8 / 98
feel.2
02.
しおりを挟む
血の味を噛みしめながら榊さんをうかがい見ると、ちょっとあっけに取られたような表情をしてから頬を緩め、
「深森、独り暮らしだよな? 手伝いに行こうか?」
次の一さじをすくって、さり気なく話題を変えた。
「はいっ」
次の一口を差し出されたからには、もう少し上手く食べねばなるまい。
投げ打つ銭はもはやない。けども。
気合を入れて頬張ると、今度は口を噛むという失態を犯さずに上手に食べられて、ちょっと嬉しくなって顔が緩んだ。
「…ん」
榊さんもなんだか少し嬉しそうに、腕を伸ばして私の頭を撫でた。
…猫になりたい。
榊さんになら。
触れられても大丈夫で。
むしろ触れてほしくて。
そんな風に思える人にやっと出会えたというのに。
それは、許されない思い。
もうあの時みたいに逃げだすことはできないから。
この気持ちは、絶対に気づかれてはいけない。
墓場まで持って行く、秘密の、―――
「秘密にしとくか」
榊さんが私の髪を一筋、その長い指に絡めて小首をかしげ、確信犯的な笑みを浮かべた。
魅惑の眼差しで心臓を一突き。
あまりにも簡単に身体全体が心臓になって、音を立てて射抜かれた。
これを世間では、チョロりのすけ、と言うのではないでしょうか。
榊さんの整った鼻筋と彫りの深い顔立ちを見つめたまま、静止した。
チョロりの。
目の前のこの美しい人、今、秘密にするって仰った⁉
内心の動揺をひた隠しにして、静止したまま脳内検証を始める。
秘密ってつまり。
私の邪な思惑が何もかも筒抜け。だだ漏れ。バレバレ。
ってことですか?
それで秘密って。
背徳の関係に溺れる、みたいなことですか??
まだ見たことがない榊さんの奥様に平手打ちされた挙句、土下座で這いつくばっている自分の姿が垣間見えた。
この泥棒猫―――っ
あ――、そっちの猫じゃなかったのに―――いっ
「…このランチの件は」
顔面蒼白、冷や汗だらだらの私を、榊さんがほのかに面白そうな顔をして見ていた。
あ。…その件、ね。ランチね。
射抜かれた心臓が、大急ぎで何ごともなかったかのように修復されていく。
OK, チョロりの。
平穏無事です。本日は晴天なり。
そういえば、朝から降り続いていた雨はいつの間にか上がり、重い雲の隙間から光の筋が射していた。
本日の射手座。『困難はチャンス』。
「せっかく休みとったから、どこか行きたいとこだけど、…」
浮わついた気持ちは天上のレストランに置いて、何事もなかったかのように取り繕って地上に降りてきた。
のに。
榊さんが、きれいに磨かれた見るからに高級そうな車の助手席を開けてくれるから、なんだかまたチョロりのが勘違いしそうになる。
「深森、独り暮らしだよな? 手伝いに行こうか?」
次の一さじをすくって、さり気なく話題を変えた。
「はいっ」
次の一口を差し出されたからには、もう少し上手く食べねばなるまい。
投げ打つ銭はもはやない。けども。
気合を入れて頬張ると、今度は口を噛むという失態を犯さずに上手に食べられて、ちょっと嬉しくなって顔が緩んだ。
「…ん」
榊さんもなんだか少し嬉しそうに、腕を伸ばして私の頭を撫でた。
…猫になりたい。
榊さんになら。
触れられても大丈夫で。
むしろ触れてほしくて。
そんな風に思える人にやっと出会えたというのに。
それは、許されない思い。
もうあの時みたいに逃げだすことはできないから。
この気持ちは、絶対に気づかれてはいけない。
墓場まで持って行く、秘密の、―――
「秘密にしとくか」
榊さんが私の髪を一筋、その長い指に絡めて小首をかしげ、確信犯的な笑みを浮かべた。
魅惑の眼差しで心臓を一突き。
あまりにも簡単に身体全体が心臓になって、音を立てて射抜かれた。
これを世間では、チョロりのすけ、と言うのではないでしょうか。
榊さんの整った鼻筋と彫りの深い顔立ちを見つめたまま、静止した。
チョロりの。
目の前のこの美しい人、今、秘密にするって仰った⁉
内心の動揺をひた隠しにして、静止したまま脳内検証を始める。
秘密ってつまり。
私の邪な思惑が何もかも筒抜け。だだ漏れ。バレバレ。
ってことですか?
それで秘密って。
背徳の関係に溺れる、みたいなことですか??
