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iiyori.02

04.

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「はぁ!? 婚約者ぁああ!?」

「…菜苗さん、驚き過ぎじゃないですか?」

夕方混みあうスーパーマーケットで、場違いの大声を上げてしまい、慌てて自分で自分の口を押さえた。

「もしかして本当に忘れてたんですか? 僕らこの前相談所の紹介で会って、将来を視野に入れた交際を始めましょうってことで同意しましたよね??」

スーツ姿の雪だるまが心外だという顔をして迫ってくる。

「…し、…しましま、…うま」
 
本気で冷や汗が滴り落ちた。

忘れてたよ、雪だるまマモルっ
30までに結婚しろって実家の母親がうるさくって、勝手に結婚相談所に登録して、とにかく会うだけでいいから会えってことで会ったんだったわ。で、なんか適当にしゃべって解散したんだ。

忘れてた。すっかりうっかり忘れてた。きれいさっぱり忘れてた。
…のに、なんか、忘れてるうちに交際が始まってた!!

「婚約、ということはないだろう。なえは既に俺の妻だ」

動揺して脳内にしまうまを走らせていると、さりげなく穂月が割って入り、そっと私の肩を抱いた。

「えええ!?」
「あ、…いや、ええっと、…」

雪だるまマモルがもともと薄ら白い顔を蒼白にして目を見開くので、状況を説明しようと思うも、焦るあまり何も出てこないし、考えてみたら説明できることなど何もない。

「やだなあ、アハハ。そんなこと、あるわけないじゃ、…」
「子もおる」

雪だるまが引き攣り笑いで流そうとすると、穂月が卯月を抱き上げてとどめを刺した。

「子ぉ!?」

悲鳴のような声を上げて、雪だるまマモルが卯月と顔を見合わせる。
雪だるま体型と言えば言える二人だが、どう見ても卯月の可愛いが勝っている。

口をパクパクさせて穂月と卯月を見比べ、顔を赤くしたり青くしたりする芸達者な雪だるまマモルは、

「う、…訴えてやるっ!!」

最終的に指差し確認して捨て台詞を吐くと、スーパーから逃走した。

「…信じられない思い込みをする者もあるのだな」

いや、それ、あんたでしょう!!

穂月が感心したようにその後ろ姿を見送っていたが、内心で突っ込んで、やっぱりなぜか、胸が痛くなった。
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