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iiyori.01

02.

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私の名前は倉咲 菜苗くらさき ななえ。29歳。
私立高校で国語教師をしている、真面目なだけが取り柄の大人です。

そして、

「…美味いな」「うまうま」

私が買ってきたコンビニエンスストアの鮭弁当をあっという間にたいらげてしまった若いイケメンともちもちの幼児は、やっぱりちょっと、いやだいぶ、様子がおかしかった。

ともかくも薄汚れていたのでお風呂に突っ込んでみたのだけど、シャンプーもボディソープも分からないし、着ていた着物は素晴らしい織りの本格仕様だし、あろうことか、…太刀をいていた。

え、なにこれ!? 本物!? 本物??

むちゃくちゃ重いし作りが精巧だし鞘から引き抜いてみるとその輝きと鋭さが半端ないし、…

「なえっ」

これはやっぱり早く警察に通報するべきか、と思っていると、浴室から飛び出してきた全裸のイケメンに刀を取り上げられた。

「なにをしている! これに触ってはならぬ!!」

挙句に、怒られた。

その迫力がもの凄くて、取り上げられた時の力も強くて、しかも垣間見えてしまった身体の作りが、それはもう、もの凄くて。無駄な脂肪が一つもないひどく引き締まった身体に、傷跡らしきものが無数に付いている。絶対に力じゃかないそうもないし、これはなんか相当な事情がありそうだ。

「…ごめんなさい」

とりあえず素直に謝ると、イケメンは水に濡れた長い黒髪をかきあげて困ったように微笑んだ。

「いや、驚かせたな、すまぬ」

そうして、

「なえ、背中を流してくれるか?」

なぜかとんでもないことを言い出したので、2秒でお断りした。すると、

「…ういやつ」

全裸のイケメンがまたしても唇を寄せてきて、

「後でな」

意味ありげに囁いたので、思考能力を根こそぎ奪われ、通報も忘れてイケメンと子どもにコンビニご飯をご馳走する羽目になってしまったわけだけど。

…いやこれ、どう考えてもおかしな状況になっているよね??
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