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番外編
リズさん視点 アイラさんとのお話
しおりを挟む家の一室がどんどん変わっていく。
淡い黄色の壁紙、ベビーベッド、柔らかい肌触りのおくるみ、ぬいぐるみ、そしてこれまた淡い色合いのチェストに詰まったたくさんのベビー服たち。
最近のアイラは毎日のように何かしら買ってきて楽しそうにそれらを設置していく。
アランから産後は此方でミナトと赤ん坊を預かってくれないかと打診があった。
仕事を長期で休むのは不可能で自分の不在中に家に2人で留守番させておく事はできないと。
俺は仕事でいない時の方が多いのだが、まだ両親も店に出ているためアイラは割と融通が効くし何よりその両親たちもいきなり現れたミナトを孫だとすんなりと受け入れて頻繁に土産を持って会いに行くくらいだから何とかなるだろう。
初めは「アラン君の御両親の方が子育ての経験もありますし」と断ろうとしたアイラだったがアランの両親は気心知れていないとそれこそ産後は大変だと言って此方に譲ってくれたのだ。
俺としては可愛いミナトが子を宿し、親になるというのは当たり前に嬉しいのだが何よりアイラがこんなに嬉しそうに楽しそうにしているのが堪らなく嬉しくて、それを含めてミナトとアランには感謝する日々なのだ。
アイラはミナトの事を息子と言いながらもルーラではシエロ様が、そして王都ではアランがいるので遠慮していたが今回の1ヵ月程度の滞在でミナト用のベッドや寝間着やクッションなどを揃えていてそれに関しても楽しそうに準備している。
少し買いすぎじゃないか…?と口を挟もうものなら…
「チェストを埋め尽くしているベビー服とミナトの服はリズが買ってきたものです!私も洋服を揃えたかったのに…!」
それも仕事の合間に!なんて怒られてしまい、何も言えなかった。
俺だって1ヵ月とはいえ、一緒に暮らすのは楽しみなのだ。
アランも休みの前日なんかは泊まれるだろう。
それにしてもアイラは子供がこんなにも好きだったのかと思う。
やはり子作りするべきだったか。いや、結ばれた当初はアイラはまだ運命を諦めきれてなかったからなと思い直す。
アイラに惚れたのはいつだっただろうか。
たしか俺が4つでアイラが3つの頃、家が近所でいつの間にか知り合って遊んでいた幼馴染。
初めてアイラを見た時運命だと思った。香りとか本能とか関係なく、最初は見た目の可愛らしさに。いつの間にか全てが愛しく思えた。
アイラが運命に出会うのを夢見るたびに胸が締め付けられて苦しかった、なんて言ったらバカにしたように笑うだろうか。
子供の頃から綺麗な顔したアイラには男女問わず沢山の奴等が近づこうと必死になっていたが全部蹴散らしてきた。
好きだからこそ、想っているからこそ、アイラが自然に諦めるまで待つしかなかった。
思いの外、時間がかかって伴侶となるのに承諾されてからはすぐに襲いかかってしまったがそれでも破棄せずに一緒にいてくれたアイラ。
この腕で抱いたとき、泣きそうになった。
初めて繋がったとき、涙がでた。
もう出会ってから50年以上たつがこの想いはどんどん大きくなって、そして穏やかになっていく。
もしもアイラの運命がこの世にいるのなら今世は諦めてくれないだろうか?
