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湿った夜の風。まだまだ賑わう繁華街。
行き交う車。人いきれ。点滅する信号機。
チーフの斜め後ろをとぼとぼ歩いてついて行くと、急に立ち止まったチーフに片腕で引き寄せられて歩道の端に立たされた。
為されるがまま、端によけた私の隣を、猛スピードの自転車が通り抜けていく。
「本当に危なっかしいな、お前は」
上から呆れたような高野チーフの視線が刺さっている気がするけど、
ちょっとそっちを見る余裕がない。
なっ、…慣れてないからね。
レバニラとレバ揚げの女だからね。
急に女の子みたいに扱われてもね。
無駄にドキドキする心臓に言い聞かせる。
落ち着け、落ち着け。
パンダ、レバー仲間のくせに、
なんかいい匂いするとか無駄な情報いらないから。
引き寄せられた腕が力強くて、優しくて、
なんか守られてるみたいとか余計な錯覚いらないから。
「…すみません」
とりあえず謝って高野チーフから離れ、自分を取り戻すために付け加えた。
「香恋ちゃんじゃなくて、残念でしたね」
高野チーフは一瞬の沈黙ののち、
「…お前を送れりゃ充分だ」
私の頭を軽くこつんと小突くと、車道側を保ったまま私を促して歩いた。
…充分。
充分、て、どういう意味だ?
なんだかこそばゆいみたいな沈黙が漂う中、高野チーフの隣を歩いた。
全然、急がなくていい。
仕事で引きずられているときとは違う。
歩調を合わせてくれている。
穏やかで。
どこまでも歩いていけそうな気がした。
会社のエントランスを見渡せるところまで行き着くと、道路でタクシー待ちをしている人影が見えた。
決して視力がいいわけじゃない。
なのに。
遠目からでもわかってしまう。
千晃くん。
千晃くんがちょうど滑り込んできたタクシーを止めて、サラリと黒髪をなびかせた小柄な女性の肩を抱き、スマートに後部座席に乗り込んだ。
千晃くんは優しい。
トイレで抱きとめてくれて。
緑川さんから匿ってくれて。
手をつないで送ってくれた。
それはまだ、ほんの昨日のことなのに。
千晃くんの手のひらの温度も感触も、
何一つ違わず覚えているのに。
その同じ手が。
違う女の人の肩を優しく抱いて。
親し気に顔を寄せ合って話してる。
あの手であの声であの唇で。
同じように優しくあの人に触れるの?
走り出したタクシーが遠く離れていくまで、
髪の先から足の先まで、全ての神経が千晃くんの気配を追いかけていた。
行き交う車。人いきれ。点滅する信号機。
チーフの斜め後ろをとぼとぼ歩いてついて行くと、急に立ち止まったチーフに片腕で引き寄せられて歩道の端に立たされた。
為されるがまま、端によけた私の隣を、猛スピードの自転車が通り抜けていく。
「本当に危なっかしいな、お前は」
上から呆れたような高野チーフの視線が刺さっている気がするけど、
ちょっとそっちを見る余裕がない。
なっ、…慣れてないからね。
レバニラとレバ揚げの女だからね。
急に女の子みたいに扱われてもね。
無駄にドキドキする心臓に言い聞かせる。
落ち着け、落ち着け。
パンダ、レバー仲間のくせに、
なんかいい匂いするとか無駄な情報いらないから。
引き寄せられた腕が力強くて、優しくて、
なんか守られてるみたいとか余計な錯覚いらないから。
「…すみません」
とりあえず謝って高野チーフから離れ、自分を取り戻すために付け加えた。
「香恋ちゃんじゃなくて、残念でしたね」
高野チーフは一瞬の沈黙ののち、
「…お前を送れりゃ充分だ」
私の頭を軽くこつんと小突くと、車道側を保ったまま私を促して歩いた。
…充分。
充分、て、どういう意味だ?
なんだかこそばゆいみたいな沈黙が漂う中、高野チーフの隣を歩いた。
全然、急がなくていい。
仕事で引きずられているときとは違う。
歩調を合わせてくれている。
穏やかで。
どこまでも歩いていけそうな気がした。
会社のエントランスを見渡せるところまで行き着くと、道路でタクシー待ちをしている人影が見えた。
決して視力がいいわけじゃない。
なのに。
遠目からでもわかってしまう。
千晃くん。
千晃くんがちょうど滑り込んできたタクシーを止めて、サラリと黒髪をなびかせた小柄な女性の肩を抱き、スマートに後部座席に乗り込んだ。
千晃くんは優しい。
トイレで抱きとめてくれて。
緑川さんから匿ってくれて。
手をつないで送ってくれた。
それはまだ、ほんの昨日のことなのに。
千晃くんの手のひらの温度も感触も、
何一つ違わず覚えているのに。
その同じ手が。
違う女の人の肩を優しく抱いて。
親し気に顔を寄せ合って話してる。
あの手であの声であの唇で。
同じように優しくあの人に触れるの?
走り出したタクシーが遠く離れていくまで、
髪の先から足の先まで、全ての神経が千晃くんの気配を追いかけていた。
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