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第二章 依頼者、休日のゴルフ接待へ連れて行く。
01. レンタル彼女を利用する際の事前説明って、こんな感じなんです。
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平日の真昼間。西新宿の一角にある、小さな複合ビル。
その中の三階をテナントに借りている、小さなお小遣いサイトの運営会社。合同会社オレガノはこの日も、代表のミントが窓口のテーブルの向かいで座っている一人の男性客に、デートプランについての説明を行っていた。
「当日お持ちいただく手料理は、担当となるレンタル彼女の分、一食のみで構いません。手料理にかける金額については特に提示はしていませんが、弊社がこれまで対応してきた依頼者様でだいたい三百~千円くらいが相場ですかね」
「なるほど。それなんですけど、もし当日までに料理作りが間に合わなかった場合は、代わりに現金でレンタルって出来るんですか?」
「申し訳ございません。原則として、ご依頼者様の手料理のみとさせて頂いております」
「あー、そうでしたかぁ…」
と、青い水玉模様のネクタイをした白い長袖シャツに黒いスラックス、そしてさっぱりと仕上げた黒髪ベリーショートの男性客が、少し残念そうに首を垂れた。
「池上」という名前のこの男性は、この平日の昼休みを利用して、SNSからオレガノの存在を知り興味本位なのか訪問に来たサラリーマンである。少しばかり肩が強張っていて、表情からも常に緊張した環境にいる人物のようだ。池上は更にこう質問した。
「という事は、キャンセル料はかからないという解釈でよろしいんでしょうか?」
「はい。もし当日レンタルが出来なかった場合でも、次回ご利用の際は今回と同じように直接こちらへ訪問し、再度予約手続きを行う形となります」
「なるほどですね… わかりました。レンタル彼女、お借りします!」
池上は決意を固めた表情で、ミントに頭を下げた。
プランの内容をきいて納得したのだろう。ミントは穏やかな営業スマイルを見せ、テーブル引き出しの書面を一式取り出しながらこういった。
「ありがとうございます。でしたら早速、予約手続きに入りましょうか。今、お時間は大丈夫ですか?」
「はい! 五十分まで、でしたら」
と、池上が事務所内の壁に掛けられている時計を一瞥した。午後も仕事があるからだろう。
ミントは表情にこそ出していないが、相手は急いでいると判断し、手短に説明した。
――――――――――
その頃、窓口からは見えない壁の向こうにある、数台のモニターが置かれた部屋にて。
そこでもう一人のスタッフとして勤務している化学分析技能士のクミンが、こっそりその窓口の様子を凝視しながら腕を組み、僅かに首を傾げていた。
「はぁ、めっちゃ真面目そうな人じゃん。なんで借りようと思ったんだろう?」
と、池上を見てつい独り言をもらす。
クミンはそれまでパソコンと向き合い、ここオレガノの本来の事業である、お小遣いサイトのインプレッション数の管理とマーケティングの分析を行っていた所であった。
――――――――――
その頃、ミントと池上がいる窓口にて。
事務所用と依頼者控え用の二枚綴りになっている同意書に、池上がざっと目を通している所、ミントは質問した。
「目を通されているところ、失礼致します。一応確認なのですが、今回はどういった理由でレンタルされるのでしょうか? あ、ざっくりで構いませんよ」
すると、池上は僅かに目が泳いだものの、少し照れ臭そうにしながら真摯に答えた。
「あー。この通り僕、普段から仕事で忙しくて、中々女性と出会う機会がないんですよね。なのでこのままだとまずいかなって、たまには気分転換に女性と二人きり、その辺を歩きながら世間話できる機会がほしいなぁよ思ったんですよ」
と、レンタル彼女を利用する動機としてはまさに「ありきたり」な返答。ミントは「そうでしたか」と笑顔で受け取り、続けて池上が少し申し訳なさそうに前のめりになった。
「あの、僕からも質問いいですかね?」
「はい。どうぞ」
「ここのレンタル彼女って、演劇部の出身が多いんですか? あ、決して何か意図があるわけじゃないんですけど、ホラ! レンタル彼女って結構、おだてるのが上手いっていうじゃないですか。なので、ちょっと気になっただけでして」
なんて、ミントとしても、別の部屋から様子を眺めているクミンとしても、内心「え?」となる質問が出てきた。
だが、ここは社長としてあくまで冷静に振る舞うミント。彼は困り笑顔でこう答えた。
「それについては、その日担当される彼女にもよるので、なんとも言えないですね。
そちら同意書にもあるように、弊社は手料理一食分というとてもお手軽なプランを設けている分、指名ができない決まりとなっております。シフト自由制なので、本当にその日になってみないと、どんな彼女が担当になるかはこちらからはお伝えできないんです」
「あ、そうなんですか!?」
「はい、そうなんですよー。期待に沿えず申し訳ありません。
それで、如何されますか? もちろん、弊社のレンタル彼女はお客様に失礼のないよう、なるべく人当たりの良い子を厳選していますので、その流れで特にお困りの点がなければ」
そういって、少し迷っている様子の池上に同意の可否を伺うミント。