運命を信じて待っているアイラを来世では幸せにしてやってくれ。
今世は俺が幸せにするから。
ミナトたちの部屋の窓から見える満天の星空に柄にもなく願ってみる。
静かにドアか開く音が聞こえる。
「リズ、ここに居たのですね。食事にしましょう?」
そう言いながら部屋を見渡して満足そうに頷くアイラの肩を抱き寄せた。
「ミナト、もうすぐだなー。あんな細っちいのが大丈夫かねぇ?」
「お医者様は人族ですし、大丈夫ですよ。アラン君は表情には出さないながらも毎日ハラハラでしょうがね。」
小さくて細いミナトがえっちらおっちら歩く姿は抱き上げてしまいたくなるほどだ。
ミナトを思っているのか外を眺めるアイラの横顔は相変わらず綺麗で思わず口づける。
「…ッいってえ!」
深くキスをしながら胸元をまさぐっていたら思い切り舌を噛まれた。
「まじで噛んだだろう?血の味がする…仕事にならんよ。」
「明日は休みだし仕事に支障はないでしょう?それにここで盛らないでください!」
「ここじゃなければいい?」
「っ!、もうお互い良い年なのだからその性欲何とかしてくれませんか?」
立ち上がっている息子をぐりぐりと押し付けると心底嫌そうにそんな事を言う。
恥ずかしいとわざと刺々しくなるアイラを抱き上げて部屋を出た。
俺らの寝室のベッドへアイラを寝かせると上から覆い被さるように押し倒す。
「ちょッ、リズ、私の話聞いてましたっ?」
「んー?あの部屋じゃなければ良いんだろ?それに性欲は押さえきれないし、そろそろ1ヵ月間禁欲になるんだからいいだろう。」
そう言うとミナトたちが家にいる中で襲われるより良いと思ったのか返事代わりにため息をひとつ。
まぁ、性欲がと言っても最近はガツガツと激しくすることはない。
挿入する俺よりも受け入れるアイラの方が体が辛いだろうから。
今日も対面座位の形で激しく突き上げる事なく体全体を使ってゆらゆらと揺れていると顔を赤くしたアイラが胸に寄りかかってくる。
「リズ…もし運命が現れたら私を捨てますか?」
アイラの表情は見えないが声が僅かに震えている。
だがその言葉に硬度を増す俺の息子は正直者だ。
「リ、ズ!人が真剣に話をしているのに!」
「わり。でも悪いとは思うが今日はもう無理だ。」
そういうと繋がったままアイラを仰向けに倒した。
「…え?ッ、や、あッあぁッ、」
久しぶりに自分の欲望のままに腰を動かした。
アイラが白濁を飛ばしても止めてやれず良いところを狙って動き続けた。
「リズッ、!やめ、んぁッ、でちゃうからあッ!」
プシャアッと透明な液体を撒き散らしてアイラが何度目かの絶頂を迎えた。
汗と涙と涎でぐちゃぐちゃな顔を見てまたムクムクと頭をあげてしまう愚息にそろそろヤバイと頭が警報を鳴らす。
ハァハァと苦しそうに呼吸するアイラと目があった。
俺の目が泳いでしまうのはアイラがあまりにも冷たい目をしていたから。
それからアイラの命令で風呂へ運びシーツを変え、また風呂場へ戻ってアイラを洗い清めベッドに運んで力なく蹴られながらも無理やり隣へ潜り込む。
腕枕して抱き寄せて、一息ついて先ほどの質問に答えた。
「俺がアイラを捨てることはない。何十年片思いしてると思っているんだ。今が1番幸せだよ。」
その答えにほっと息を吐くアイラにこちらも問いかける。
「アイラは?運命に出会っても俺を捨てないでいてくれるわけ?」
「…ちゃんと言葉にしてこなかったのは悪いですけど、私はリズを愛しています。」
珍しく自ら胸にすり寄ってくる。
「でも、シエロ様みたいに運命に出会うとそれしか考えられなくなるかもと、それが怖いです。自分にとってもリズにとっても。」
「こればっかりはなー。そうだなぁ、もしアイラに運命が現れたら俺アイラの事殺してすぐ追いかけるわ。心狭くてすまん。」
絶対に否定されると思っていたのにアイラの答えは肯定するもので。
「それは良いですね。私も心が狭いのでリズに運命が現れたらリズを殺して追いかけます。」
うんうんと頷いてそのままスッと寝付いてしまったアイラに心が震えた。
綺麗なつむじにひとつキスを送り、俺は幸せな気持ちのままゆっくりと眠りについた。
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