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1章.告白ミッション
07.
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「こんな感じ」
ななせは普通に隣に立って、小首を傾げて私を見ると、
「大丈夫だろ」
片腕で抱えたままの私の肩を押して歩くよう促すから、私の両足もやむを得ず一歩一歩先へ進む。
「あ、…うん。そう、…ですね」
語尾が不自然に小さくなる。
ぎくしゃくと足を繰り出しながら動揺するのもおかしい気がして必死で頷く。
うん。まあ。そうか。
大丈夫。大丈夫ならいいんだ。
心臓も混乱してドキドキしていいのか落ち着くべきなのか悩んだ挙句にこっそりツーステップを踏んだ。
「…俺の角煮、無事?」
ツーステップにはまるで関心がないらしいななせが、斜め上から見下ろしてくる。
かっく。かっく。かっくにー。
心臓がツーステップで歌い出す。
そういえば、朝から宣言して出たんだっけ。
「…ななせ、もしかして、角煮を迎えに来た?」
「…だって心配じゃん?」
ななせは悪びれずに言い放つと、あー、お腹空いた、とつぶやいた。
その横顔を見ていたら、何だかいろいろ力が抜けた。
何はともあれ頑張った。頑張ったよ、私。
同じ相手に4度目の告白だけど。
何度目だって同じ相手だって、いつも。死にそうな気持ちになるんだよ。
「…もやしのナムルを付けて進ぜよう」
「やりっ」
嬉しそうなななせを見ると嬉しくなる。
ななせが料理を食べてくれると安心する。
暗い空にオレンジ色の月が微笑みながらこっちを見ていた。
はずだったのに。
「ぬるいっ、ぬるいっ、ぬる過ぎるっ‼︎ 今時小学生だってもっと進んどるわっ‼」
翌日大学で顔を合わせたセレナによって私の決死の告白はぶった切られた。
「ほっぺにちゅうぅ? どこのお子様ですか? また、ありがとう言われて終わるがなっ‼︎ 20歳の本気を見せてこ―――いっ‼」
スパコーンと丸めたクリアファイルで空っぽの頭をはたかれて、軽々しい音がカフェテリアに響く。
「セ、セレナさん、もそっとお声を抑えて、…」
「これが抑えていられるか―――いっ」
まだ早い時間だからかカフェテリアは閑散としているけれど、話題が話題だけに人の耳が気になる。
「そんなことじゃいつまでたっても妹ポジションだよ? あんたオンナだと思われてないんだよ⁉ そのデカい乳は張りぼてか⁉ とっとと押し倒して、抱いてもらって来―――いっ‼︎ 」
うおーい、真っ昼間の健全な学び舎でなんてこと言うか――っ
セレナの口元を両手でふさぐと齧られた。
うう、セレナ様が荒ぶっていらっしゃる。
「まあまあ。セレナは確かにちょっと過激だけど、でもセレナの言うことにも一理あると思うよ。長年培われた関係を変えるのって、結構難しいし」
荒ぶるセレナを野放しにして呑気にサイダーを飲んでいるのはコウ先輩。
コウ先輩はクッキングサークルの先輩で、セレナの彼氏。
「少なくとも相手にその気があるかどうか分かるしね」
コウ先輩が陽だまりみたいな笑顔を見せる。
コウ先輩に言われるとそんな気がしてくるから不思議だ。確かにこのままでは、また優しいありがとうで終わってしまうような気がひしひしする。
「心配しなくても、女の子に迫られて嫌な男なんていないよ」
どう見ても草食男子代表みたいな先輩だけど、これが意外と猛獣ハンターで、セレナはコウ先輩にベタ惚れだ。
そうなのかぁ。
そうかもなぁ。
創くんは7つも年上だし、幼少時代にパンツのお世話までしてもらった仲なわけだから、そこから抜け出すには生半可な体当たりじゃ意味をなさないのかもしれない。
体当たりの重みが違った。
「…創くんをその気にさせるにはどうすれば」
最後の告白だし、無謀にもキスしちゃったし、もはや失うものは何もない。セレナ様にお伺いを立てると、即座にレクチャーしてくれた。
「相手の目をじっと見ながらブラウスのボタンをゆっくり外して乳を見せる。これ鉄壁」
「そ、…そんなことできないよ―――っ」
「じゃあ、可愛く『したいの』とか」
「余計無理―――っ」
「贅沢な奴だな」
結局カフェテリアでギャーギャー騒いでいる私たちにコウ先輩が生温かい視線を注いでいた。
「ところでさ、次のサークルのメニューどうする?」
何はともあれ脱いでみるということに半ば強引に落ち着いて、コウ先輩が話題を変えた。
「切り干し大根のアレンジ料理でしょ」
今度のサークル実習では切り干し大根を使うことになっている。煮物以外で美味しく食べられる創作メニューを開発しようと決まったはいいけど。
「私、コロッケにしたらどうかと思うんですけど」
「…コロッケ? 切り干しコロッケ⁇」
「え。…ダメ?」
先輩たちの反応が鈍いので、切り干し料理を各自試作して報告することになった。
その日の帰り、セレナに買い物に付き合ってもらった。
もはや身体を作る余裕はないけどせめて勝負下着を買おうと思う。
「よし、やる気だな、つぼみ」
だってもう。私には後がない。
「鉄は熱いうちに打て。今夜、下心の差し入れ持って彼の部屋に押しかけな。それでドーンとその下着見せてこい」