池上は考えている様子だった。渡された同意書をじっと睨み、利用するか否か…
池上は手渡されたペンを持った。
そして、その同意書にサインをしたのである。
(つづく)
その中の三階をテナントに借りている、小さなお小遣いサイトの運営会社。合同会社オレガノはこの日も、代表のミントが窓口のテーブルの向かいで座っている一人の男性客に、デートプランについての説明を行っていた。
「当日お持ちいただく手料理は、担当となるレンタル彼女の分、一食のみで構いません。手料理にかける金額については特に提示はしていませんが、弊社がこれまで対応してきた依頼者様でだいたい三百~千円くらいが相場ですかね」
「なるほど。それなんですけど、もし当日までに料理作りが間に合わなかった場合は、代わりに現金でレンタルって出来るんですか?」
「申し訳ございません。原則として、ご依頼者様の手料理のみとさせて頂いております」
「あー、そうでしたかぁ…」
と、青い水玉模様のネクタイをした白い長袖シャツに黒いスラックス、そしてさっぱりと仕上げた黒髪ベリーショートの男性客が、少し残念そうに首を垂れた。
「池上」という名前のこの男性は、この平日の昼休みを利用して、SNSからオレガノの存在を知り興味本位なのか訪問に来たサラリーマンである。少しばかり肩が強張っていて、表情からも常に緊張した環境にいる人物のようだ。池上は更にこう質問した。
「という事は、キャンセル料はかからないという解釈でよろしいんでしょうか?」
「はい。もし当日レンタルが出来なかった場合でも、次回ご利用の際は今回と同じように直接こちらへ訪問し、再度予約手続きを行う形となります」
「なるほどですね… わかりました。レンタル彼女、お借りします!」
池上は決意を固めた表情で、ミントに頭を下げた。
プランの内容をきいて納得したのだろう。ミントは穏やかな営業スマイルを見せ、テーブル引き出しの書面を一式取り出しながらこういった。
「ありがとうございます。でしたら早速、予約手続きに入りましょうか。今、お時間は大丈夫ですか?」
「はい! 五十分まで、でしたら」
と、池上が事務所内の壁に掛けられている時計を一瞥した。午後も仕事があるからだろう。
ミントは表情にこそ出していないが、相手は急いでいると判断し、手短に説明した。
――――――――――
その頃、窓口からは見えない壁の向こうにある、数台のモニターが置かれた部屋にて。
そこでもう一人のスタッフとして勤務している化学分析技能士のクミンが、こっそりその窓口の様子を凝視しながら腕を組み、僅かに首を傾げていた。
「はぁ、めっちゃ真面目そうな人じゃん。なんで借りようと思ったんだろう?」
と、池上を見てつい独り言をもらす。
クミンはそれまでパソコンと向き合い、ここオレガノの本来の事業である、お小遣いサイトのインプレッション数の管理とマーケティングの分析を行っていた所であった。
――――――――――
その頃、ミントと池上がいる窓口にて。
事務所用と依頼者控え用の二枚綴りになっている同意書に、池上がざっと目を通している所、ミントは質問した。
「目を通されているところ、失礼致します。一応確認なのですが、今回はどういった理由でレンタルされるのでしょうか? あ、ざっくりで構いませんよ」
すると、池上は僅かに目が泳いだものの、少し照れ臭そうにしながら真摯に答えた。
「あー。この通り僕、普段から仕事で忙しくて、中々女性と出会う機会がないんですよね。なのでこのままだとまずいかなって、たまには気分転換に女性と二人きり、その辺を歩きながら世間話できる機会がほしいなぁよ思ったんですよ」
と、レンタル彼女を利用する動機としてはまさに「ありきたり」な返答。ミントは「そうでしたか」と笑顔で受け取り、続けて池上が少し申し訳なさそうに前のめりになった。
「あの、僕からも質問いいですかね?」
「はい。どうぞ」
「ここのレンタル彼女って、演劇部の出身が多いんですか? あ、決して何か意図があるわけじゃないんですけど、ホラ! レンタル彼女って結構、おだてるのが上手いっていうじゃないですか。なので、ちょっと気になっただけでして」
なんて、ミントとしても、別の部屋から様子を眺めているクミンとしても、内心「え?」となる質問が出てきた。
だが、ここは社長としてあくまで冷静に振る舞うミント。彼は困り笑顔でこう答えた。
「それについては、その日担当される彼女にもよるので、なんとも言えないですね。
そちら同意書にもあるように、弊社は手料理一食分というとてもお手軽なプランを設けている分、指名ができない決まりとなっております。シフト自由制なので、本当にその日になってみないと、どんな彼女が担当になるかはこちらからはお伝えできないんです」
「あ、そうなんですか!?」
「はい、そうなんですよー。期待に沿えず申し訳ありません。
それで、如何されますか? もちろん、弊社のレンタル彼女はお客様に失礼のないよう、なるべく人当たりの良い子を厳選していますので、その流れで特にお困りの点がなければ」
そういって、少し迷っている様子の池上に同意の可否を伺うミント。
池上は考えている様子だった。渡された同意書をじっと睨み、利用するか否か…
池上は手渡されたペンを持った。
そして、その同意書にサインをしたのである。
(つづく)
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