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パーティー会場の外へ通じる大廊下。
ナタリーは、まるで重力から解放された宇宙飛行士のような軽やかな足取りで進んでいました。
しかし、背後から「待ちなさーい!」という、いかにも悪役を引き止めるためのテンプレートのような声が響きます。
振り返ると、そこには顔を真っ赤にしたリリィが、ドレスの裾を振り乱して走ってくるところでした。
「ナタリー様! まだお話は終わっていませんわ!」
ナタリーは足を止め、心底面倒くさそうに時計(の形をした魔道具)を確認しました。
「リリィ様。今の私の一分一秒は、あなたの生涯年収よりも価値がある時間なのですが。手短にお願いできますか?」
「な、何ですって……!? 婚約破棄されたショックで、とうとう頭がおかしくなったのね! 可哀想に!」
リリィは勝ち誇ったように笑い、ナタリーに指を突きつけました。
「いい? あなたは今、この国で最も卑劣な悪女として刻まれたのよ。明日には王都中の噂になって、どこへ行っても石を投げられるわ。今さら逃げようとしたって無駄よ!」
「石ですか。できれば金鉱石か、希少な魔石にしていただけるよう、市民の皆様に周知しておいていただけますか? あとで回収に伺いますので」
「……は? 何言ってるのよ、この女……」
リリィが呆気に取られている間に、ナタリーは彼女に一歩近づきました。
その威圧感に、リリィは思わず後ずさります。
「リリィ様。あなたは一つ、大きな勘違いをしていらっしゃいますわ。私がなぜ、あのナル……いえ、ジュリアン殿下の傍にいたか、お分かり?」
「そ、そんなの、将来の王妃の座が欲しかったからに決まってるじゃない!」
「ブブー。不正解です。正解は『公爵令嬢としての義務』と『お城の食事が無料だったから』ですわ。でも見て。今の私は、そのどちらからも解放されたの。つまり……」
ナタリーは、自身の腕の筋肉を軽く叩いてみせました。
「今の私は、私を縛るすべての鎖を断ち切った、最強の自由人。あなたの相手をしている暇があったら、一分でも早く家に帰って、隠し財産をトランクに詰めなきゃいけないのよ。分かったらそこを退いてくださる?」
「ま、待ちなさい! 逃がさないわよ! 衛兵! 衛兵を呼びなさい! この女、まだ私に謝罪もしていないわ!」
リリィの叫びに反応して、数名の衛兵が駆け寄ってきました。
彼らは困惑しながらも、王子の寵愛を受けるリリィの言葉に従おうとします。
「あー……。なるほど、そう来ますのね」
ナタリーはため息をつくと、懐から一通の封筒を取り出しました。
それは、もしもの時のために用意していた「自分宛ての偽造……ではなく、緊急用の通行許可証(自作)」です。
「衛兵の皆さん、ご苦労様。実は私、殿下から極秘の任務を言い渡されておりまして。この場を速やかに立ち去る許可を得ているのです」
「えっ、殿下からですか?」
衛兵たちが首を傾げました。
「ええ。殿下は仰いました。『ナタリー、君の顔は見たくない。今すぐ視界から消えろ』と。これは公衆の面前での公式な命令……つまり、王命に等しい退去命令ですわよね? 私は今、その命令を忠実に実行しようとしているのです。邪魔をする者は、王命違反と見なしますわよ?」
「そ、それは確かに……」
衛兵たちは顔を見合わせ、ナタリーに道を開けました。
論理の飛躍も甚だしいですが、ナタリーの気迫に押されたのです。
「な、何よそれ! そんなの屁理屈よ! 戻ってきなさい!」
地団駄を踏むリリィを背に、ナタリーは優雅に手を振りながら廊下を突き進みます。
そして、誰も見ていない角を曲がった瞬間、彼女はドレスの裾をたくし上げました。
「よし、ここからは時間との勝負よ! 公爵邸の私の部屋にある金庫、あれの暗証番号を忘れないうちに……。えーっと、四、二、九、……『よく食う』ね。オッケー!」
ナタリーは、重いドレスを着ているとは思えないほどのスピードで、夜の王宮を疾走しました。
その姿は、追放される悲劇の令嬢というよりは、獲物を狙う狩人のようでした。
「お父様がパーティーから帰ってくるまで、あと一時間。それまでに私物(換金性が高いもの限定)をすべて馬車に積み込むわ。待ってなさいよ、私のセカンドライフ!」
ナタリーの瞳には、自由への情熱と、それ以上に「これからの生活費」への執着がギラギラと輝いていました。
彼女にとって、婚約破棄のショックなど、道端に転がっている小石程度の価値もなかったのです。
王宮の門をくぐり、夜風を浴びたナタリーは、大きく深呼吸をしました。
「ふう。さようなら、クソ……失礼、愛しき王宮生活。これからは自分の腕っぷし一本で、優雅な隠居生活を勝ち取ってみせるわ!」
こうして、ナタリー・エヴァンスの「華麗なる逃亡劇」が本格的に幕を開けたのでした。