セレナに後押ししてもらってフリルの付いたパステルカラーの下着を買った。
創くんのために下心の切り干し大根コロッケも作ってみた。
ななせは普通に隣に立って、小首を傾げて私を見ると、
「大丈夫だろ」
片腕で抱えたままの私の肩を押して歩くよう促すから、私の両足もやむを得ず一歩一歩先へ進む。
「あ、…うん。そう、…ですね」
語尾が不自然に小さくなる。
ぎくしゃくと足を繰り出しながら動揺するのもおかしい気がして必死で頷く。
うん。まあ。そうか。
大丈夫。大丈夫ならいいんだ。
心臓も混乱してドキドキしていいのか落ち着くべきなのか悩んだ挙句にこっそりツーステップを踏んだ。
「…俺の角煮、無事?」
ツーステップにはまるで関心がないらしいななせが、斜め上から見下ろしてくる。
かっく。かっく。かっくにー。
心臓がツーステップで歌い出す。
そういえば、朝から宣言して出たんだっけ。
「…ななせ、もしかして、角煮を迎えに来た?」
「…だって心配じゃん?」
ななせは悪びれずに言い放つと、あー、お腹空いた、とつぶやいた。
その横顔を見ていたら、何だかいろいろ力が抜けた。
何はともあれ頑張った。頑張ったよ、私。
同じ相手に4度目の告白だけど。
何度目だって同じ相手だって、いつも。死にそうな気持ちになるんだよ。
「…もやしのナムルを付けて進ぜよう」
「やりっ」
嬉しそうなななせを見ると嬉しくなる。
ななせが料理を食べてくれると安心する。
暗い空にオレンジ色の月が微笑みながらこっちを見ていた。
はずだったのに。
「ぬるいっ、ぬるいっ、ぬる過ぎるっ‼︎ 今時小学生だってもっと進んどるわっ‼」
翌日大学で顔を合わせたセレナによって私の決死の告白はぶった切られた。
「ほっぺにちゅうぅ? どこのお子様ですか? また、ありがとう言われて終わるがなっ‼︎ 20歳の本気を見せてこ―――いっ‼」
スパコーンと丸めたクリアファイルで空っぽの頭をはたかれて、軽々しい音がカフェテリアに響く。
「セ、セレナさん、もそっとお声を抑えて、…」
「これが抑えていられるか―――いっ」
まだ早い時間だからかカフェテリアは閑散としているけれど、話題が話題だけに人の耳が気になる。
「そんなことじゃいつまでたっても妹ポジションだよ? あんたオンナだと思われてないんだよ⁉ そのデカい乳は張りぼてか⁉ とっとと押し倒して、抱いてもらって来―――いっ‼︎ 」
うおーい、真っ昼間の健全な学び舎でなんてこと言うか――っ
セレナの口元を両手でふさぐと齧られた。
うう、セレナ様が荒ぶっていらっしゃる。
「まあまあ。セレナは確かにちょっと過激だけど、でもセレナの言うことにも一理あると思うよ。長年培われた関係を変えるのって、結構難しいし」
荒ぶるセレナを野放しにして呑気にサイダーを飲んでいるのはコウ先輩。
コウ先輩はクッキングサークルの先輩で、セレナの彼氏。
「少なくとも相手にその気があるかどうか分かるしね」
コウ先輩が陽だまりみたいな笑顔を見せる。
コウ先輩に言われるとそんな気がしてくるから不思議だ。確かにこのままでは、また優しいありがとうで終わってしまうような気がひしひしする。
「心配しなくても、女の子に迫られて嫌な男なんていないよ」
どう見ても草食男子代表みたいな先輩だけど、これが意外と猛獣ハンターで、セレナはコウ先輩にベタ惚れだ。
そうなのかぁ。
そうかもなぁ。
創くんは7つも年上だし、幼少時代にパンツのお世話までしてもらった仲なわけだから、そこから抜け出すには生半可な体当たりじゃ意味をなさないのかもしれない。
体当たりの重みが違った。
「…創くんをその気にさせるにはどうすれば」
最後の告白だし、無謀にもキスしちゃったし、もはや失うものは何もない。セレナ様にお伺いを立てると、即座にレクチャーしてくれた。
「相手の目をじっと見ながらブラウスのボタンをゆっくり外して乳を見せる。これ鉄壁」
「そ、…そんなことできないよ―――っ」
「じゃあ、可愛く『したいの』とか」
「余計無理―――っ」
「贅沢な奴だな」
結局カフェテリアでギャーギャー騒いでいる私たちにコウ先輩が生温かい視線を注いでいた。
「ところでさ、次のサークルのメニューどうする?」
何はともあれ脱いでみるということに半ば強引に落ち着いて、コウ先輩が話題を変えた。
「切り干し大根のアレンジ料理でしょ」
今度のサークル実習では切り干し大根を使うことになっている。煮物以外で美味しく食べられる創作メニューを開発しようと決まったはいいけど。
「私、コロッケにしたらどうかと思うんですけど」
「…コロッケ? 切り干しコロッケ⁇」
「え。…ダメ?」
先輩たちの反応が鈍いので、切り干し料理を各自試作して報告することになった。
その日の帰り、セレナに買い物に付き合ってもらった。
もはや身体を作る余裕はないけどせめて勝負下着を買おうと思う。
「よし、やる気だな、つぼみ」
だってもう。私には後がない。
「鉄は熱いうちに打て。今夜、下心の差し入れ持って彼の部屋に押しかけな。それでドーンとその下着見せてこい」
セレナに後押ししてもらってフリルの付いたパステルカラーの下着を買った。
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