悪役令嬢の騎士

コムラサキ

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第二章:騎士学校・中等部

第45話 カルト集団

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 女性を近隣の集落まで送り届け頃には、すでに日が傾き始めていた。集落に到着するなり、彼女の家族や村人たちが集まり、僕たちを取り囲んだ。

「本当に……本当に、ありがとうございます!」

 彼女の母親らしき女性が、泣きながら深く頭を下げる。その手は娘の腕を強く握りしめ、絶対に離すまいとしていた。

「まさか生きて帰れるなんて……! どれだけ探しても見つからなかったのに……」
 周囲の村人たちも次々と礼を述べていく。

「お前さんは恩人だ」
「ぜひ泊まっていってくれ」と口々に言ってくる。

 集落にとどまれば温かい食事と、屋根のある寝床が手に入るかもしれないけど、長居は無用だった。

 僕は無断で帝都を抜け出していたので、本来なら、この場にいることすら許されない立場だった。だから面倒ごとに巻き込まれる前に、すぐに帝都に帰ることにした。

「えっ!? でも、もう日が沈むぞ!」
「このまま帰るなんて危険だ!」

「泊まっていかないなんて……それじゃ、お礼だけでも――」
 村人たちがなおも食い下がろうとするが、僕は首を横に振る。

「気持ちだけで充分です。それに、暗い森を歩くのには慣れているんです」
 その言葉に村人たちは不安そうに顔を見合わせたが、最終的に誰も引き止めようとはしなかった。

「……なら、せめて気をつけてくれ」
「娘を助けてくれて、本当にありがとう」

 背中越しに何度も礼を言われながら、僕は静かに集落を後にした。

 ゴーストを連れて帝都に帰り着くころには、すでに夜の帳が降りていた。帝都の石畳の道は、日中とは違い、人影もまばらだった。

 通りに並ぶ家々の窓からは、暖かな灯りが漏れ、遠くから酒場の喧騒が微かに聞こえる。

 ようやく戻ってこられた。ホッと息をつきながら我が家に向かう。

 そして不機嫌な母と対面することになった。
「――おかえりなさい」

 彼女は食卓の椅子に座ったまま、僕の顔を見つめる。どこかホッとしたような、それでいて僅かに怒りの滲んだ表情だった。

 やっぱり心配をかけてしまったみたいだ。できるだけ何でもないことのように振舞うけど、母さんは鋭い視線で僕を見つめる。

「どこに行っていたの?」
「……ちょっと、外で用事があって」

「あまり無茶はしないでちょうだい」
 母さんはそれ以上何も聞かなかった。

 ……これ以上、心配をかける必要はない。だから、僕は何が起きたのかを話さなかった。

「これからは時間に気をつけるね。今日はもう休むよ」
「……ええ。おやすみなさい」

 部屋に戻ると、ゴーストが静かに僕の足元に丸くなる。ベッドに横たわると、今日の出来事が脳裏をよぎる。

 謎のカルト集団と異形の怪人に姿を変えた老人。生け贄を必要とする邪悪な儀式――そして、助け出した女性の震える姿。

 やがて瞼が重くなり、意識が静かに闇のなかに沈んでいった。

 翌朝、目覚めると昨日の出来事が夢のように感じられた。けれど確かにあの異形の怪人はこの手で仕留めたし、カルトの儀式も目の当たりにした。

 あの光景を見た以上、放っておくわけにはいかない。奇妙な踊りや裸の老人、邪神めいた雰囲気、そして……人間が異形へと変わる瞬間。

 考えれば考えるほど、背筋に冷たいものが走る。

 僕はすぐに調査を開始することにした。

 残念ながら、〈知識の書〉を頼ることはできなかった。本来なら――ある程度だけど、カルトに関する歴史や事件、秘匿された事柄も思い出していたことできたかもしれない。

 けれど今回は、あのカルトに関しては何の情報も得られなかった。

 ……頼む、何か思い出してくれ。脳内でカルトの姿を思い浮かべながら、意識を〈知識の書〉に集中する。けれど――何も思い出せなかった。

 まるで、その情報だけが欠落しているかのように。

 おかしい……この世界の歴史や伝承なら、ある程度は浮かぶはずなのに。カルトに関する情報だけが、ごっそり抜け落ちているような違和感。それは不自然すぎた。

 なら、他の方法で調べるしかないな。

 騎士学校の図書室には、帝国の歴史や戦術書、魔術書に至るまで幅広い書物が所蔵されている。ここなら何か手がかりがあるかもしれない――そう思って足を運んだ。

 けれど膨大な書物の中からカルトに関する記述を探し出すのは容易じゃない。

 ひとりでやるには、限界があるな……そこで、僕はセリスに協力を頼むことにした。

「怪しげなカルトについて……?」
 彼女は図書室の机に肘をつきながら、僕の言葉を反芻した。

「あまり知られていない異端の信仰や、邪神崇拝に関する記述があるかもしれない。手伝ってもらえないか?」

「……いいけど。急にどうしたの?」
「ちょっと気になることがあってね」

 僕とカルトの間で起きたことを話すと、彼女は黙ってうなずいて、それから書架に向かい手際よく本を選び始める。

 セリスは学者肌なところがあり、魔術書や歴史書を読むのが得意だ。僕ひとりで探すより、はるかに効率がいいだろう。

 その膨大な書物の中で僕たちは、古代宗教、異端信仰、魔術結社、秘教的儀式……ありとあらゆる関連書籍を調べた。

 セリスは魔導書や信仰に関する書物を、僕は歴史や記録を中心に目を通していく。けれど、どれだけ調べても、それらしい記述がまったく見つからない。

「おかしいな……異端信仰についてはかなり詳しく書かれてるのに」
 セリスが古い羊皮紙の書物をめくりながら、首をかしげる。

「〈黒の僧団〉や〈血の教団〉……こういう異端宗教の記録はあるのに、ウルが見た儀式やカルトについては一切書かれていない」

「……まるで、意図的に消されているみたいだな」
 そう口にしながら、僕は奇妙な違和感を覚えた。

 こんなにも詳細に異端信仰が記録されているのに、あのカルトに関する記述がない? 

 もしかすると、帝国側が何らかの理由で記録を抹消したのか? あるいは、もっと別の理由があるのか……?

 考え込んでいると、セリスがふっと息をついて本を閉じた。

「ここで調べても、何も出てこなさそうね」
「……だな。帝都の図書館で調べたほうがよさそうだ」

 帝都の図書館は、騎士学校のものよりはるかに規模が大きく、貴族や学者たちが管理する、いわば知識の集積地だ。

 もしかすると、そこでなら何か見つかるかもしれない。……いや、むしろ、そこで見つからなかったら、ますます奇妙なことになるだろう。
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