まだ見たことがない榊さんの奥様に平手打ちされた挙句、土下座で這いつくばっている自分の姿が垣間見えた。
この泥棒猫―――っ
あ――、そっちの猫じゃなかったのに―――いっ
「…このランチの件は」
顔面蒼白、冷や汗だらだらの私を、榊さんがほのかに面白そうな顔をして見ていた。
あ。…その件、ね。ランチね。
射抜かれた心臓が、大急ぎで何ごともなかったかのように修復されていく。
OK, チョロりの。
平穏無事です。本日は晴天なり。
そういえば、朝から降り続いていた雨はいつの間にか上がり、重い雲の隙間から光の筋が射していた。
本日の射手座。『困難はチャンス』。
「せっかく休みとったから、どこか行きたいとこだけど、…」
浮わついた気持ちは天上のレストランに置いて、何事もなかったかのように取り繕って地上に降りてきた。
のに。
榊さんが、きれいに磨かれた見るからに高級そうな車の助手席を開けてくれるから、なんだかまたチョロりのが勘違いしそうになる。
0
あなたにおすすめの小説
愛想笑いの課長は甘い俺様
吉生伊織
恋愛
社畜と罵られる
坂井 菜緒
×
愛想笑いが得意の俺様課長
堤 将暉
**********
「社畜の坂井さんはこんな仕事もできないのかなぁ~?」
「へぇ、社畜でも反抗心あるんだ」
あることがきっかけで社畜と罵られる日々。
私以外には愛想笑いをするのに、私には厳しい。
そんな課長を避けたいのに甘やかしてくるのはどうして?
同窓会~あの日の恋をもう一度~
小田恒子
恋愛
短大を卒業して地元の税理事務所に勤める25歳の西田結衣。
結衣はある事がきっかけで、中学時代の友人と連絡を絶っていた。
そんなある日、唯一連絡を取り合っている由美から、卒業十周年記念の同窓会があると連絡があり、全員強制参加を言い渡される。
指定された日に会場である中学校へ行くと…。
*作品途中で過去の回想が入りますので現在→中学時代等、時系列がバラバラになります。
今回の作品には章にいつの話かは記載しておりません。
ご理解の程宜しくお願いします。
表紙絵は以前、まるぶち銀河様に描いて頂いたものです。
(エブリスタで以前公開していた作品の表紙絵として頂いた物を使わせて頂いております)
こちらの絵の著作権はまるぶち銀河様にある為、無断転載は固くお断りします。
*この作品は大山あかね名義で公開していた物です。
連載開始日 2019/10/15
本編完結日 2019/10/31
番外編完結日 2019/11/04
ベリーズカフェでも同時公開
その後 公開日2020/06/04
完結日 2020/06/15
*ベリーズカフェはR18仕様ではありません。
作品の無断転載はご遠慮ください。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
紙の上の空
中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。
容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。
欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。
血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。
公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。
2人のあなたに愛されて ~歪んだ溺愛と密かな溺愛~
けいこ
恋愛
「柚葉ちゃん。僕と付き合ってほしい。ずっと君のことが好きだったんだ」
片思いだった若きイケメン社長からの突然の告白。
嘘みたいに深い愛情を注がれ、毎日ドキドキの日々を過ごしてる。
「僕の奥さんは柚葉しかいない。どんなことがあっても、一生君を幸せにするから。嘘じゃないよ。絶対に君を離さない」
結婚も決まって幸せ過ぎる私の目の前に現れたのは、もう1人のあなた。
大好きな彼の双子の弟。
第一印象は最悪――
なのに、信じられない裏切りによって天国から地獄に突き落とされた私を、あなたは不器用に包み込んでくれる。
愛情、裏切り、偽装恋愛、同居……そして、結婚。
あんなに穏やかだったはずの日常が、突然、嵐に巻き込まれたかのように目まぐるしく動き出す――
夕陽を映すあなたの瞳
葉月 まい
恋愛
恋愛に興味のないサバサバ女の 心
バリバリの商社マンで優等生タイプの 昴
そんな二人が、
高校の同窓会の幹事をすることに…
意思疎通は上手くいくのか?
ちゃんと幹事は出来るのか?
まさか、恋に発展なんて…
しないですよね?…あれ?
思わぬ二人の恋の行方は??
*✻:::✻*✻:::✻* *✻:::✻*✻:::✻* *✻:::✻*✻:::✻
高校の同窓会の幹事をすることになった
心と昴。
8年ぶりに再会し、準備を進めるうちに
いつしか二人は距離を縮めていく…。
高校時代は
決して交わることのなかった二人。
ぎこちなく、でも少しずつ
お互いを想い始め…
☆*:.。. 登場人物 .。.:*☆
久住 心 (26歳)… 水族館の飼育員
Kuzumi Kokoro
伊吹 昴 (26歳)… 海外を飛び回る商社マン
Ibuki Subaru
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる