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第二章
旅行ではない
しおりを挟むマリアが折角の旅行だから色々と用意したいと言い出した。断じて旅行ではないが、もう反論するのも疲れたというのが本心。
「ステラリオ様、馬車は?馬車は使いますか?」
「あー、転移で勝手に国を跨ぐのは禁じられているからな。面倒くせぇ。」
人の国にいた頃は一応許可は取っていた。だが今は麗しのエルフ様でもなければ、人の国の為に何かしてやる事もない。自分とシズカくらいならバレずに出来そうだが今回は大所帯。行った事のない国を通るのもあるし、これで何かエルフの里に迷惑でもかかったらそれはそれで面倒だ……
「ま、転移で国を跨がなきゃ良いわけだからな。国境付近だけ馬車使うか。」
「まぁ!それは楽しみですね!おやつを拵えないと。」
キャッキャッとはしゃぐマリアを見て嬉しそうなシズカ。
「あのね、僕も闘えるように頑張るね!」
「ふは、頑張らなくて良い。シズカは後方支援な?」
どう考えても近距離戦向きではない。手をグッと握って、言っていた通りぶん殴る練習だろうか。シュッシュッと言いながら右手を動かす。メルロが普通に乗っているのがまた笑える。
『ムイッムイッムイッ』
真似するメルロも笑えるが、お前は普通に近距離戦向きだから前へ出て欲しい。というか、出ろ。
「リオは近距離戦?向き?」
「あー、」
「ステラリオはな、でっかい魔法をぶっ放すぞ。幼き頃は何度魔法を暴発させたか。いざとなったら自分共々チリとなれ。」
シズカがどんな時も腕の中に来てくれるって言っているのにそんな事が出来るか。
「幼い頃は力の弱い魔法が苦手だったが、今はもう大丈夫。大切で愛おしい半身がいるんだから無理もしない。」
「……ぎゅ。僕もリオが大切だよ。」
「あー、可愛い。魔族やら魔王やらにやられる気はしないけど、シズカには簡単に殺されそ。」
「ふふ、なにそれ。」
朝食も終わってシズカと二人で片付けて、メルロの花を摘みに行く。キラキラとシズカの魔法が輝く。温かい。
「聖魔法で結界してみたよ。変じゃない?」
「ん。すげぇ心地良い。シズカに治癒してもらってるみたいに優しい感じがする。」
「聖なる光よ、大好きな半身を守ってくださいってやってみたよ。守られてる?」
「すげぇ守られてる。でも、大好きな半身の前に自分の事も入れて?」
あ、そっか!とにこにこ。笑顔は可愛いけれど、こんな時にも笑顔を見せてくれるシズカが心配。
「怖くないか?」
「うん?そうだね…怖い…気もする!」
「気もするって。無理はしないで?」
無理はしてないよ、とやっぱり笑顔。
「んっと、うまく言えないんだけど…さっきリオが死ぬような事になったら一緒に死んでくれって言ってくれたでしょう?そうしたらね、何か……安心して。」
死ぬのに安心?目線で続きを促して、そっと手を握る。
「僕、元々体が弱くて、喘息も酷くて。苦しいし、死んじゃうって思っても死なないし、家族に疎まれて愛してもらえなくて悲しくて…でも死ぬ勇気はなくて。もちろん、今現在死にたいとは思ってないよ…?本当に。でも、今僕には大切な家族がいて、だいすきなリオがいて。それだけでも十分に幸せなのに死ぬ時まで一緒にいれるだなんて何て幸せなんだろうって思ったの。……なんか僕すっごい重いね?」
ごめんってやっぱり笑うシズカ。世間一般には重いのだろうか。俺的には嬉しいし、半身と共に死ねるというのは喜び以外の何者でもないのだが。
「いや、俺も同じ。出来れば共に永い年月を過ごしたいけど、どちらかが死ぬならその時に一緒に逝きたい。同じような考えで嬉しい。」
自分とシズカの命だったら迷わずシズカを守るけど、共に死んでくれるのならば共に逝きたい。
「だいすき。」
「俺も、愛してる。」
まぁ、死ぬ気はないけど。
それでもいつ終わりが来るかがわからないのが人生。愛してるは毎日言いたい。そう伝えればモジモジとした後に背伸びをして唇にキス。
「僕も。……あいしてるよ。」
昼間からこんなに幸せで良いのだろうか。毎日愛していると言って、毎日触れて、毎日繋がりたいと耳元で告げれば途端に真っ赤に頬を染める。
「リオのばか!えっち!」
「だめ?」
「ばか!」
ぷんぷんと怒るシズカが可愛くて抱き寄せる。
「だめ?」
「リオのばか。……夜だけね?」
鼻血でそ。
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