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iiyori.03

01.

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「『梓弓引けど引かねど昔より心は君によりにしものを』っつったんだけども、帰っちゃったんだよ、男がさあ」

「なえちゃん、それ昨日やったよ」「てか、今日も既に3回目だよ」
「どしたん?」「妙に荒れてるじゃん」

男子高校生に真っ裸を見られた挙句に腐ってると言われた。
そんな気まずさの境地に君臨しても仕事はしなければならない。こちとらしがないサラリーマンですから!?

「腐ってるってなに、腐ってるって~~~???」

でも立ち直れない。
教卓をバンバン叩いてしまう。

「飽きたの? ねえ、飽きたってこと!?」

余裕過ぎる穂月の横顔が頭から離れない。私の真っ裸は騒ぐ価値もないってことですか??

「飽きたのはあれでしょ、筒井筒の方でしょ」
「自分でしゃもじ持ってたから冷めたんでしょ。信じらんない。お前がやれよ」

見慣れてるってこと? がっかりしたってこと?
ていうか私は男子高校生に何てお見苦しいもの見せちゃったわけなの―――??

「だいたいさあ、三年縛りでなんでその最終日に帰ってくるかね」「もっとさっさと帰って来いよ」
「女もさあ、そんな死ぬほど好きなら、最後まで待てし」
「てか、あっさり引くなよ。奪い合えよ」

「…しばらく自習」

げんなりして、気分転換に廊下に出た。
クラスの奴らは意外とちゃんと伊勢物語を考察しているからよしとしよう。

廊下の窓から外を見ると、校庭で体育の授業を受けている穂月の姿が見えた。日差しに黒髪が映える。ジャージ姿もカッコいい、…

と思いかけて自分の横っ面を引っぱたいた。

待て、私。正気を保て!! 老成した18歳に一体どんだけダメージを、…

「…なえちゃん。恋しちゃったの?」

自分を立て直していたら急に声をかけられてビック―――っと大げさに後退ってしまった。

「な、…なんだ、鷹峰たかみねくん」

無駄に動揺した心臓を鎮める。最近過労気味なんだから脅かさないで欲しい。

「あのイケメン過ぎる隠し子となんかあった??」

窓枠に腕をついて、なんか可愛い感じで私を覗き込む鷹峰くんは、ちょっとチャラい陽キャの塊みたいな生徒で、ピアス穴がジャラジャラ開いてて、女性教師とみるやからかってくる男子生徒の典型ともいえる。

「なっ!? なんにもないよ? あるわけないじゃん!!」

そう、そうだ。ここは毅然とっ!!
と、至って冷静に返答するも、

「風呂で裸見られたりぃ? キスしちゃったり??」

なんでかぴったり言い当てられた。

「え、…っ!?」

…エスパー??
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