迷子の僕の異世界生活

クローナ

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前夜の出来事

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誘われてしまったとはいえ俺からするのはそれが重ねるだけの口づけでもやっぱり恥ずかしい。俺の心臓はドキドキしてるのに自分の身体を支える為に置いた手の下にあるクラウスの心臓は通常運転だ。

さっきみたいに少しくらい照れて見せてくれてもいいのにな。

でもいつもの優しい笑顔だからこそ小さな不安はどこかに行ってしまった。



あれから少しして着替えを済ませ迎えに来てくれたアルフ様と俺は今一緒に廊下を歩いている。

でもここにはクラウスもユリウス様もいなくて代わりにいつかの灰緑の髪の近衛騎士がひとり、俺の後ろに付いてくれていた。

「クラウスがいなくて不安か?心配しなくてもここは私達王家の居住区だから安全だ。それに万が一何かあったとしてもそいつもそれなりに強い。加えて言うなら私も強いぞ。迎えに来るのはクラウスだから少し我慢してくれ。」

「いえ、あの…少し緊張してしまって。」

過保護が過ぎるらしい『お守り』を付けてはいるけれどいつもクラウスがいる訳ではないし『護衛』として見ていないからそういう意味の不安は普段から持ち合わせていないのだけれどいつもなら必ずそばにいてくれる場所でいないのはやっぱり少し心細い。でも同じタイミングで夕飯を摂るのならその後はずっと傍にいられるのかな。

灰緑の髪の近衛騎士は教会でも会ったけどクラウスと一緒に俺を『桜の庭』に送ってくれた人だ。
あの夜、クラウスに眠るまで傍にいて欲しいととわがままを言った俺にクラウスは俺の騎士だから好きにしていいと言って安心させてくれた人。今も目が合うと優しく微笑んでくれた。

あの時にクラウスと話した一緒に過ごせる場所が『桜の庭』にあるなんて嬉しいな。お風呂も本当に変わっていてなんだか申し訳ない。広くてウォールの宿のお風呂みたいに段差が作ってあって俺が眠ってしまっても溺れずに済みそうだし深い方はクラウスも充分浸かれる。
今夜あのお風呂に入るのが楽しみだな。

「うん、いい顔だ。」

うっかり妄想でお風呂に浸かった顔を褒められてしまった。

王様達の居住の廊下は大理石の床じゃなく、『桜の庭』より上質な絨毯が敷かれている。落ち着いた色合いの長い廊下を右に曲がるとその先に同じ様に近衛騎士を連れて歩く人がいた。

「エリー。」

アルフ様の声にその場で足を止めたのは第四皇子のエリオット様だった。

「『エリー』ではなくエリオットです兄上様、いい加減にその呼び方っ────え?」

渋々と言った様子でしかめっ面のまま振り返り名前を訂正したエリオット様は俺を認識すると目をパチクリさせた。

「トウヤ……さん?どうしてここに?」

「そう言えばふたりは面識があったのだったな。」

エリオット様の驚いた声にアルフ様は思い出した様にそう言って俺に視線を寄越した。

「あの、もしかして夕食は国王陛下とだけではないんですか?」

「ああ、新しい家族の顔合わせだからな。母上と私とエリオットも一緒だ。他に弟がふたりいるが他国に行っていて戻るのは無理だからすまんな。」

「いえそんな…。」

王妃様やエリオット様まで一緒だなんてもっと緊張してしまうけれど『家族』という響きが胸の中で温かく広がって嬉しくなった。

「新しい家族ってどういう事ですか?」

「ん?お前には伝わってなかったか。では改めて紹介しようトウヤ、こいつは私の弟で第四皇子のエリオットだ。エリーこちらはトウヤ=サクラギ。お前の兄になる者だ、丁重にな。」

アルフ様は俺とエリオット様がきちんと向かい合わせになるよう自分の隣に引き寄せて紹介してくれた。しかもちゃんと『兄』だって。あの時の4人の中では確かに末っ子だけどエリオット様相手なら俺のほうが『お兄さん』だ。

「冬夜です、よろしくお願いします。」

改めて自己紹介をしながら、以前自分のしでかした恥ずかしい行いを思い出していた。

初めてエリオット様と学校で会った時は皇子様とは知らなくてノートンさんへの態度やら中等部だと言われた事やら女の子に間違われた事やら色々気に入らなくてタグを見せただけで名乗りもしなかった。
だけどさっき名前を呼ばれた。子供達が俺を呼ぶから覚えててくれたのかな。さすが生徒会長。あ、もう『元』生徒会長かな?

それにしても学校で会った時は学生服だったから子供っぽく見えたけどこうしてアルフ様も着ているスリーピースのスーツを着てるとなんだか大人っぽい。

けれど見かけの大人っぽさとは違い信じられないと言うような顔で俺を見下ろした。

「───兄って……。」

「言葉通りだ。丁重にと言っただろう態度を改めろエリオット。」

「……失礼いたしました。エリオットです、よろしくお願いします。では私は先に参ります。」

アルフ様の少し威圧的な物言いにエリオット様は気持ちを抑え込むように唇を噛みしめると手短に挨拶をし、足早に廊下の先へ行ってしまった。

「エリーの奴、今頃色々考えてるぞ。例えば私とトウヤが結婚するとかな。」

「………え?」

遠ざかるエリオット様の背中をにまにま笑って見つめる嬉しそうな顔のアルフ様の言葉が信じられず灰緑の髪の騎士様に視線を送ると気まずそうに俺を見て頷いた。

「驚かそうと思ってエリーにはわざと内緒にしてあるんだ。」

そう言って真紅の瞳を子供みたいにキラキラと輝かせて口元に半月を描く。

「ほら、名前も半分しか教えなかったろ?」

言われてみればさっき俺の事『冬夜=桜木』って……。確かに何も知らずに『新しい家族』だの『兄になる』だの言われたらそう考えるほうが自然だ。

「いたずらですか?そういうのは嫌われてしまいますよ。」

エリオット様のあの顔、前に学校でも見たな。あの時だって俺がアルフ様の膝の上に乗ったりして嫌な気持ちになっただろうにそんな誤解をしたならアルフ様より俺の方が嫌われてしまったかも知れない。

「え!?そうなのか!?」

アルフ様はさっきの俺の様に灰緑の騎士に声に出して尋ねるとその人は視線を泳がせながら答えを迫るアルフ様に仕方なく頷いて見せた。

お陰でアルフ様はひどく落ち込んでしまったけれど俺は本当に冗談だとわかって胸を撫で下ろした。






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