迷子の僕の異世界生活

クローナ

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前夜の出来事

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案内された部屋で俺は王様から王妃様とエリオット様を紹介され、王妃様は俺に向かいドレスが床に着くのも構わず膝を折り深くお辞儀をしてくれた。

「お初にお目にかかります。この様な振る舞いは望まれないとは存じておりますが初めくらいは礼儀を尽くさせてくださいませ叔父上様。」

国王陛下の隣に並び立つのに相応しいその人は美しい微笑みがアルフ様によく似ていた。
横に並んでいた何も知らされていなかったエリオット様は王妃様が俺なんかに頭を下げるからすごくびっくりしていた。

豪華なシャンデリアの放つ光を受けて煌く燭台と淡い色の花で飾られた大きなダイニングテーブルの上座に国王陛下。その右手に王妃様とエリオット様、反対側の王様の近くにアルフ様が俺を座らせて隣の席についた。

王様とアルフ様は明日の御用始めの儀の為に連日会議で忙しくこうして揃って食事をするのは久しぶりで、成人間もないため教会に掛けられた魔法の事もまだ知らずにいたエリオット様は手短な説明を王様から受ける事になった。


「───では先日のあの鐘は『失われた皇子』が見つかった報せでありそれがトウヤさんだと言うことですか。本当に偉大な方だったのですね『刻の魔法士』というお方は。」

エリオット様は何を疑うこともなく俺がガーデニア皇子だと言うことを受け入れてしまった。やっぱり産まれた時から魔法のある世界にいるとそんなものなのかな。

「そうだ、時間軸に加え異世界への転移、未だ解らぬことはあれど王国魔法士長、王都首席司祭、そして私がガーデニア第一皇子である事を確認した。本来であれば敬って然るべきお方ではあるが当の本人が敬われるのが苦手だと言うのでこうして年相応の対応を許されたのだ。その事を忘れてはならんぞ。」

「わかりました。……ですからトウヤさんは私達の新しい家族と言うのですね。なんだ私はてっきり……。」

「『てっきり』なんだ?私とトウヤが結婚するとでも勘違いしたのか?」

「あ、あれは兄上様の言い方が紛らわしいのです。」

「なんだ違うのか?私もてっきりそうなのかと思うたが。ならばエリオットはどうだトウヤ。」

エリオット様の口振りからアルフ様の思惑通りの誤解をしていたのはわかるけどさっき反省したんじゃなかったのかと思いながら再びエリオット様を誂う楽しそうなアルフ様を横目で見ていたら真向かいの王妃様が俺を見て口元だけでニコリと笑った。『家族』になった王妃様の話し方はアルフ様とそっくりで俺の中の印象が美しい人から格好良い人に変わった。しかも冗談のセンスも同じみたいだ。

「母上!何を仰るのですかトウヤさんに失礼ですよ。」

「ああ、そうかエリオットは他に気になる者がおるのであったな。」

「それは初耳だなエリー。」

「母上!」

俺にでもわかる軽口で王妃様とアルフ様にからかわれたエリオット様は学校で見せた落ち着きもスーツに身を包んだ大人びた雰囲気もどこかへ置いてきたらしく、耳を真っ赤にして慌てふためく4人兄弟の本物の末っ子は俺と違ってとても可愛いらしい。飾る必要のない家族の中にいるからかな。

思わずふふっと笑ってしまったら目が合ってエリオット様はバツが悪そうに咳払いをした。

「ところでトウヤ、明日の事は誰かに聞いておるか?」

「いいえ、陛下から伝えるのが良いかと考えまだ何も伝えておりません。」

それまで3人のやり取りを楽しそうに眺めていた王様から俺への突然な問いかけにアルフ様が代わりに答えてくれた。

「そうかでは私から話そう。あれから何度か会議を重ね今日までにようやく地盤を整える事ができた。よって明日我が国民にトウヤがガーデニア第一皇子であることを知らせようと思う、待ちわびた鐘の音の慶事に皆喜ぶ事だろう。だがそれに伴いトウヤの周りの環境が大きく変わってしまうこともあるかも知れないが前にも話した通りそれを避けることは出来ぬ。だが私達は出来得る限りそなたの願いを叶えるつもりだ。それと明日からそなたはガーデニア公爵となる。」

「ガーデニアこうしゃく……ですか?でも爵位なんてなくても……。」

人前に出る事は前からの約束事だから環境が変わることも仕方ないと思ってる。でも『爵位』だなんてそれがこの先必要なのか俺には上手く判断がつけられない。部屋をちらりと見渡しても今ここにいるのは俺達以外に給仕の侍従さんが数名いるだけだ。

「ガーデニアは100年も前に失われた国である為にこのままではトウヤの立場を確立出来ぬのだ、それと実はこの爵位はトウヤの地位を保証するための名誉爵位であるが故次代に次ぐことは出来ない。だから余り気負わずに受けてくれぬか。トウヤの立場を明確にしておくことはトウヤとその周りを護るのに必要な事なのだ。」

王様の言葉にアルフ様も頷いた。

「──はい。」

多分これで正解なんだけどクラウスじゃないからすごく心細い。そんな俺の心の内がわかっているのかいないのかアルフ様は俺の頭を子供みたいに撫でてくれたから少しだけホッと息を吐いた。

「そう言えば兄上様はトウヤさんとは以前からお知り合いのようでしたがすでにこの事実を掴んでおられたのですか?」

「いやそれとは別だ。実はトウヤは治癒魔法の使い手でもありその腕はこの国で一番、もとより明日の御用始めで国賓として皆に紹介する予定だったのだ。」

「『一番』という事は今の首席治癒士テレシアよりも、という事か?」

「ええ、そうです母上。トウヤの治癒力は国宝級ですこの私が目の前で確認いたしました。」

「それは実に頼もしいな。」

「ええ随分頼もしい弟ですよ。」

王妃様とアルフ様が同時に俺を見て目を細めニッと笑った。

「ありがとうございます。」

『頼もしい』だなんて今まで言われた事があったかな。それにアルフ様まで。以前治癒魔法の話しをした時は俺の力はこの国にとって迷惑なんだとばかり思っていたのに。

最近になって嫌だと思っていたこの力が子供達の役にも立ってて悪くないと思えて来た今こんな風に言われて嬉しくないはずがなかった。

「ちなみに私との婚姻はその時点できっぱり断られています。ついでに言えばトウヤにはすでに婚約者がおりまして今回の洗礼も結婚の儀の為に教会へ赴いたことからわかったのですので。」

「ええ!」

大きな声を出した自分の口をエリオット様が慌てて塞いだ。アルフ様『断った』だなんて大げさな言い方してまたからかって本当に嫌われちゃうかも。あの冗談真に受けてたら今頃俺がエリオット様みたいに遊ばれてたかもしれないな。

「なんだもう決まっているのか。誰だ?私の知っている者か?」

「そうですね、トウヤの左手に付けている指輪は魔道具ではなくてトウヤのいた世界の結婚の証だそうですよ。同じ物を身につけるそうなので相手が知りたければどうぞ左手の薬指に注目なさってください。なぁトウヤ?」

「……ご存知だったんですか?」

「ああ、何時だったかな?あいつはそれがあるからしばらくは結婚の儀は行わないと言っていたが心変わりをして正解であったな、お陰で私達は家族になれたのだから。」

そう言ってアルフ様は俺の手元を見て真紅のルビーを煌めかせながら口元に弧を描く。

俺はテーブルの下で無意識に左手のお守りと指輪を右手の親指と薬指で同時に触れていた欲張りな自分に気付かされて耳が熱くなるのがわかった。




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