オレガノ🌿 -Long Life-

Haika(ハイカ)

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第二章 依頼者、休日のゴルフ接待へ連れて行く。

02. こういう時の「嫌な予感」ほど、よく当たるものです。

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 レンタル彼女の利用に同意した池上が去り、静かになったあとの事務所。
 ミントとクミンにとっては、少し遅めの昼食となった。

 「はむ。う~ん… この甘じょっぱさが身に染みる~」

 この日は炊飯して残り少ない白米と、焼け鮭や梅を使ったシンプルなもの。米にほんの少しの塩を加え混ぜたものを、ラップを敷いた上にならすように乗せ、そこへ具材を一欠片乗せた上に更にもう半分量の米を被せラップで包み、綺麗に成形した「おにぎり」であった。

 「この鮭の甘さって、みりんかなぁ?」
 「うん。たとえば、鮭大根を煮るにはみりんが欠かせないだろ? だから、おにぎりの具材にも合うと思ったんだ」
 「へぇ。じゃあ、この梅おにぎりの梅がちょっぴり甘いのもみりん?」
 「いや、それは蜂蜜を少しだけ漬けてる」
 「はちみつ!?」

 なんて、料理好きからすれば特段珍しくない組み合わせだが、クミンは料理がからっきし苦手だ。なのでその分野において知識が乏しい分、今回もそうだがここでの食事は基本、ミントの手料理で済ませるのである。

 ふと、ミントが先の件で気がかりなのか、窓の外をぼーっと見つめる様な目で呟いた。

 「…妙だな」
 「どうしたの?」
 「次の日曜日に予約をした池上さんだよ。俺の考えすぎかもしれないけど、どうも今回のレンタルの動機には、何か大きな『裏』があるとみている」
 「裏、か。裏がないで女の子をレンタルする方が、余程珍しい気がするけどね」

 と、クミンからは珍しく正論を返される。ミントは「そうなんだけども」と肩を落とした。

 「あの人の左手薬指の付け根。そこだけ肌が少し白かった」
 「…え? まさか」
 「あぁ。恐らく既婚者だ。社員証を見せてもらったけど、俺より六つも年上だった」
 「うっわ、そうきたかー。奥さんにバレたら絶対面倒な事になるやつ」

 依頼者個人のモラルとしても、オレガノ側としても、である。クミンはそう言わんばかりに苦い表情を浮かべた。ご飯は美味しいのに、顔が不味そうとはこれいかに。

 「『いれば』の話だけどな。それにあの人、説明の時に演劇部の出身がどうこう質問してきた所は見たか?」
 「うん、見たよ。あの感じ、レンタル彼女の中には『嘘の顔を演じるのが凄く得意な子もいる』という事に気づいているみたいだよね」
 「そこなんだよ。であって、今回の理由が『たまには気分転換に女性と二人きり世間話を~』と言っていた。本当にそれ“だけ”なら、態々演劇の事なんて聞いて確認しないよ」
 「確かに。言われてみれば色々とおかしいね、今回」

 と、クミンも肩をすくめる。その間に二人はおにぎりを完食し、食器の片づけに移った。


 ミントは心の中で、こう推測した。
 池上は恐らく、レンタルした彼女を何処かへ連れていき、そこで彼女に何かよからぬ「一芝居」を打たせるつもりではないか? と。

 ――だから、指名制ではない事も一応伝えたんだけどなぁ。でもあの人は、それでも構わないと同意書にサインをした。そこまでして、レンタルしたい理由があるのだろう。

 ――仮に奥さんがいるとして… まさかだけど、奥さんと別れるための口実に、彼女を不倫相手だと紹介するつもりじゃないだろうな?
 たまにいるからな。わざと不倫を見せつけ、離婚時に慰謝料を請求されるような事をしておいて、その強制力が自分より稼いでいない女には「無い」と思い込んでいるやつ。


 外面が良いモラハラ男ほど、ありがちなパターンである。もちろん、池上がそんな奴だとは現時点で断言できないが、ミントとしては気が気でならなかった。
 自分の所のレンタル彼女を、そんな事・・・・に利用されては、たまったものじゃない。

 「念のため、当日はバンブーを派遣しておくか。何も悪い事が起こらなければいいけど」

 そういって、ミントはため息交じりに再び窓口へと腰かけたのであった。

(つづく)
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