迷子の僕の異世界生活

クローナ

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変わる環境とそれぞれの門出

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「行ってしまったね。」

「……はい。」

小さくなって行く馬車を目で追いながらノートンさんとふたり、しばしの感傷に浸った。

「それは自分用だったのかい?」

「念の為です。でも役に立ちました。」

ディノの涙はハンカチでは事足りない程の大粒でレインの制服を汚さずに済んだのはクラウスのアドバイスのおかげだ。

「レインはいいお兄ちゃんですね。僕の出番なかったです。」

もちろんマリーもいいお姉ちゃんだった。こうしている今も淋しそうなディノには年上のサーシャとロイとライが寄り添っているから俺の出番はない。

「レインも上の子が学校へ行くときああして泣いたんだよ。だけどその時も今日みたいに上手く言い聞かせてくれた。前回送り出した時はサーシャがああして泣いてレインが今日のサーシャ達の様にずっと慰めていたんだよ。」

その時の光景を思い出して今のディノ達に重ねているようでとても懐かしそうに愛しそうに子供達を眺めている。

「別れは子供達を大きく成長させてくれるんだよ。」

だから哀しいばかりじゃないんだよ、と続けながらノートンさんは淋しそうに笑った。

それが『桜の庭』の伝統なんだろう。

今日は大泣きだったディノもサーシャ達が学校へ行く頃には同じ様に年下の子を慰めてあげられる様になっているのかな。送る側から送られる側になる頃には今日のレインの様に下の子に優しく言い聞かせているのかも知れない。

そんな姿を想像できるにはまだまだだと思っていたけどその後も俺の期待を裏切るみたいにマリーとレインのいない淋しさを誰一人として俺で埋めてはくれないのがちょっぴり淋しい。

「じゃあトウヤ君には私の手伝いをしてもらおうかな。」

俺の心の内を見透かすようなノートンさんに連れられて館の中に入ると食堂からマリーとレインの使っていた椅子をそれぞれ運び出してプレイルームに運んだ。
そうする事で今までは4脚しかなかった場所に人数分の椅子が揃った。

「もうお勉強するんですか?」

「子供達が望むならね。」

無理強いはしないと言うけれどサーシャやロイやライはやりたいかな?そしたらお昼寝はディノとふたりきり。

余韻もなく行われた変化に期待と淋しさが入り混じる。こうする事でノートンさんも何度も淋しさを紛らわせて来たのかもしれない。

でもやっぱり俺は淋しさが勝ってしまい昨日掃除をすませてしまった事を悔やみながらサーシャ達の遊びにまぜてもらった。

お昼になりカイとリトナは運んだ食事の分量の変化で「今日だったんですね。」と声をかけてくれた。

同じ様に春月はるつきから来なくなってしまうふたりに立派だった子供達の姿を自慢しておきながらお昼の準備にお皿を8人分用意して慌てて片付けたけれどカトラリーは人数分に揃えた椅子のおかげで6人分並べた後はマリーとレインの分をランチョンマットで巻いてお皿と一緒にセオの使う物と一緒にして棚にしまった。だってそうしておかないと間違える度に淋しさがぶり返してしまいそうだ。

子供達は様変わりしたテーブルに少し戸惑いながらも自分のランチョンマットの置かれた場所に立つ。

「さーしゃここ?」

前は長テーブルの上座にノートンが座っていたけれど相談の結果向かい合わせて3脚ずつ椅子を並べてみた。

片側にノートンさん、ロイ、ライ。もう片側にサーシャ、ディノ、それから俺。

「まだ決めてないけど今日はとりあえずこうかな。トウヤ君のお手伝いついでに4人で相談してもいいよ?」

ノートンさんの提案に子供達がはしゃいだ。そしてそれはプレイルームでも。

「でぃのはここにする。」

「でぃのはまだはやいでしょ。」

「いいの。」

「じゃあろいはここ。」

「らいはここ。」

今まではマリーとレインの勉強の場所だったけれど増えた椅子に嬉しそうだ。

「とおやはここね!」

「俺も?」

みんなでテーブルで待っていると書類仕事を持って現れたノートンさんは子供達を見て金色の瞳の優しい瞳でそれはそれは嬉しそうに笑った。

「お昼寝はいいのかい?」

そんな事をいいながら子供達の鉛筆にノート、それから手書きのお手本と次々と目の前に出てくる。もちろんちゃんとディノの分まで準備されていて増々テンションを上げた。

「みてみて!じょうずにかけてる?」

「うん、上手だ。」

「でぃのも?」

「はは、上手だ。」

初めてのお勉強は『自分の名前』だった。

うん、俺もそうかも。王都に来るまでに一生懸命名前だけ書けるように何度も練習したよ。

褒められて得意げなディノは少しも文字になっていない。でもノートンさんの隣に座って満足そうにしている。そう言えば午前中もディノはノートンさんの膝に座っていたんだった。

───完敗だ。

ふう、とため息をついたらノートンさんに「簡単すぎたかな?」と言われて慌てて首を振って教科書に目を通す。勉強に一番身が入って無くて恥ずかしくなる。

ノートンさんは子供達がこうなるのを予測していたのか、俺の分まで課題を用意してくれた。
学校で初等部の子が最初に使う魔法の教科書だ。しかも新品。
簡単な文字だからスラスラ読めるけれどノートンさんに教えてもらってもわからないのにってルシウスさんにも呆れられたからもう無理なんだと思う。何度やっても入り口からわかんないんだよな。

『体内の魔力を感じてそれを練り上げる。』

魔力は温かいらしいんだけど───俺‥…実は割と冷え性なんだよな。
身体の中が温かいなんて感じたことはない。ほっぺなら時々熱を持つけどあれが魔力な訳はないのはわかってる。どこに集まるのかな、心臓?それともお腹?教科書を机に広げ両手で順に探って行くけれどさっぱりだ。

そう言えばクラウスの手はいつも大きくて温かいな。氷の魔法を使うのに全然冷たくない。あの日も触れられた先から───

その時、窓辺の小鳥が訪問者を知らせた。

「おや?こんな時間になんだろうね。」

「ぼ、僕行ってきます!」

慌てて席を立った。

恥ずかしい。何考えてるんだよ俺。ノートンさんも子供達もいる所でよりによってあの時の事思い出すなんて。

「とおや、でぃのもいく!」

『お勉強』に飽きたのかようやくディノが俺の元へやってきた。嬉しくて抱き上げると小さな手に顔を挟まれた。

「ほっぺあかいよ?おねつ?」

「そ、そう?」

廊下を早足で歩きながら心配してくれるディノに悪くて自分の手の冷たい部分を探して急いで顔の熱を冷ます。
片手でパタパタと仰げばディノも小さな手で協力してくれた。

マリーとレインがいなくなって淋しかった筈なのに。ディノ達がかまってくれなくてがっかりしてた筈なのに。それにそれに折角ノートンさんも用意してくれたのにいくらなんでも身体の中の魔力を探してクラウスとえっちしたこと思い出すなんてどうかしてる。

温かいなら他にもあるじゃん。お風呂とか、ココアラテとか。

必死に冷静さを取り戻して正門へ向かうとそれが全部無駄になってしまった。

「ど、どうしたの?」

なぜかと言えば一瞬誰もいないと思った門の外に俺がいつも貸してもらう認識阻害の魔法のマントのフードを外してクラウスが現れた所為で俺の顔が再び発熱したからだ。





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