ナタリーは、まるで重力から解放された宇宙飛行士のような軽やかな足取りで進んでいました。
しかし、背後から「待ちなさーい!」という、いかにも悪役を引き止めるためのテンプレートのような声が響きます。
振り返ると、そこには顔を真っ赤にしたリリィが、ドレスの裾を振り乱して走ってくるところでした。
「ナタリー様! まだお話は終わっていませんわ!」
ナタリーは足を止め、心底面倒くさそうに時計(の形をした魔道具)を確認しました。
「リリィ様。今の私の一分一秒は、あなたの生涯年収よりも価値がある時間なのですが。手短にお願いできますか?」
「な、何ですって……!? 婚約破棄されたショックで、とうとう頭がおかしくなったのね! 可哀想に!」
リリィは勝ち誇ったように笑い、ナタリーに指を突きつけました。
「いい? あなたは今、この国で最も卑劣な悪女として刻まれたのよ。明日には王都中の噂になって、どこへ行っても石を投げられるわ。今さら逃げようとしたって無駄よ!」
「石ですか。できれば金鉱石か、希少な魔石にしていただけるよう、市民の皆様に周知しておいていただけますか? あとで回収に伺いますので」
「……は? 何言ってるのよ、この女……」
リリィが呆気に取られている間に、ナタリーは彼女に一歩近づきました。
その威圧感に、リリィは思わず後ずさります。
「リリィ様。あなたは一つ、大きな勘違いをしていらっしゃいますわ。私がなぜ、あのナル……いえ、ジュリアン殿下の傍にいたか、お分かり?」
「そ、そんなの、将来の王妃の座が欲しかったからに決まってるじゃない!」
「ブブー。不正解です。正解は『公爵令嬢としての義務』と『お城の食事が無料だったから』ですわ。でも見て。今の私は、そのどちらからも解放されたの。つまり……」
ナタリーは、自身の腕の筋肉を軽く叩いてみせました。
「今の私は、私を縛るすべての鎖を断ち切った、最強の自由人。あなたの相手をしている暇があったら、一分でも早く家に帰って、隠し財産をトランクに詰めなきゃいけないのよ。分かったらそこを退いてくださる?」
「ま、待ちなさい! 逃がさないわよ! 衛兵! 衛兵を呼びなさい! この女、まだ私に謝罪もしていないわ!」
リリィの叫びに反応して、数名の衛兵が駆け寄ってきました。
彼らは困惑しながらも、王子の寵愛を受けるリリィの言葉に従おうとします。
「あー……。なるほど、そう来ますのね」
ナタリーはため息をつくと、懐から一通の封筒を取り出しました。
それは、もしもの時のために用意していた「自分宛ての偽造……ではなく、緊急用の通行許可証(自作)」です。
「衛兵の皆さん、ご苦労様。実は私、殿下から極秘の任務を言い渡されておりまして。この場を速やかに立ち去る許可を得ているのです」
「えっ、殿下からですか?」
衛兵たちが首を傾げました。
「ええ。殿下は仰いました。『ナタリー、君の顔は見たくない。今すぐ視界から消えろ』と。これは公衆の面前での公式な命令……つまり、王命に等しい退去命令ですわよね? 私は今、その命令を忠実に実行しようとしているのです。邪魔をする者は、王命違反と見なしますわよ?」
「そ、それは確かに……」
衛兵たちは顔を見合わせ、ナタリーに道を開けました。
論理の飛躍も甚だしいですが、ナタリーの気迫に押されたのです。
「な、何よそれ! そんなの屁理屈よ! 戻ってきなさい!」
地団駄を踏むリリィを背に、ナタリーは優雅に手を振りながら廊下を突き進みます。
そして、誰も見ていない角を曲がった瞬間、彼女はドレスの裾をたくし上げました。
「よし、ここからは時間との勝負よ! 公爵邸の私の部屋にある金庫、あれの暗証番号を忘れないうちに……。えーっと、四、二、九、……『よく食う』ね。オッケー!」
ナタリーは、重いドレスを着ているとは思えないほどのスピードで、夜の王宮を疾走しました。
その姿は、追放される悲劇の令嬢というよりは、獲物を狙う狩人のようでした。
「お父様がパーティーから帰ってくるまで、あと一時間。それまでに私物(換金性が高いもの限定)をすべて馬車に積み込むわ。待ってなさいよ、私のセカンドライフ!」
ナタリーの瞳には、自由への情熱と、それ以上に「これからの生活費」への執着がギラギラと輝いていました。
彼女にとって、婚約破棄のショックなど、道端に転がっている小石程度の価値もなかったのです。
王宮の門をくぐり、夜風を浴びたナタリーは、大きく深呼吸をしました。
「ふう。さようなら、クソ……失礼、愛しき王宮生活。これからは自分の腕っぷし一本で、優雅な隠居生活を勝ち取ってみせるわ!」
こうして、ナタリー・エヴァンスの「華麗なる逃亡劇」が本格的に幕を開けたのでした。
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