おべんきょうしてたの。でぃのもねぇおなまえかいたよ。とおやもこ~んなかおしてごほんよんでた。」
肩車をしているクラウスからは当然見えないのだけれどディノは眉間にシワを寄せて見せた。俺そんな顔してたんだ。
「お勉強?」
「あの…みんなお昼寝しないで勉強するって言うから俺もノートンさんに学校の魔法の教科書を貰って読んでたんだ。」
何度も試して出来なかったけれど今みたいに顔を冷やして貰ったり髪を乾かしてもらったりルシウスさんの様な魔法を目の当たりにするとやっぱり憧れてしまう。だけどそのおかげで勉強の場にふさわしくないことを思い出してしまったからもう潔く諦めよう。うん、だって俺には治癒魔法が使えるんだもんね。
それにしてもクラウスに肩車されたディノはセオを凌ぐその高さにご機嫌だ。おかげでいつもより首が痛い。脱走した時の事はディノが話してくれただけしかわからないけどたったあれだけの間にどうしてそんなに仲良くなっちゃったの?
今日はみんなを慰めながらいつも以上にハグちゅうしてお昼寝する予定だったのにノートンさんどころかまさかクラウスにまで負けちゃうなんて思わなかったなぁ。
「ディノ、済まないが一度降りてくれ。」
「え~、なんでぇ?」
腕がなんだか淋しくてふたりを羨ましく思って眺めていたら急にクラウスに肩車から降ろされ再び俺の腕の中に来たディノはほっぺを膨らませて不満そうな顔をする。なんだよ俺じゃ低いからつまらないのか?
そのぷっくりしたディノの可愛いほっぺをクラウスがつついて楽しそうに笑った。
「くくっ、同じ顔だ。」
ディノが誰と?うちの子達ほど可愛いのってそう簡単にいないはずなんだけど。
首を傾げる俺に「抱き上げてもいいか?」って聞くから仕方なく「どうぞ」ってディノを差し出そうと思ったらディノを抱っこしている俺まで一緒に抱き上げられてしまった。
「わっ、ちょっとクラウス何してるんだよ。」
「どうぞって言ったろ?嫌か?」
「それはディノの事で───。」
「わ~い。とおやといっしょぉ。」
違うと言おうとしたけれどディノが嬉しそうだしやっぱり俺も。
「嫌じゃない……嬉しい。」
素直に答えればクラウスが俺の一番大好きな笑顔になる。だから俺からディノを取り上げたことが不満だったのか仕事中だから触れてもらえないのが不満だったのかわからなくなってしまう。
「──ゴホン。遅いから何かあったのかと心配したんだけどお邪魔だったかな。」
わざとらしい咳払いに振り向けばノートンさんがいてその後ろに隠れるようにサーシャとロイとライが付いてきていた。こんな姿を見られてしまってせっかく冷めた顔がまた熱くなる。
なのにクラウスは俺をディノごと抱き上げたまま起用に頭を下げた。
「ご心配かけてすみません。本日は冬夜と院長に手紙をお持ちしました。」
「そう言うのはトウヤ君を離してから言えばいいんじゃないか?手紙の用事がついでに聞こえるよ。」
ノートンさんの呆れた顔にようやくクラウスが苦笑いしながら俺の足をそっと地面に降ろして騎士服の胸ポケットからアルフ様のとは少し違う装飾のキラキラの封筒が出てきた。1つはノートンさんへ。それから俺にも。
『──元気にしてるかな?明日、一緒に夕飯を食べよう。楽しみにしているよ。』
砕けた文章に続いた名前は王様の名前だそうでびっくりしてしまった。まさか王様とご飯を食べるだなんて。
これで用事が終わったクラウスは「時間はあるか」と聞かれ、「大丈夫」だと返事をすればノートンさんに促されみんなでプレイルームへ戻り、そこで始まったのはクラウスの紹介だった。
「ディノはお世話になったからよく知ってるみたいだけどきちんと顔を合わせるのはみんな初めてだね。この方はお城で騎士として働いてるクラウス君だ。みんなも良く知ってるエレノア様のお孫さんだ。それからルシウス君の弟さんでもある。」
ノートンさんから紹介されてクラウスが「こんにちは」と会釈をすると子供達も真似して「こんにちは」とぺこりと頭を下げた。
マントを外したクラウスは近衛騎士の白い騎士服姿で立ち姿も格好良くて何度見ても見惚れてしまう。
さっきまで座っていた場所に大人しく腰掛けてなんとなく緊張していた年中組の3人はエレノア様やルシウスさんの名前が出たことで硬さが少し取れたみたいだった。
「ちなみに彼がトウヤ君の結婚相手だよ。」
「ほわぁぁ。」
サーシャが嬉しいびっくりの時の声をあげて俺をみた。目がキラキラしてて凄く照れくさい。
「じゃあこのひとがとおやのおうじさま?」
「ちがうよ、きしはおうじょさまとけっこんするんだよ。」
「きしとけっこんするのはぱんやだよ。」
「ぱんやのおんなのこはぼうけんしゃがいいんだよ。」
「そうだ」と言おうにも子供達のやり取りが面白くて可愛い。
ディノとサーシャは確かめるために本棚へ向かいロイとライはクラウスとノートンさんと並んで立っていた俺の横にやってきた。
今までマリーとレインのお手本があってこんな風に話の途中で席を立ったりしなかったから年長組の凄さを実感してしまう。
「だからとうやはろいとけっこんして。」
「そうだよらいとけっこんして。」
「え!?」
両腕を引かれてしゃがんだ所でふたりからほっぺにキスをされてしまった。「先生と結婚したい」は保育士の憧れだ。
どうしよう、すごく嬉しい。
「なんだふたりともこの前のは本気だったのかい?」
「とうやはろいがしあわせにする。」
「らいとしあわせにする。」
ノートンさんに改めて宣言したロイとライに両側からぎゅうっと抱きしめられて朝からほっておかれて淋しかった分余計に嬉しい。「じゃぁさーしゃともけっこんして。」「でぃのもいっしょがいい!」とふたりもぎゅうぎゅうと抱きついてきた
どうしよう、こんなの可愛くて断れないよ。
「悪いがそれは諦めてくれないか?」
みんなに抱きつかれて幸せに浸っている俺の前にクラウスがそう言って膝をついた。
「先に俺と約束したんだ。俺は皇子でも冒険者でもないし冬夜は皇子様で皇女様でもパン屋でもないが誰よりも愛しているんだ。」
クラウスが子供達に素敵に笑ってそれから大好きな蒼色の瞳を俺に向けた。
まるであの桜の下の誓いみたいに真っ直ぐ俺だけを見てそんな事を言うから思わず頷きながら心臓がうるさい。
「「しあわせにする?」」
「ああ、必ず幸せにする。」
「じゃあちょっとだけなかまにいれてあげる。」
「ありがとう。」
俺の気も知らないでサーシャにお礼を言うクラウスがなんだか憎らしい。
「ふふっ丸く収まったかな?この先顔を合わせる機会も増えるだろうから仲良くするんだよ。じゃあ私はクラウス君と話してくるから君たちは書き取りの続きかトウヤ君のお仕事のお手伝いをしてくれるかい。」
「「「はーい。」」」
小さな手が4つあがってクラウスはノートンさんと執務室へ、俺はみんながお手伝いしてくれると言うのでテーブルを片付け賑やかに洗濯物を取り込みに行った。
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