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iiyori.03

02.

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「ずりーよな、なえちゃん。俺には応えてくんないくせに」

拗ねたような顔をして、窓枠から上体を起こした鷹峰くんに一歩詰め寄られた。
あれ、なんかおかしな展開に、…

「俺のが先に好きつったのに」

鷹峰くん、ちょっと、授業中ですよ。
速やかに教室に戻りなさい。でっかい体格なりで子どもみたいに不貞腐れて、人の髪の毛を摘まむのを止めなさい、…っ

一歩後退したら背中が壁にぶつかった。
これはやばい。かもしれない。

「あ、いや、だからね? いろいろ誤解があるようだけど、穂月は隠し子ではなく親戚の子で、至って健全にお預かりしていて、間違っても真っ裸が腐ってるとかそんなことは、…」

「アイツが良いなら俺でもいいじゃん」

聞けや、こら。

「だから、なんにも良くないよね!?」

思いっきり首を横に振ると、がしっと両頬をつかまれた。

「なえちゃん、キスしてい?」

聞けや、こらぁあああっ、いいわけあるか―――――っ!!

「ちょ、…っ」

これが恐怖の壁ドンという奴か?? 急にパニックな展開になって、その手の中から逃れようとするけど、男子高校生の大きさと力強さ、侮るなかれ。いや無理。むりむりむり、…

思わず目を瞑って顔を背け、鷹峰くんの男子っぽい匂いと温度をほのかに感じた時、

ガッシャ―――――ン!!

蹴り上げられたサッカーボールが窓から飛び込んできて、教室側の壁に当たって激しい音を立てながらバウンドして転がった。

「なになに」「なにごと!?」

自習中の教室から生徒たちがわらわら顔を出す。

「あ、たかみー、サボってる」「おっ前、なえちゃん、困らせんなよ」

「うっせ、ブース」

鷹峰くんが私から手を放し、

「てかこのボールなに」「すげーコントロールじゃね?」

生徒たちが廊下に転がっているサッカーボールを拾ってくれた。

「すまぬ。足が滑った」

窓の外を見ると、校庭から穂月がこっちに駆け寄りってきて手を挙げている。

「なえちゃんの隠し子、キック力、鬼強いじゃん」
「サッカー部入るしかなくない?」

生徒たちが穂月にサッカーボールを投げ返している。
朝から気まずくてちゃんと顔が見れなかった穂月なのに、こうして見たらなんだか泣きたいような気分になった。

「俺、売られた喧嘩は買う主義なんだよね」

同じく外を見ていた鷹峰くんが不穏なことを口走る。

「え、あの、…」
「ごめんね、なえちゃん。もう無理にしないから許して?」

金色の髪を可愛く揺らして鷹峰くんが謝ってきた。

「謝罪が塵より軽いんですけど」
「うん、次は決着つけてからにする」
「は、…?」

次とかないし。決着って何だし。

って、うだうだしている生徒たちを教室に戻さねば。

「…みんな―――、教室戻って―――っ」

授業中に何してんの、私。ああ、またしても教師失格、…
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