タケノコの里とキノコの山

たけ

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ニ章 

第六十話 閉ざされた歴史 解き放たれる日常回

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「要件は…タケノコとキノコの歴史さ」


「!!」
 アガレズの言葉に全員がハッとしたような表情を見せる

「いろんなこと起こりすぎて忘れてた…俺はちはそれを聞きに来たんだった」


 ハルの心臓が高鳴る。酒場のがやがやとした音が消え、まるで自分たちだけ時が進んでいるようだ
 それはハルだけではなく全員が感じていることであろう。コップのぬくもりだけが体に染み渡る

 渇いた喉を潤すため、黒色の液体を思い切って飲む


 途中 口の中にできた傷がビキビキと痛み全身を刺激する。それでも、仰ぐように飲む

(…味がしない)


 沈黙した全員の代わりにアガレズがゆっくりと口をうごかす


「ーーまあ、御託はいいか、昔…おおよそ100年前だ。この世界に…“すぎのこ族“
 ーーこの世の先祖となる種族がいた」


「!!!」


 大昔とはいえ、タケノコ、きのこ、アポロ以外に種族がいたというのか


「ーーアポロ族が俺たちの先祖じゃないのか??」

「その先祖の先祖 が、すぎのこ族さ…世界は思ったより広いんだよ。言ってしまえば“全ての始まり“」

「……」

 唐突な新キャラの登場に全員が眉をひそめる
 それを尻目にアガレズは話を続ける


「すぎのこ族は小さく、貧しく、それでものどかな村集落を作り、世界を進化させるため、研究をした」

「研究?」



「そう研究…具体的には、食料…食料となる動物を狩るための戦闘能力が必要だった

 ーーそこで作られたのが、“霧“だ」



「ーーー霧!!」


 そこでこのワードが出てくるのかとレイは叫ぶ


「そのちからは強大だったーー。力を宿したものは体の血液を霧に変換し…自在に操ることができる。きみたちもみたはずだ。その霧が爆発を起こす所。この俺に直接霧を注入し、身体能力を底上げした所

 あのような力で、太古のすぎのこは動物を狩っていた」



 きみもみたはずだ  というのはアデルが逃げたときに出た霧

 …ハルから発生した正体不明の稲妻のような力に変換された霧





 驚きだった。あの謎の力の原点は、動物を狩るための科学技術というわけだ


 それと同時にハルは疑問が浮かぶ

「ねえ、アガレズ…そこまで詳しいなら、ほんとは俺の力、アレの謎の正体をしっているんじゃ…」


「すまない。ハルの力は本当に知らない。霧の力は代々受け継がれ、現代ではアガレズ族の手元に存在する」


「ーーあの注射器か」


「ーーそうさ、先程言った通り、霧には沢山の力が存在する。単純に放出し爆散する力、注入し血液の流れを促進させ身体能力を上げる力

 …そして肉体を変貌させ、新たな姿に変身するちから


 それらの能力は現代の状況では全て注射器から注入するほか手に入れる手段はない。ハルの場合突然力が出たわけだから、本当に経路が謎なんだ、だからわからない」


「そうか…」


ハルはうつむき、そうこたえる。この力が何か悪いものなのではないかと、心配なようだ

「ハル」


レイが声を掛ける、レイの目は、真っ直ぐな瞳をしていた

「ーー私達は、君に何があっても味方だよ」


「ーー…っ」


そこをアガレズは嫌そうな顔をして口をとがらせる

「感動話はそれくらいにしてくれないかい?続ける」


「あっあああ!悪い!!」


「ーーーよし、そして力を得て、いつしか安定した生活を遅れるようになったすぎのこ族。彼らは幸せだった。共に助けあい、共存していくはずだった…」


「はずだった…」

イアンが思わず反復する、その声に反応して、アガレズは声のトーンが下がった

「……だが、戦争が起こってしまった、すぎのこ族が、二つの軍勢に分かれて」


「なっ!!どうして!?」


「原因は不明だ…ただ、戦争が起こった。このことは覆しようのない事実。」


「………っ」


「何年もの間の戦いに朽ち果てた二つの軍勢は、何らかの理由で、アガレズ族とタケノコ族を作った……そして、滅んでいった…

数年後、アガレズ族は何らかの理由で、君達キノコ族を作り 今に至る」



「何らかの理由で…?」


それを聞いた所でパアワが口を挟む。その頃はもう、ひんやりとした飲み物は自分達の心のようにぬるく不味く沈んでいる


「そうさ、今言ってきたことは歴史書の記述に過ぎない。すまないが、詳細は省かれている」



「なんだよ…っ、重要なとこで…」


「わからないことが多すぎるのさ…戦争が起こった理由。そして今“何故こんな世界になっているのか“も、何もかもわからない



ーーー今話したことが、この世界の全ての始まりだ」


「………」


重々しい空気が身を包む。ガヤガヤとした酒場で、ここの空気だけぽつんと音を立てていなかった


そんなところを、アガレズが一つ指を立てる


「そしてーーー…ここからは俺の憶測」


「…?」


反応するレイを見て、アガレズはニヤリとした。

 
「先程言った通り現代の状況で霧の力を習得するには“アポロ族が所持している霧の入った注射器を打つ“ことしか方法はない…だが、あの戦いでアデルは、タケノコ族は、“どう考えても霧の力を使用していた“」



「………確かに、アポロ族がタケノコ村にもいるのか?」


「いや、いない。俺達は君達種族との関わりを今まで絶ってきた。わざわざ行くメリットもない。確実にないと断言できる。


そしてその状況下で霧を得る手段をもっている可能性がある生物…」


「じゃあ…ッ!」


「ふ…っ、そうさ」


レイがハッとしたような顔で声をあげる





「ーーーー不死鳥という男は すぎのこ族である可能性が高い」



「ーーーーーなっ!!!」



とたんに全員ががやがやと声を上げ始める。それをなだめるようにアガレズは声を発した


「いや…ちょっと…まってくれ、俺がきのうアデルと戦った経験から予測したものだ。それを確定させるには証拠がなさすぎる。すぎのぞくは戦争で死んだ…………しかし、そうでもなければ霧の出所が想像できない」


「……とにかく、不死鳥、やっぱ、あのカスがラスボスってことにかわりねぇな。顔もみたことねぇけど」


その言葉に、アガレズは呼応する


「ーーそう。不死鳥に迫ることは、我らの発展にもつながる………

…俺は、君達の仲間になろうと思う」



「「「「「!!!!!」」」」」



それは…アガレズの口から出たとは思えない衝撃の言葉だった





「本気……なのか!?それなら戦力アップどころじゃねぇぜ!?」


「直ぐにではないがね、色々な方面の警戒という観点から俺達はこの村を離れ、誰も知らない別の土地に村を作る。それが終わった時…数年後だ。片手で数えられるまでには、君達の所に来るよ。約束しよう」


そうして、アガレズがレイに手を差し出す

どこか、不透明な男に一筋の光が差したように見えた


「ーーーおう!」



二人は固く握手をする。ついに、新たな味方が作られたのだ


「村の皆も納得してくれたーーー。俺達がここを離れるのは1週間後、それまで、ゆっくりしてきてくれ。俺達アポロ村は、君達を歓迎する」




ーーーーーーーーーー




ーーーそうして夜はやってくる。

ゆらゆらとほのかな湯気が立つ黒い“お湯“

見た目は不快なものだが、薬が入っているようで
、ゆげをかんじただけでも心地の良い感覚になる




「あ~~~~~~~~~~~…」


「はぁ~…」


伸ばしに伸ばすその声の主は、レイ、そしてイアン


ここは、大浴場!






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