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feel.2
02.
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血の味を噛みしめながら榊さんをうかがい見ると、ちょっとあっけに取られたような表情をしてから頬を緩め、
「深森、独り暮らしだよな? 手伝いに行こうか?」
次の一さじをすくって、さり気なく話題を変えた。
「はいっ」
次の一口を差し出されたからには、もう少し上手く食べねばなるまい。
投げ打つ銭はもはやない。けども。
気合を入れて頬張ると、今度は口を噛むという失態を犯さずに上手に食べられて、ちょっと嬉しくなって顔が緩んだ。
「…ん」
榊さんもなんだか少し嬉しそうに、腕を伸ばして私の頭を撫でた。
…猫になりたい。
榊さんになら。
触れられても大丈夫で。
むしろ触れてほしくて。
そんな風に思える人にやっと出会えたというのに。
それは、許されない思い。
もうあの時みたいに逃げだすことはできないから。
この気持ちは、絶対に気づかれてはいけない。
墓場まで持って行く、秘密の、―――
「秘密にしとくか」
榊さんが私の髪を一筋、その長い指に絡めて小首をかしげ、確信犯的な笑みを浮かべた。
魅惑の眼差しで心臓を一突き。
あまりにも簡単に身体全体が心臓になって、音を立てて射抜かれた。
これを世間では、チョロりのすけ、と言うのではないでしょうか。
榊さんの整った鼻筋と彫りの深い顔立ちを見つめたまま、静止した。
チョロりの。
目の前のこの美しい人、今、秘密にするって仰った⁉
内心の動揺をひた隠しにして、静止したまま脳内検証を始める。
秘密ってつまり。
私の邪な思惑が何もかも筒抜け。だだ漏れ。バレバレ。
ってことですか?
それで秘密って。
背徳の関係に溺れる、みたいなことですか??
まだ見たことがない榊さんの奥様に平手打ちされた挙句、土下座で這いつくばっている自分の姿が垣間見えた。
この泥棒猫―――っ
あ――、そっちの猫じゃなかったのに―――いっ
「…このランチの件は」
顔面蒼白、冷や汗だらだらの私を、榊さんがほのかに面白そうな顔をして見ていた。
あ。…その件、ね。ランチね。
射抜かれた心臓が、大急ぎで何ごともなかったかのように修復されていく。
OK, チョロりの。
平穏無事です。本日は晴天なり。
そういえば、朝から降り続いていた雨はいつの間にか上がり、重い雲の隙間から光の筋が射していた。
本日の射手座。『困難はチャンス』。
「せっかく休みとったから、どこか行きたいとこだけど、…」
浮わついた気持ちは天上のレストランに置いて、何事もなかったかのように取り繕って地上に降りてきた。
のに。
榊さんが、きれいに磨かれた見るからに高級そうな車の助手席を開けてくれるから、なんだかまたチョロりのが勘違いしそうになる。
「深森、独り暮らしだよな? 手伝いに行こうか?」
次の一さじをすくって、さり気なく話題を変えた。
「はいっ」
次の一口を差し出されたからには、もう少し上手く食べねばなるまい。
投げ打つ銭はもはやない。けども。
気合を入れて頬張ると、今度は口を噛むという失態を犯さずに上手に食べられて、ちょっと嬉しくなって顔が緩んだ。
「…ん」
榊さんもなんだか少し嬉しそうに、腕を伸ばして私の頭を撫でた。
…猫になりたい。
榊さんになら。
触れられても大丈夫で。
むしろ触れてほしくて。
そんな風に思える人にやっと出会えたというのに。
それは、許されない思い。
もうあの時みたいに逃げだすことはできないから。
この気持ちは、絶対に気づかれてはいけない。
墓場まで持って行く、秘密の、―――
「秘密にしとくか」
榊さんが私の髪を一筋、その長い指に絡めて小首をかしげ、確信犯的な笑みを浮かべた。
魅惑の眼差しで心臓を一突き。
あまりにも簡単に身体全体が心臓になって、音を立てて射抜かれた。
これを世間では、チョロりのすけ、と言うのではないでしょうか。
榊さんの整った鼻筋と彫りの深い顔立ちを見つめたまま、静止した。
チョロりの。
目の前のこの美しい人、今、秘密にするって仰った⁉
内心の動揺をひた隠しにして、静止したまま脳内検証を始める。
秘密ってつまり。
私の邪な思惑が何もかも筒抜け。だだ漏れ。バレバレ。
ってことですか?
それで秘密って。
背徳の関係に溺れる、みたいなことですか??
まだ見たことがない榊さんの奥様に平手打ちされた挙句、土下座で這いつくばっている自分の姿が垣間見えた。
この泥棒猫―――っ
あ――、そっちの猫じゃなかったのに―――いっ
「…このランチの件は」
顔面蒼白、冷や汗だらだらの私を、榊さんがほのかに面白そうな顔をして見ていた。
あ。…その件、ね。ランチね。
射抜かれた心臓が、大急ぎで何ごともなかったかのように修復されていく。
OK, チョロりの。
平穏無事です。本日は晴天なり。
そういえば、朝から降り続いていた雨はいつの間にか上がり、重い雲の隙間から光の筋が射していた。
本日の射手座。『困難はチャンス』。
「せっかく休みとったから、どこか行きたいとこだけど、…」
浮わついた気持ちは天上のレストランに置いて、何事もなかったかのように取り繕って地上に降りてきた。
のに。
榊さんが、きれいに磨かれた見るからに高級そうな車の助手席を開けてくれるから、なんだかまたチョロりのが勘違いしそうになる。
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