Desperado~エピローグから始まる異世界放浪紀

ダメ人間共同体

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「我が死しても人間がいる限り、また新しい魔王が・・・・・ウグ!」

「うるせーよ! とっとと、おっちね!」

仰向けになり瀕死状態の暗黒魔王・イーガワの頭に紺色で透き通った大剣を突きたてる。
巨大な体躯をしたイーガワは仰向けのまま塵のように風に吹かれ消えて行った。


「ありがとう! 白の勇者! ビアンコ!
 君のおかげで、この世界は救われた!
 感謝する!」

とゼルダムの王子が笑みを浮かべながら握手をしてきた。

「第一王子! お前も弱いのに頑張ったんじゃないか?」

魔王を倒した男は赤い縁取りがされた真っ白いフルサイズのコートの前を開けだらしなく着ていた。
『白の勇者』と王子は読んでいたが勇者と言うには少々品位に欠けていた。


剣と魔法が支配する、とある星の、とある大陸にゼルダムという王国があった。
暗黒魔王・イーガワはゼルダム王国を始め配下の魔物を使い多くの国へ侵攻した。
ある国はオークに、ある国はゾンビに、ある国はグレムリンに征服された。
数ある国の中で最も巨大な武力を持っているのがゼルダム王国と言われ、最後の最後まで抵抗していた。
いくつもの騎士団、いくつかの魔法兵団を持ち暗黒魔王・イーガワの侵略を防いでいた。
ゼルダムが対等に戦えるのは騎士団、魔法兵団の力はあるが、次期国王候補たちが争い合って武勲を挙げているのが最も大きい。
暗黒魔王・イーガワの討伐に成功した者が次期国王になるとも噂されている。
『白の勇者』を要する第一王子が暗黒魔王・イーガワの討伐に成功したことで、次期国王は大方決まったことだろう。

勇者の発言に聖女が一瞬、嫌な顔をしたのを見逃さなかった。
『弱いのに』と言ってのが気にいらないのだろう。
この聖女も次期王妃になることも確定した。

「勇者殿! おかげでゼルダムに平和が訪れました」

王子お付きの聖騎士も獲物の大剣を背中の鞘にしまい第一王子の隣で声を掛けてくる。

「いやいや、正直に言えよ! 
 第二王子を出し抜けたって!
 あと一時もしないうちに第二王子の部隊がここにやってくるだろ。
 俺が力を貸して良かっただろ!
 俺がいなかったらイーガワを倒せなかっただろ~
 契約金をもっとはずんでもいいんだぞ!」

「ハハハハ、そうですね。ビアンコのおかげです」

が、知っている。
平和なんて夢のまた夢。

魔王が倒されれば、次は人間同士が醜い争いを起こす事を。
第一王子が王位についても第二王子が謀反を企て国を二つに分ける戦いになることを。

ゼルダム国王には4人の王子と2人の王女がいたが、すでに第三王子と第一王女、第二王女は討伐に失敗しておりこの世にはいない。
イーガワの返り討ちに合ったということだが、その他の後継者の放った暗殺者に殺されたという話も耳にする。
男は着ているローブから『白の勇者』などと第一王子には勇者と持ち上げられてはいるが、実際のところ金で雇われた傭兵のようなものだ。

「お疲れ様! ビアンコ! あなたのおかげでセルダムは救われたわ」

魔道師に声を掛けられ振り向いた、その時!

グサッ!

聖騎士の大剣が男の腹から突き出る。

バサッ!

第一王子の片手剣が首筋を斬りつける。

「サンダーブレード!!」

正面から魔法使いの魔法が男の心臓を貫いた。

「再生停止!!」


男の着ているローブには再生機能が付与されており、それを知っている聖女は再生を止める魔法を掛けた。
男は地べたにうつ伏せに倒れ動く事は無かった。


「ハハハハハ! やったぞ、これでイーガワ討伐の手柄は僕の物だ!!」

「王子、おめでとうございます。
 勇者でも敵わなかった魔王をご自分の手で討伐されたのです。
 王子こそが『真の勇者!』 次期国王に相応しい」

こうして勇者の手柄は横取りされた。

「ありがとう。
 これでお前も次の近衛騎士団・団長だ!
 魔道師よ、そなたにも感謝する。
 そなたのサンダーブレードが止めの一撃になった」

「私は貰う物さえ貰えれば、いいの」

「分かっている。僕が国王になったら毎年恩給をたんまりと出すようにするよ
 こいつが要求した10億ゼルダムより遙かに安いからね。
 前金の5億は痛かったが、残りの5億を払わないですんで良かったよ!」

地ベタに倒れている俺を軽蔑の眼で嘲笑いながら王子は言う。

「王子さま~~~」

聖女が巨大な胸を押し付けるように甘い声で王子の腕に捕まる。

「こいつのローブ、私が貰ってもいい?」

「構わないが、コイツの血が付いているぞ。
 穴も空いているし」

「だって、コイツのローブ、再生の能力や空を飛べたりするのよ。
 神話級のアイテムよ。
 聖騎士、剥ぎ取って頂戴」

「かしこまりました。聖女様」

と言うと遺体になっている勇者から赤い縁取りがされている白いローブを剥ぎ取った。
聖女は俺の血が付着しているローブを手に取り拡げると見る見るうちに赤い血も剣により斬った痕も嘘のように修復されていった。

「凄いわ! やはりこれは神話級のアイテムよ。
 このローブがあるから、こいつ無敵だったのよ」

というと聖女は倒れている男の体を蹴った。

「やはり持ち上げられないか。 くそー!
 この剣も神話級の一品なのに惜しいな!」

第一王子は紺色の透き通った大剣を持とうとするが地面から持ち上げることはできなかった。

「所有者以外には使うどころか、持ち上げることも出来ない剣なのだが・・・・・
 こいつが死ねば所有者が解除されかと思ったが駄目か。
 仕方ない、ここに放置しておくか」

王子はこの剣がドラゴンを斬り裂き、デビルロードを真っ二つにし、山を吹き飛ばしたのを目の当たりにしていた。

(こいつの異常な強さは、この剣とローブが為せる業。これさえあれば僕だって魔王討伐など簡単にやってのける!)

「こんな辛気臭いところに何時までもいても仕方ない。 
 ダンジョンの入り口で待つ騎士団のところへ戻るぞ!」
 
王子の声で勇者と呼ばれた男の亡骸を放置して、魔王イーガワのダンジョンから自分の配下の騎士団が待つ地上へと上がった。

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