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第四章:騎士学校・陰謀編
第30話 増援
しおりを挟む瓦礫から立ち昇る粉塵と血の臭いが混じり合い、周囲には異臭が立ち込めていた。
怪人へと変異した教団幹部の屍は、崩れかけた石柱の影に横たわり、黒ずんだ血液が蒸気を立てながら広がっていた。
しかし、戦いに勝利しても安堵することはできなかった。
戦闘の直後だというのに、地下の坑道からはなおも禍々しい気配が漂い続けていた。地下深くで、何かが脈動している。
まるで地の底から呻き声が聞こえてくるかのようだ。〈気配察知〉を発動すると、黒い靄のようなものが地底でうごめいている気配だけが感じ取れる。
「まだ終わっていない……」
嫌な緊張感を抱きながら、革袋の〈収納空間〉から回復用の水薬を取り出して、喉の奥に流し込んでいく。魔素を補給することが目的だ。
それから〈念話〉を使い、応援を呼ぶことにした。単独の極秘任務だけれど、すでに目標は果たした。今は被害の拡大を防ぐことを優先する。
「……師匠、聞こえます?」
カチャから応答があると、すぐに状況を説明する。
旧神殿区画の地下で教団の怪人と遭遇して撃破したことや、地底にまだ気配が残っていること。そして応援が必要なことを伝える。
彼女はすぐに〈盗賊組合〉の精鋭を数人、至急動かせないか考える。わずかな沈黙のあと、師匠であるカチャの低い声が頭の中に響いてきた。
『状況は把握した。すぐに腕の立つ連中を送る。ただ……神殿も崩れているって話だから、帝都の警備隊にも連絡しておいたほうがいいね。教団がそこで何を企んでいたのか、調べる必要がありそうだ』
「了解。応援が到着するまで、ここで警戒を続けます」
〈念話〉のあと、短く息を吐いた。地下から漂う異様な気配は、決して楽観できるものではなかった。地底にどんな化け物が潜んでいるのか、その全貌はまだ掴めない。
崩壊した神殿からは、今も粉塵が立ち昇っていて視界が悪い。どのみち、帝都の住民たちに知られるのも時間の問題だろう。
ふたたび〈念話〉を使い、今度は帝都警備隊本部へ連絡を入れる。緊急時に連絡すべき人間の情報は手にいれていたので、すぐに連絡を取り合うことができた。
「旧神殿区画の調査任務中、怪人と遭遇し撃破しましたが、地底にさらに不穏な気配を察知。地下の安全確保のため、応援を要請します」
報告が終わると、地下から響く邪悪な気配が、さらに深く胸を締め付けた。地底からは腐臭とともに嫌な気配が渦を巻いて迫ってきた。
邪悪な気配が膨れ上がった直後だった。瓦礫を押しのけるようにして、ぬらぬらと黒い液体を滴らせる怪人が姿をあらわす。
かつては人間であったであろう面影が、異様に肥大化した手足や爛れた皮膚の下にわずかに残っていた。目は白濁し、理性のない獣のように口を開いて呻き声をあげている。
数体の怪人が次々と地底から這い上がってくる。半ば溶けかけた背骨のような突起が背中から突き出し、その隙間から黒い瘴気が漏れ出しているのが見えた。
「クソっ、一体ならともかく、さすがにこれだけの数は……!」
魔力を解放して〈氷槍〉を形成すると、容赦なく撃ち込んでいく。溶け崩れた肉体は槍を受けながらも怯むことなく迫ってくる。
地底の瘴気が肺にまとわりつき、呼吸すら苦しくなる。腰に差していた短刀を抜いて応戦しようとするが、手元が汗と血で滑り視界が霞む。
時間を稼ぐんだ。師匠が来るまで、なんとしてでも……!
怪人の一体が腕を振り上げ、地面を叩き割るほどの力で襲いかかってきた。転がるようにして攻撃をかわして斬りつけるが、別の個体が迫ってくるのが見えた。
後方に飛び退いて躱すが、肩口に焼けるような痛みが脳を貫いて一瞬足元がふらつく。それでも〈火球〉を撃ち込んで複数の怪人を焼き払う。
「限界が近いな……」
必死で立て直そうとしたそのとき、崩れかけた柱の陰から複数の黒い影が飛び込んでくるのが見えた。
隠密用の黒装束は、盗賊組合の精鋭が身に着けている装備だった。
「待たせたね!」
陽気な声とともに、カチャが一歩前へ出た。片手には短剣を構え、もう片方の手で魔力の糸を操るように影に包まれていた。
「よく踏ん張ってくれた。あとは私たちに任せて!」
組合の精鋭は怪人たちを迎え撃つ陣形を整える。矢が放たれ、爆散する〈火球〉から火花が飛び散り、魔術の閃光が怪人の目を眩ませる。
僕は呼吸を整え、体内の魔素を練り上げながら短刀を握り直した。そして目の前で繰り広げられる仲間たちの戦いに、全身の力を振り絞って加わる。
ここで怪人たちを殲滅する。戦いの熱気と粉塵が混ざり合い、旧神殿区画は再び激しい戦場へと変わっていく。
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